だい〝よん〟わ【男子は一人、僕ぼっち?】

 午後一番目の授業が終わり、今日最後の休み時間。時間も短い。なんと大胆な。徳大寺さんの方から話しかけてきた。僕が話しかけられたんだぜ、女子に!


「アテプレ〜ベ、オブリガ〜ドってどういう意味?」そう訊かれた。


「某大河ドラマのエンディングフレーズ」


「……」


「——が元ネタだけどポルトガル語で『また今度、ありがとうございました』という意味らしい」

 とここで徳大寺さんのノートの隅に書かれた文字を発見してしまう。


「あ、アテプレ〜ベ、オブリガ〜ドって書いてある」


「だ、だって書いておかないと訊くのに忘れちゃうから」

 あたふたしてしまう徳大寺さん!


「ときに続きはどうなったの?」と話しを逸らしてきた。


「ああ、続きを聞いてくれるんだ」


「聞きますよ」徳大寺さんは言った。

 『アテプレ〜ベ、オブリガ〜ド』よりも『さっきの続き』こそが僕にとっての本題だ!


「あれっ? どこまで言ってたっけ?」


「ヲイ!」と突っ込まれる。


「銀行だっけ?」


「違うよ。確か学校に合併先を提示されたとかなんとか」

 徳大寺さんに言われてようやく続きを思い出した。


「そう。似たような境遇にある同好会を『合併先としてどうだ』、として提示を受けた。つまり構成人員五人以下のトコってこと」


「それ、わたしに話してどうするつもりなの? そもそもなんの目的で合併するの?」

 実に冷たい反応を返された。だけど率直にそう疑問に思ったから言っちゃったんだろう。本音で行く。こっちも率直で行く。


「『大学入試を一般入試で受けない』つもりの人間からしたら実に死活問題」率直すぎる目的を言った。


「はいはいはいはい」


「いやっそれだけじゃないっ! 学校から公認されているかいないかは僕という人間の存在意義がかかっているんだ。公式記録から抹殺されるかどうかの瀬戸際なんだよ! 例えば卒アル写真とかっ」


「はいはいはいはい。で、わたしになにをして欲しいわけ?」


「そう! そこなんだよ徳大寺さんに話しかけた理由というのは」


「どういうこと?」



「え?」



「らっきーじゃない?」


「ラッキーなもんかい! 男が僕独りであと女ばっかなんて! だいたい……女子には声かけにくいしさ……」


「ごほん」

 それは咳じゃない。口で『ごほん』と音に出して徳大寺さんは喋った。


「あ、いやそのごめん。もちろん徳大寺さんも女子だよ。だけど他所のクラスの知らない女子に声かけるのってハードルが高いから。徳大寺さんは同じクラスで席も隣りだし、だから協力してもらえたらな、って思って……」


「そういうことならわたしだって鬼じゃないけど」


「えっホント?」


「やっぱり女の子はね、女子として軽く扱われることに寛容にならないってことを覚えておいた方がいいよ」


「それっていわゆる『策』だよね?」


「つまり今川くんは既存の同好会をひとつにまとめるのを手伝って欲しいのね?」


「そうっ」

 キインコロォン・カランコロォン——とチャイムがきた。今日最後の授業の始まりだ。


「アドバイスくらいならまあ考えないでもないけど……」それが徳大寺さんが僕にくれた答えだった。多少チャイムが徳大寺さんの背中を押してくれたものか。とは言えこれを『イエス』と解釈してもいいのかどうか……まあでも少しの前進であるのは間違いない!


 分かったのは『入ってくれ』は禁句だってこと。もちろん僕は満面にっこり。



 あっ『アテプレ〜ベ、オブリガ〜ド』言い忘れた。

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