だい〝さん〟わ【上意である! 直ちに合併せよ!】

「学校側の言い分はどうなっているの?」と徳大寺さんが訊いてきた。視線は宙をさまよいテレを隠しているように見える。徳大寺さんは「話したくないなら別に良いけど」と付け加えるのを忘れなかった。


 思わず言ってしまう。

「話しを聞いてくれるなんて実に嬉しい!」本当に大喜びだよ!


「う、うん」と徳大寺さんは言うのがやっと。そしてまたひと言付け加えた。「素直じゃん」と。徳大寺さんは強がりだ。


 いやっ! なにをトリップしてる! 本題だ今こそ本題に入るんだ!

「ある問題な人物が問題を起こしたために規制が強化される。学校の言い分は正にこれ」僕は言った。


「あの、よく分からない」


「世の中よくあることだよ、飲酒しての車の運転とか」


「飲酒して運転しちゃだめでしょうが」


「それはもののたとえ話。事件が起こるたびに規制が強化されるってこと。つまり或る下らない三年生が問題を起こしたらしい」

 徳大寺さんの顔がさっきより少し近い。俄然この話しに興味を持たれた様子。


「詳しく」


「総合型選抜入試って知ってるよね?」


「なんとなくね、確か自分で自分を大学に推薦するんだったっけ?」


「だいたいそんなもん。それで、入試に必要な書類にさ、同好会活動について記入しちゃった三年生がいたらしい」


「その三年って、いまの?」


「いや去年だ。その三年生が同好会の活動についてそれをさもご立派な活動のように自分で粉飾して書いちゃったから学校で騒ぎになったらしい」


「ちゃんと活動していなかったの?」


「本人は粉飾などしていないと突っ張っていたらしいけど証拠がない」


「なぜないの?」


「件の同好会の構成員が本人しかいないから」


「……」


「こうなると虚偽の内容が記されていると疑われても仕方がない」


「……ちなみに何系の同好会?」


「ボランティア系」


「……ちょっとだけ悪質かもしれない……」


「実はさ、僕らが知らなかっただけでルールは今年の四月から変えられていたんだ。今年の一年、新一年生には人数ひとりからの同好会設立ルールは適用されてない。一年については既に新ルールが適用されていたみたいなんだ」


「そうなんだ」


「二年と三年についてはそのルール変更が『急に変えるのは気の毒だ』として留保されていたんだけど、急転直下二年と三年も新ルールで縛ろうって事にされたんだ」


「そのあおりととばっちりが全ての同好会主催者に来てしまった、決まったのがなんと三日前の職員会議だって!」


 徳大寺さんは驚いたような顔をした。そして、

「わたしの知らないところでいろんなことが起こっているんだ、学校って」と言った。


「そうなんだよ」僕は相づちを打った。


「今川くんが急に話し掛けてくれなかったら知らないまま高校卒業してたよ」そう感謝(?)のことばすらも発してくれた。


「——で、そのとばっちりの中身はなんなの?」さらに徳大寺さんが訊いてくれた。だんだん調子が上がってきたぞ。


「部活動ルールの適用」


「というと?」


「構成員五名以上でないと学校公認組織として認められないとのこと」


「で、今川くんの同好会は何人なの?」


「一人に決まってる!」


「……」


 徳大寺さんは実にビミョーな顔をしている。なんかいや〜な予感がしているっていう顔を。これって『入ってくれ』って言われると勘違いされているんじゃあ……『これは絶対言うよねっ』って思われている。『あんまし入りたくない』って顔に書いてある(たぶん)。さっき少し近づいた徳大寺さんの顔の距離が元に戻っている。


「なる……ほどね。急にルールが変えられるってそういうことなんだ」話しを微妙に逸らされた。だけど僕には元々そういう気はない。敢えて気にせずに行こう。


「これは不正義だ。許せない」僕は言った。


「で、あの〜、銀行さんの方は『びすきせい』に従わなかったの?」


「そういうことはできなかった、ということだ」


「で、今川くんは?」


「従わないなんてことはできない」


「そう……なんだ」

 『拍子抜けした』っていう顔をされた。案の定言われた。


「学校が決めた理不尽なルールに敢然とみんなで協力して立ち上がるというアツ〜イ展開は無いんだ。ま、世の中そんなものだけど」

 敢えて討論はすまい。


「で、勧められたのが他の同好会との合併だ」僕は淡々と言った。

 徳大寺さんはただ黙っていた。


「銀行と同じだよ。合併して問題を片付けろと上が要求してきた」


「それで『びすきせい』なんだ」

 いちおう無意味なことは言っていないつもりだ。


「それで政府……じゃなかった学校側がどこと合併すればいいかを提示してきた」


 これは気になる(たぶん)。という顔をしている。また徳大寺さんの顔が少し近くなっている。人間は興味こそが全てである。現金なものでいや〜な予感もどこへやら、といった風だ。などと思っていたらいきなりチャイムが。

 キインコロォン・カランコロォン——それは昼休み終了のチャイム。


「では徳大寺さん。アテプレ〜ベ、オブリガ〜ド」


「はぃ?」

 ともかくもう時間が来てしまったのだ。今はこれ以上は話せない。

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