だい〝いち〟わ【主人公今川真は隣の席の女子に話しかけられるか?】

 大河ドラマを見るのが好きだ。大河ドラマに出てきた貴族のことを思い出すと思わず口元が弛んでしまう。思い出し笑いしてしまう。いやもちろん勇ましい戦国武将も好きだ。ブオオオオオオオーっブオオオオオオオーっ!(ホラ貝の音)「うおおおおおおー! 者ども突撃じゃぁーっ」って言いたくなる。いや違うっ! ダメだすぐに妙な想像にトリップしてしまう。


 麿の名は今川真(いまがわ・まこと)……じゃないっ! 僕はどうも脳天気で困る。こんなんだから友だちがいなくても学校で平然としていられるのだ。しかし「友だちがいなくてもいいや」などと、そうも言っていられなくなってきた。

 今から僕は隣の席の女子に声を掛けようとしている。だからか、トリップしてるのは。だんだんとドキドキしてくる。


 隣の席に女子が座っている。これは別に変わったことじゃないよね。通っている高校が男子校じゃなければみんな当たり前だよ。で、ここからが『みんな』じゃなくなると思うなぁ。隣の席の女子と口をきいたことがある男子はどれだけいるのだろう? 少なくとも僕はたまにはあるよ。小学生から高校生の今の今まで、口をきく場合ときかないで過ぎてしまう場合と両方の場合があるよ。


 隣の席の女子の名前は徳大寺聖子(とくだいじ・せいこ)。十六歳(たぶん。まだ五月だし)。高校二年だよ! ごくごく普通の人畜無害ないたって普通な女の子っぽい。

 『ぽい』と言ったのは実は普通じゃないってこと。隣の席に座っていて気づくことがある。『友だち』が来ているところを見たことがない。友だちがいないっぽい。しかし暗くしてるわけでもない。平然としている。まるで僕が性転換したみたいだ。言ったらすごく怒ると思うけど。その女子に声を掛けようとしている。

 

 ところで変わったことってあって欲しいのかな。ない方がいいのかな。そんなことを他の人は考えるのかな? でもさ、変わったことってさ結局変わった人と関わっちゃうってことだよね。みんなそんな目に遭いたいのかな。僕は実は遭いたくないよ。でもなぁ遭いたくないなんて思っていると遭っちゃうんだよね。


 僕の通っている高校は普通高校だ。県立の。偏差値も普通で可も無し不可も無しな普通の高校だよ。だけどこれまでこの学校は普通じゃなかった。それを普通にしようという試みが始まろうとしている。そのせいで僕の高校計画が崩れようとしている。


 そして今僕は変わった人々と関わりを持たされようとしている。もちろん自分のことを棚に上げますけど。いやっ、なにぐずぐずしてんだ! しっかし女子に声かけるってけっこう逡巡するよなぁ。

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