過げき(劇? 激? 撃?)的歴女倶楽部

齋藤 龍彦

ぷろろーぐ【脇役達の謀議『あの危険人物をマークせよ』】


『紹介文』(782文字)


 某県某県立高校には構成人員僅か一名申請者本人一名のみで公認同好会が立ち上げられるという奇妙なルールがあった。だが学校側はこのルール廃止を決定。本編主人公男子はこれの影響を受ける該当者。


 とは言え学校側も問答無用の解散命令は出さず新ルールを提示した。それは『人数を五人集めろ』。合併して新ルールに適合するならこれまで通り公式に学校に認められる、というもの。

 学校側は四名以下でやっていて且つ系列が似たような同好会のリストを各同好会の主催者に渡す。主人公は『歴史系の同好会』を主催していたためそうした系列のリストを受け取っていたのだが、そのリストに問題があった。そこに書かれた名前は主人公以外全員女子で、男子一人に女子五人の総勢六名。

「自分(唯一の男子)抜きで五人集まってしまう!」と主人公は焦る。女子だけのグループにどうやって入っていくのか……


 その主人公の隣りに少々変わった女子がいた。主人公はこの女子なら協力してくれると考えた。彼女を味方にしてリストに名前のある女子たちと合併交渉を手伝ってもらおうという策だ。

「女子のグループに入るには女子の助けが要るんだ」と訴え助けを乞い、そして協力を得ることに成功する。が、そこは御一人様で同好会などを主催している歴女達。合併交渉は一筋縄ではいかない。だが試行錯誤の末全員参加で事は成る。


 ところがこの成功を快く思わない者がいた。それは次期生徒会長候補(女子)。彼女は新同好会のメンバーの中の一名に遺恨があった。主人公男子と歴女たちは次期生徒会長候補に近い者から『問題人物がいる』と告げられ言外に『排除せよ』という警告を受ける。だが主人公は排除しないと決める。外部からの圧力、そして必ずしも仲良しクラブではない内部。難しい立場に立たされた主人公だが、そんな問題人物が近くにいるのなら自分も変われるのではないか、と考え始めるのだった。



===============(以下本編)===============


「小早川君、よくよくあの連中から目を離さないようにね」


「マークしろと?」


「そうよ」


「しかし副会長、同好会を整理統合しようってのは先生方の考えじゃないっスか」


「監視よ」


「それって要するに見てるだけでいいってことっスよね?」


「しょうがないでしょ!」


「僕に怒鳴らないでくださいよ」


「まったく学校はアイツの危険性を認識しないなんてどうかしてる」


「それ私怨じゃないっスか?」


「違うわよ。公憤よ」


「しかし学校が同好会の整理統合を方針としているのに生徒会がそれに反して妨害してちゃ話しにならんでしょ?」


「監視と言ったでしょ」


「だけど女の子のグループを僕が監視してたらストーカーにされるじゃないっスか」


「わたしも一応女の子だけどね」


「……いくら副会長の頼みでも僕は妨害はしませんよ」


「分かってるわよ」


「しっかし分からないなぁ」


「なにがよ」


「いやね、彼女たちいわゆる歴女でしょ? 特定の戦国武将に魅力を感じて愛でたりする女子でしょ? そんなコたちが集まっても『ウンチクお喋り部』にしかならないっスよね。気にしすぎじゃないかと思うんスけど」


「それは『正統派の歴女』だったらのことでしょ?」


「正統派じゃないんスか?」


「そういうある意味当たり前のことしかしなさそうなら、わたしがここまで憂慮するはずないでしょ。だいたい『歴女=戦国武将に興味がある女子』って誰が決めたの?」


「いや、イメージ的に……」


「歴女は戦国女でも武将女でもないの。だいたい幕末に興味がある女子だっているでしょ」


「まぁ、そりゃそうっスね」


「ほうらごらんなさい」


「いや、今の意味が良く分かんなかったんスけど」


「小早川君、一を聞いたら三くらい察しなさい!」


「んな無茶な」


「いい? 歴女は戦国時代限定じゃなくて幕末の志士を好む歴女もいる。もうこの時点で時代が限定されてるなんてとても言えない。こうなるとこの他の時代にまで拡張する者がいても不思議じゃない。そしてね、マニアってのは発掘してくるものなのよ!」


「つまり副会長はそういうマニアも含めて『歴女』って定義なんスね」


「そうよ! 歴女=戦国武将しか連想しないってのは想像力の貧困よっ!」


「しかしマニア……いやこうなると歴オタ女と言った方がいいのかもしれませんけど、いくらオタクが気に食わなくてもそこまで目の敵にしますかね?」


「わたしはね、個人でなにかやってる程度ならここまで気にしない。集団を造られるのが問題なのよ」


「堂々巡りになるんスけど『集団を造れ!』って言ってるのは学校で、先生方の意向なんですけど」


「分かってるわよ。それくらい!」


「しかし分からないなぁ」


「なにがよ」


「集団くらい造るでしょ? 人間なんだし。むしろ今までが変わっていたくらいで」


「あの中に危険人物がひとりいる」


「危険?」


「もし集団化が成ったとしたらソイツが集団を仕切るのは確実なのよ」


「集団ができればリーダーくらいできるのは当然じゃないスか?」


「そのリーダーが問題なのよ。絶対にアイツが支配する」


「それが私怨だと思うんスけどね」


「違うわよっ! いい? 小早川君。人間が個人単位でできることには限界がある。だけど集団化すればそんな限界は超えてしまう。そしてどんな集団も最初は極小なの」


「なんて言うのかなぁ、副会長は思いこみが激しすぎると思うんスけどね」


「なんですって?」


「でも生徒会が直々にやるんじゃ後々問題になるっしょ? 秋には会長選挙に立候補するんだろうし」


「それくらい心得てる」


「ならいいですよ。僕やりまスっけど」


「やってくれるのね? 小早川君」


「副会長たっての頼みじゃあね。ただしやるのは情報の収集と報告のみですから」


「失敗すればいいのに……」


「はい?」


「あの連中のグループなんてできなければいいのに」

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