第6話 ヤンデレな後輩に昔話をした件
「――私は田舎町の出身でね、小学校までをそこで過ごしたが、中学受験して上京したんだ」
私はラーメン屋で
「女子校で、中学から高校まで一貫校で、当時は学生寮で暮らしていたんだが、なかなか大変でね。自室にいると毎日のように女の子が訪ねてくるんだ。先輩後輩同級生、私の何に興味があるのやら。自習室に閉じこもるか、外出しなければ一人の時間が取れなかったから苦労したよ」
「人気があるのも困りものですね」
九段坂は感心したように頷く。こういった話をすると「自慢してるの?」と思われそうだが、彼はそんな素振りは見せなかった。
「それで、まあ……女子のドロドロした、嫌な部分も見えてしまってね。寮内でイジメなんかもあったから……。私は女の子にチヤホヤされていて標的にはされなかったが、もう女子校はこりごりだと、大学は共学にしたのさ」
「そこで、
九段坂は忌々しそうな顔をする。
九段坂と源社長は犬猿の仲といったところか。どうも私を巡って争っているらしいことは昼休みの会話でなんとなく察したのだが、どうしたものか。悩みながらも私は話を続ける。
「私は大学で心理学を、社長は経営学を学んでいたんだ。知り合ったきっかけは学内のサークルでね。共通点が絵を鑑賞することだったのさ」
私と源社長は、美術サークルで出会った。彼の絵に関する知識は膨大で、自然と私たちは美術館などに出掛けて、二人で美術鑑賞をすることが多かった。その頃から、私は社長と付き合っているという噂が流れていたが、社長は何故か「ノーコメントです」と否定はしなかった。しかし、この話をすると九段坂が気分を損ねそうなのでこの辺は省略しておこう。
「それで、社長が仕事を継いだときに、私を誘ってくれたのでそのまま入社して今に至る、かな」
「へえ……」
源社長は父の仕事を継いで新たな社長になった。そのときは「僕の秘書になってほしい」と誘われたのだが、私は「他にもっと適任がいると思うので」と辞退した。秘書としての教養もないし。秘書検定でも受けとけばよかったかな。
「まあ、それで昔話は終わりさ」
私は割り箸をパチンと割って、ようやくラーメンに取り掛かる。九段坂も、ふうふうと麺に息を吹きかけていた。
「ひとつ、確認したいのですが」
九段坂はずるるっとラーメンを一啜りしてからこちらを見る。
「
「少なくとも私は付き合っていたつもりはないよ」
今でも社長はたびたび「僕のファーストレディになってくれないか」とからかってくるが、本気ではないだろう。彼は彼で大層モテるし、社長という身分ならば婚約者が既にいてもおかしくない。
「なるほど……」
九段坂は納得したのか、またラーメンと向き合い、ずるるっと啜り始める。
「ここのラーメン、美味しいですね。先輩はいろんなこと知ってるなあ」
「今度、君のオススメのラーメン屋さんにも行ってみたいな」
「うーん、それもいいんですけど」
九段坂はシナチクを齧りながら俯く。
「……今度、またデートに行きませんか」
九段坂のほうを見ると、俯いた彼の耳は真っ赤に染まっていた。
「いいよ」
私はそう短く返すのだった。
〈続く〉
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