第7話 ヤンデレな後輩が女の子と仲良くしていた件
私――
週末には後輩――
部署のコピー機を使っていたのだが、コピー用紙不足で倉庫から新たな備品を取り出し、部署に戻ろうとすると、九段坂の姿が見えた。
声をかけようとして――私は止まった。曲がり角の壁に身を隠す。
何故そんなことをしたかというと――九段坂が、女子社員と立ち話をしていたからである。あの、新入社員歓迎会で嘔吐してからまったく誰にも相手にされなかった九段坂が、である。いや、相手にされなかった、は過言である。どちらかというと腫れ物に触るように同情と憐憫混じりの対応をされていた。
とにかく、そんな九段坂が他人と、しかも歓迎会以来、汚いゲロ人間として扱ってきた女子社員と話ができるようになっている。これはすごいことだ。私が間に割って入るのはなんとなく躊躇われた。せめて何を話しているのか、内容は気になるのだが……。
女子社員は笑っているようだ。対する九段坂は無表情で相手の話を聞いているようだが……――笑った。
あの九段坂が! 女の子と笑顔で対話している!
私は感動のあまり、胸がギュッと締め付けられる感覚に襲われた。胸が痛いくらいだ。よかった、よかったな、九段坂……!
私はそっとその場を離れる。遠回りにはなるが、エレベーターで別ルートから部署に戻ろう――
「――茜先輩。どこへ行くんですか?」
当の九段坂から声をかけられ、心臓が跳ね上がった。
「く、九段坂くん!? こんなところで会うとは奇遇だね!」
「先輩、ずっと俺を見てたでしょう」
バレてた。
「あの女の子とはもう話は終わったのかい?」
「ええ、別に大した用ではないので」
「そ、そうか」
結局、最初のルートで九段坂と一緒に部署への道を歩いている。
「いやしかし、君が他の社員と仲良く話せてるようでよかったよ」
「仲良く、見えましたか?」
「? うん」
九段坂は微妙そうな顔をして「……そうですか」と顎に手を当てていた。
「そうだ、さっきの子をデートに誘ったらどうだい? もっと仲良くなれるチャンスかも、」
「――は?」
九段坂の声色があまりに冷たくて、思わず隣の顔を見上げると、怖い顔をしていた。
「先輩、冗談もほどほどにしてください」
九段坂は瞳孔をこれでもかと開いている。怒っている? なんで?
狼狽える私に、「……すみません」と、九段坂はいつもの雰囲気に戻る。
「あのですね、先輩。あの人とはそこまで仲良くないので、デートとかそういうのじゃ、ないんですよ」
九段坂は小さい子に言い聞かせるように、区切りながら語りかける。
「俺は、デートするなら先輩としたいんですよ」
私の痛んでいた胸が、ポウと温かくなる。私は気付いていなかった。いや、気付かないふりをしていたのだ。このときの私には知る由もなかったのだが――。
――胸の痛みの正体は、嫉妬だということに。
〈続く〉
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