第31話 キマイラ

キマイラの迫力にリアンは圧倒され、足を震わせながらも杖を構えどう戦うかを必死に考えている。

ライオンのような顔と胴体を持ち、背中にはコウモリのような翼が生え、尻尾は蛇の頭。まさに驚異の魔物としては充分だろう。

一方のローラとオーロラはその場に佇んだままキマイラを見つめている。

その様子に、アストは不満げな顔を浮かべ始める。

キマイラがいるこの部屋に落とされた人間は恐怖のあまり叫んだり、泣き出したりなど何回も見てきていたが、何も反応せずただじっと眺めているだけなのはローラ達が初めてだった。

ローラとオーロラが目を合わせ、少しするとローラがリアンに話しかけた。


「ねぇ、リアンちゃん。もう終わらせていい?」

「え?」


そう言うと、オーロラが右手を掲げキマイラに向かって呪文を詠唱する。

すると次の瞬間、先ほどまで威勢よく吠えていたキマイラが横たわりそのまま動かなくなってしまった。


「はい、おしまい!」


オーロラはパンッと音を立てて両手を合わせると、アストの方に振り向いた。

アストは顔を引き攣らせ、笑顔を保っていたがオーロラはそれに気づくと、腹を抱えて笑い始める。

それを見ていると、アストは顔を赤くし、オーロラに向かって文句を言い始めた。


「き、貴様!!!不敬であるぞ!!!この私を見て笑うなど」

「だ、だって自分のキマイラを倒されたくらいであんなに顔真っ赤にしちゃって。あははははははは!!!!!」

「言わせておけば・・・!」

「はぁ、そもそも私達にはキマイラなんて珍しくもなんともないのよ」

「え?」

「あれ、言ってなかった?キマイラってまだ数年前まではあちこちに生息してたの。でも、もういないでしょう?今は絶滅したって言われてるはず」

「確かにそうだが、それとこれの何が関係して」

「キマイラは全部うちで引き取ってたのよ。だから倒し方も知ってる。引き取った子達は全員ローラちゃんが殺しちゃったけどね」

「な、なんだとおおおおおお!?」

「ち、ちょっと待ってください!そんなことどうやってもできるはずが」

「できるのよ、キマイラは強い上に倒しづらいっていう厄介な魔物だったから。全ギルドが喜んで協力してくれたわ」

「まさか、そんなことが・・・」

「さてと、そろそろ私達も脱出させてもらうよ」


オーロラがそう言うと、先ほどまで怒っていたアストが急に笑みを浮かべ始める。


「おっと、それはできないな。何せそこはこの国の一番地下。そして誰も気づかない秘密の場所だ。だからお前達ではどうしようも」


アストが話をしている間に三人の姿が消え、アストは画面を二度見する。

さっきまでそこにいたはずの三人がそこにはいない。いるのは横たわったキマイラだけ。

その時、アストの右肩をポンポンと優しく叩く。

始めは手を振り解き、画面に集中していたが、二度目にまた肩に手を置かれた時、勢いよく後ろを振り向く。

すると、そこには先ほどまで地下にいた三人がそこに立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る