第28話 国王の正体

闘技場を見渡すと、様々な人々が手に髪を握りしめて叫んでいる。

この前、ローラがギルドで行なったものとは全く違う戦いが糖業の中で繰り広げられている。

リアンが呆気に取られていると、ローラがリアンの肩を軽く叩き、観客席の上を見るように指をさした。

すると、そこには闘技場全体を上から見渡せる特等席のようなものを発見する。

しかし、驚くべきことはそこでは無く、そこに座っていたのがこの国の王であるアストなのだ。

アストは闘技場で必死になって戦っている選手達を笑いながら観戦している。

リアンはこの事を放っておくわけにも行かず、ローラと一緒に特等席まで向かおうとした時、ローラがリアンの手を止める。


「ねぇ、リアンちゃん。ここは私に任せて」

「何か策があるのね」

「うん、だから何が起きてもそこでおとなしく見ててね」

「それは別に構わないけれど・・・」


そう言い残すと、ローラはリアンの元を離れ何処かに歩いて行ってしまう。

ローラが去り際に、少し笑みを浮かべながらボソボソと何かを呟いていたのだが、全く聞き取ることができなかった。

リアンが考えている間にも闘技場の試合は進んでゆく。

リアンが闘技場の方へ振り向くと、男の悲鳴が聞こえた後に大きな歓声が辺りから響き渡る。

どうやら勝負が終わったようだ。兵士が二人闘技場の左の入り口から出てくると、地面に血まみれで倒れている男を担架に乗せ、運び出す。

もう一人は雄叫びをあげながら右の入り口に戻って行く。試合が終わり、次の殺し合いが組まれる。

次の組み合わせは一対一のタイマンではなく、ラロードという選手の百人組手らしい。

会場も歓声に包まれる。リアンはというと、ローラのことが心配で先ほどの試合の内容が一切頭に入っていなかった。

が、ラロードの名前を聞いた瞬間リアンは勢いよく階段を駆け下り、闘技場の手すりを掴み、辺りを見渡す。

この名前はリアンにとって『絶対に出してはいけない名前』であり、この名前を知っているのはこの世界で四人のみ。

そしてリアンの目に飛び込んで来たのはラロードと紹介され、左の入り口から現れる小柄な少女。

装飾として頭に魔物の頭を被って顔を隠し、服は動きやすさのために極限まで露出を高くし、右手に一本の刀を持つ。

その異様なオーラに辺りは沈黙に包まれる。特等席で見ていたアストも呆気にとられている。

しかし、そんな中で一人の少女だけが声を発する。

それは、怒りをあらわにするリアンである。


「どうしてあなたがここにいるの!その名前はもう使わないって約束でしょ!」

「・・・」

「どうしてまたあなたは同じ事を・・・」

「・・・」


リアンが必死に問いかけるも、ラロードは何も反応しない。

ラロードはそのまま闘技場の真ん中に仁王立ちをする。

しばらく意識をなくしていた審判も意識を取り戻し、試合開始のゴングを鳴らす。


「百人組手、開始!!!!!!!!」

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