第5話 新たなる存在

ギルドから出ると、二人はこの国の中心部にある王城に向かっていた。

王城の門まで向かうと、門の前に立ってる兵士が二人に気づき、門の正面に立つ。


「これはこれはリアン様にローラ様。王より話は伺っております。さ、どうぞ中へ」

「いつもありがとう」

「いえ、これも私の勤めですので!」


リアンが軽く兵士に礼を言っている間にも、ローラはどんどんと先へ進んで行き、リアンも慌ててローラの後を追う。

城の中に入ると、使用人が三人待ち構えており、荷物を預けるとそのまま王様の部屋まで案内される。

実はローラはここに来ることはそんなに乗り気ではない。その理由は簡単だ。

王の部屋に入ると、一人の老人が玉座に座り本を眺めている。使用人達がドアを閉め、王様とリアン達三人のみになると、王は本を閉じ、玉座から立ち上がる。


「おぉ、愛しの我が娘達よ。よくぞ戻ってきた!さぁ、再会のハグでもしようじゃないか!!」


王は両手を広げ、こちらに寄って来るように目で合図を送るが、二人は一切行こうとせず、それどころか軽蔑の眼差しで王を見つめる。


「お断りします」

「私も。ていうか、私は娘じゃないし」

「相変わらず厳しいのぅ」


そう、この国の王であり、リアンの父親であるガーネ・ユウキが原因である。

この王は何かある度に二人を呼び出し、その都度ハグをしようとしてくる。

見た目はもう老人なのに、いまだに衰えぬ動きはどこか奇妙ではあるが、断られるとわかってても何度も挑戦し続けるせいで、兵士達からはマゾなのでは?と密かに噂が立てられている。

玉座から降りて必死に会話をしようとしていたが、二人が何も言わないので咳払いをしてから玉座に座り直し、指を鳴らす。

すると、王が煙に包まれ、煙が消える頃にはそこに居た老人はいなくなり、若い青年が出てきた。

しかし、周りにいたものは驚く様子はない。というのも、この青年は先程までハグを求め続けていたあの老人であり、この姿こそが王の本当の姿である。

今は訳あって老人の姿をしているが、リアンとローラはこの事について知っているため、重要な話の時のみ元の姿に戻る。


「とりあえず本題に入ろうか」

「はい、お父様」

「今回は盗賊団のボスの処刑だけど、いけるかい?」

「もちろん」

「よし、それじゃあ早速向かおうか。もう国民が待っているはずだからね」


三人は話を終えると、王都の中心地に向かう。

すると、既にそこにはたくさんの人々が集まっている。

彼らはこれから始まる処刑を見物しに来たもの達だ。

壇上にローラが上がると、後ろから兵士が拘束された状態の盗賊団「ネフライト」のボス、ジェードと共に上がって来る。

壇上にジェードを座らせると、ローラが鞘から刀を抜き、構えた。


「何か言い残すことはあるかしら?」

「・・・何もねぇよ」

「そ。それじゃあ、さよなら」


ローラが刀を振り下ろし、鞘にしまった瞬間、ジェードの頭部が首からずり落ち、落下した。

その光景を目の当たりにした民衆からは悲鳴や歓声が聞こえてきたが、ローラはそんなことはお構いなしに落とした首を拾い上げ、うっとりしたような目で首を見つめた。

そして、誰にも聞こえないような小さな声で「綺麗・・・」と一言だけ呟く。

その時だった、フードを被っていた人物がそのままどこかへ走り去っていく姿を兵士が目撃し、応援要請のサインを送る。

兵士が尾行を続けると、その人物は森の中に紛れ込んでしまう。


森に逃げ込み、追っ手を巻いたことを確認すると、男は息を整えニヤリと笑みを浮かべる。


「ジェード様は処刑されてしまったが、今この時をもって再び我らがボス、ジェード様が復活なされる!!」


そう叫びながら男はフードを外し、ポケットから出した石を空へ掲げ、呪文を唱える。

詠唱を唱え終わると、男は高笑いをしながら復活の瞬間を待ち構える。しかし、何分経っても辺りに変化は何も起きなかった。

そればかりか、男は追っ手の兵士に追いつかれ、完全に包囲されている。

男は今の状況を理解できておらず、棒立ちのまま立ちすくんでいた。

そこに国王が姿を表し男の前に立つと、手に持っていた石を奪い、空に掲げてしばらく眺める。

が、次の瞬間持っていた石を地面に思いっきり叩きつけた。


「これがリザニウムとは、全く笑わせる。ただの偽物の石じゃな」


石を目の前で砕かれた衝撃で我にかえった男は、王に向かって叫ぶ。


「な、なんてことをしてくれたんだ!これは、商人から買った貴重な・・・」

「あの石は今、存在しないんじゃよ。だが、仮にこれが本物だったとしても、お前達のボスは生き返らなかったぞ?」

「な、なんでそんなことが言い切れるんだ」


そう聞かれて、国王がゆっくり話始めた。


「あの子が持っていた刀は少し特殊での、なんでも切られた者の魂が消えて無くなるらしい。だから蘇生魔術でも、蘇生アイテムを使っても魂がないから蘇らせるということは不可能なのじゃよ」

「そ、そんなのアリかよ・・・」

「ほっほっほ、こんな情報出回ってないから知らなくても仕方がないがのぅ。さて、そろそろお主らの仲間も捕まっている頃じゃろう。お主もおとなしくこちらに来なさい」

「全員捕まってるだと、そんな見え透いた嘘を吐くんじゃねぇ!!」


怒りながら男はポケットから召喚石を取り出そうとするが、手に取った瞬間、その石は粉々に割れてしまう。

召喚石が粉々に砕け散ったのを知った瞬間、男は震える。

あいつは何もしていなかった、何もしようとしなかった。

でも、やられたのは俺の召喚石だけ、つまり狙おうと思えば俺だけを殺せた・・・

男は足を震わせていたが、ヘラヘラと笑いながら喋り出す。


「で、でも残念だったな!召喚石が割れた時、そこに封印されていた魔物が目覚めるんだ!」


割れた召喚石が光出し、森に大きなドラゴンが現れる。

兵士達も武器を構え、応戦しようとしたが、王は何も動じてはいない。そればかりか、余裕の表情を浮かべている。


「そうじゃのう。だがな、誰も被害は喰らわないのじゃ」

「な、なぜだ!」

「なぜってそれはもう、倒してしまったからのぅ」


男がドラゴンに目を向けると、体の至る所に深い切り傷が刻まれ、ドラゴンは死んでいた。


「嘘だろ・・・俺のドラゴンが」

「ほほほ、次はもう少しマシなのをもって出直すが良い」


そう言い残すと、国王は笑いながら森を後にした。

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