第2話

 外は冷たい雨が降っていた。雨の日の任務は実に厄介だ、足元がいつもより滑りやすく、思うように体が動かせない。アドラー地区に潜入し、物陰に隠れながら移動していると、やたらと銃声が派手に響いている場所があった。おそらくここが今日の目的地だろう。酒場の樽の隙間から様子を見てみると、20人くらいの男たちが銃やナイフを持って荒れ狂っていた。後ろにある大きな建物が彼らの拠点だと思われる。「おいおい、結構いやがるじゃねーか」予想以上に人数がいるため、私は暫く黙り込んで考えた。全員で突撃すれば拠点の中にいる奴らに気づかれて敵の対処が困難となる可能性がある。私が息を殺して外の敵を片付け、拠点内の敵は彼らに任せる。そうすれば最も効率が良いし、部下を失うリスクも低い。頭の中で計画を整理し、立原と末広さんに作戦を伝えた。「私は手前にいる奴らを片付けます。2人はその間に拠点に入って敵を排除し、トップを捕らえてください」そう言うと2人は驚いた顔でこちらを見た。「あの人数を一人で対抗するのは無茶です」「そうだぞ、全員で片付けてから行くのが妥当だろ」最初の任務から部下に反感を買われてしまったが、生憎今は目の前の事件の解決方法を模索するので頭がいっぱいだ。「これは上司命令です」そう言って私は、敵の前に身を晒した。銃弾がこちらに向かってくる直前に一番手前にいた男をナイフで突き刺し、その横にいた男たちごと蹴り飛ばした。背後から近づいてきた男の口に手榴弾を突っ込み、即座に拳銃に持ち変えて遠方にいる奴らを片っ端から確実に撃っていく。すると視界に立原と末広さんが拠点に入っていく姿が見えた。どうやら私の言葉を信じてを実行してくれたらしい。私は酒場に積まれていた樽を敵の方に崩し、ワインを投げつけた。敵の視界が狭くなった隙に銃弾を補充し建物の影から撃ち込んでいき、もう一度手榴弾を投げつけた。敵が怯んでいるのを確認して拠点に向かう。その途中に敵が落としたショットガンを見つけ、すかさず生き残っていた敵を撃った。

見渡すと全ての敵が倒れていた。血と煙が散乱している。私は急いで拠点の中に入った。疲労で足元がふらつく。持っていたショットガンを床に捨てて奥の部屋に進むと立原と末広さんがこの組織のトップと思われる男を縄で縛り、しっかりと捕らえていた。「ありがとう、信じてくれて」真っ先に浮かんだ言葉をそのまま口にした。敵からの銃弾をかすってできた傷が痛み、歯を食いしばった。「あなたの強さは本物だ」末広さんはそう言って、ポケットの中からライターとタバコを取り出し、火をつけた。「ただ、くれぐれも無理しないように」真っ白な煙が部屋中に広がる。「まさかあの人数の敵をたった一人で片付けちまうなんてな。すげーよ、成宮」2人の言葉に胸がぎゅっと締め付けられて、目頭が熱くなった。返す言葉が見つからずそのまま立ち尽くしていると、立原が溜息をついて心配そうな顔立ちをしてこちらへ近づいてきた。「でも、その傷が治る頃には、もっと俺らに頼ってくれよな」そう言っている立原にも傷がたくさんできていて、全然説得力がないなと思った。でも、幾分か心の重荷が軽くなった気がした。

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月とナイフ S音 @07cerasus30

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