第2話 スクールデイ2

あれから、先生の頼み事であった教材を教室にもっていった。教材一冊に結構厚さがあり、何回かに分けて持っていったのだが、あれ絶対一人でもっていく量じゃないだろ。流石に先輩も『君、先生に虐められているのかい?』と心配してくれていた(本心かは定かではないが)。全部運び終わったときには昼休みには終わりかけになっていて、疲れた腕に追い打ちをかけるかのように体育で懸垂をさせられたりしたが、特に何事もない学校生活だった。


 そして、放課後。


「いやあ、わるいねえ。本の整理だけじゃなくて、本の紹介カードまで作ってもらっちゃってね。」


「別にいいですけど、整理の状態先週と変わってないんですけど僕以外の人って何してるんですか?」


 委員会の当番で図書室に来てあれこれ仕事していたところなのだが、先週整理していた頃と何も変わっていないことに気が付いた。別の日には別の人が当番をしているはずなんだけど………。


「ああ。だって彼らは名だけで当番なんてやってないからね。」


「えっ」


 とんでもない情報が出てきた。皆サボりって…。じゃああれか?こう真面目に毎週来ているのって俺だけだったりするのか?


「こう毎週しっかり来るのは君だけだ。まあ、図書室自体来る人が少ないし担当の先生もめったに来ない。『ならサボってもいいんじゃね?』ってなってるのさ。」


「でも先輩は毎週いますよね。」


「私はホラ、委員長だからね。皆がいない分私が出てあげてるのさ。」


 そう言ってる割にはあなたずっと本読んでるだけで何もしてませんけど。まあ、言ってた通り来る人がいないから整理も紹介カードも書く必要ないっていう結論になってるんだろうなあ。

 

 仕事を一通り終わらせ、貸し出しカウンターに行き空いてる席に座り伸びをする。先輩は適当に読む本を見つけてくると、手ぶらで言っていたが、隣にはまるで『ここは私の特捜席だ』というかのように十数冊か本が重ねてあった。この本たちがこの後どういう運命をたどるのかは何となくわかる。彼女に適当に片付けられ、その後俺が元の場所に戻すのだ。


「あの人、だれも来ないのをいいことに図書室を私物化しようとしてるんじゃないのか?」


 このまま放置しておくと未来の自分の仕事が増えそうな予感がするので、今のうちに片付けておこうという結論になった。


「ふっ!意外と重いな…。」


 サイズは某子供用の図鑑程度なのだが厚さがその図鑑の三倍程度あるせいか、思ってたより重かった。これを彼女が持ってこれたのかと驚いていたのだが、図書室には重い本を運んだりする時用にキャリーカートがあるのを思い出した。元々置いてあった場所ではなく、先輩の席の近くにキャリーカー

トがあったので同時になんで持ってこれたという謎も解け、同時に脳内にこれで本を運んでいる先輩の光景までも浮かんでしまった。



 キャリーカートに本を重ね、元の場所に戻しに行く。あたりを見渡すと、誰もいないせいか一人だけしかいない世界にいるみたいで、少し寂しさを感じてしまう。まあ実際には図書室には二人いるんだけどね。


「「あっ。」」


 もう一人いた。昼休みの時に本を借りに来た人がドラマ原作の続きを借りに来たのだろう、俺が昼に案内したベースで本を取り出していた。


「続き、もう借りに来たんだな。」


「授業があまりにも退屈だったからずっと読んでたのよ。とても面白くて気づいたら借りてる分を読み切ってしまったわ。」


「授業サボってたのかよ。」


「授業なんて真面目に受けなくても、適当にノート取ってテスト期間にある程度勉強すればそれなりに点数は取れるじゃない。」


「そんなんで点取れるんなら世の中に赤点で騒ぐ人達は存在しないんだよなあ。」


 そういや楓も高一学期末の時に『授業で習ったことは八割ぐらいインプットとアウトプットができるんだよね。だから、あんまり勉強でなやんだことはないなあ。』とか言ってたな。彼女らは自頭がいいのだろう、羨ましい。


「ところで、その分厚い本たちはどうしたの?」


 俺が自頭云々のことを考えている一方、彼女は普段見ないものを見たような目でキャリーカートの本に目を向けていた。


「ああ、ちょっと散らかってたのを片付けようとしてるだけだよ。」


 俺には先輩の読んでいる本が一体何語で書かれているかは分からないし、何となくだが難しいことが書いてあるのだろうが、彼女はもしかしたらわかってたりするのかもしれない。


「これって、表紙なんて書いてあるかわかるか?」


「知らないわよ。初めて見る文字だわ。ていうかそれ、アンタじゃなくてあの子供が持ってきたものでしょう?何でアンタがあの子の持ってきている本をもとの場所に戻す必要があるのよ。あの子にやらせればいいじゃない。」


「まあそうなんだけど今丁度やることないし。それに何となくだけどあの人俺がやらない限り一生片付けなさそうだし。」


「あの惨状を見る限りまあそれはわからなくはないけど…。ああいうのを見てると徹底的に部屋を散らかしてそうな印象があるわ。」


 確かに。そして一度家に呼ばれたりなんかしたら部屋を片付けて欲しいとかせがまれそうな気がする。そしてなんだかんだで片付けるんだろうなあ。


「まあ、人助けは悪い気はしないし、俺は全然いいんだけどね。」


「人を助けたところで何のメリットもないのに、そんなことできる人もいるのね。


 話に一区切りついたからか彼女は何冊か本を取り出し、読書スペースに向かっていった。、俺は要件を終わらせるべく、キャリーカートを押した。






「よい…しょっと。…ふぅ。」


 本をすべて元の場所に戻し、一息しようと思ったら五時前になっていて最終下校時間になってしまった。上のスペースにあったりしたせいで、結構時間がかかってしまった。いやあれ重すぎるって。あれよく先輩あのひと持ってこれたよな。


「おお、お疲れ~。おぉ、ボクが出してた本も片付けてくれたのか!悪いねえ。」


「別にいいですよ。片付けは嫌いではないので。」


「君は片付けじゃなくてもやってくれるじゃないか。どうしてそこまでやってくれるんだ?断るという答えもあるだろうに」


 先輩と会話をしつつ、戸締りをする。何故かこれだけは先輩も手伝ってくれるのだ。


「何でって、あんまり考えたことないですね。僕がやりたいと思うからやるだけです。先輩は少しでも罪悪感があるなら自分も仕事したらどうですか?」


「ふふっ、いつかやるさ。」


…いつかっていつなんだろうか。

 










 鍵を閉め、先輩は鍵を職員室に返しに行くと言って走って行ってしまった。俺は家に帰るべく下駄箱向かった。


 靴を履き、昇降口を出る。昇降口前にはまだ運動部の生徒が何グループかが屯っていて、先生に早く帰れとせかされていた。そんな彼らを見ながら俺は駐輪場に向かい、自分の自転車を見つけて鍵を開ける。サドルにまたがりペダルをこぎ始めた。


『お人好しね。』


『どうして君はそこまでやってくれるんだい?』


――考えたことない、か。


 自転車を漕ぎながら、俺は少し昔のことを少し思い出していた。昔から何だかんだで人助けは積極的にしていた。無論、見返りを求めているわけではない。困っている人を助けてあげたい、それだけなんだけど…何やってるんだろう。


「―――人助けなんて、俺がする資格なんてほんとはないんだけどな。」


 座ってるだけだと中々スピードが出ないのでサドルから立って自転車を漕ぎ始めた。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る