第一章 普通から異常へ
第1話 スクールデイ1
寝坊した。朝日を浴びながらベットから飛び起きる。生まれて初めて二度寝をしたが、二度としないと心に誓いつつ、俺は服を脱ぎ捨て、急いで身支度をした。
朝食用のパンを一枚口に入れながら家の鍵を閉め、ようやく出発する。幸いにも、俺が通っている高校は家からそんなに遠くないので、全力で
「いっけなーい、遅刻遅刻ぅ~。」
………一回言ってみたかったんです、はい。あたりをきょろきょろとする。どうやら誰も聞いていないようだった。これで隣人に聞かれてたとなれば、家に戻り悶絶するところだった。
ふざけている場合ではない。流石に遅刻はしたくないので、全力で自転車のペダルを踏みこむ。
最初は重かったペダルもだんだんと軽くなり、スピードが増していく。あまりこんな全力で自転車をこぐ機会がないせいか向かい風が新鮮で、気持ちよく感じた。
「で、寝坊で遅刻したってか。」
「は、はい。すみません。」
遅刻した。ギリギリ間に合わないならまだ許された(されねえよ)のかもしれないが、俺が学校についたのが朝のHRが始まって50分後。つまり1時限目の授業の途中で、しかも自分の担任の担当授業だった。
現在、俺は今1時限目の終わりの休み時間にて事情聴取を受けているところだった。
「ほんとは反省文を提出するっていうルールなんだがな。まあ、お前は遅刻1回目だし特別になしにしてやる。ただし、次はないからな。あ、その代わりと言っちゃなんだがちょっと頼み事聞いてもらってもいいか?」
「いやあ、美空が遅刻だなんて珍しいな。なんかあったのか?」
先生との話が終わり、自分の机に座って伸びをする。すると俺の右隣の席にいる坊主に話しかけられた。
「ああ。ちょっと、というかかなり寝坊したってだけだよ。
「嘘ですね。」
今度は後ろの席にいる人物に話しかけられた。そのほうを向くとショートボブの彼女は俺の頬を自分の指でつんと押し出し、いたずらっ子のようなニヤニヤ顔でこっちを見ていた。
「…何でそう思うんだよ、
すると、彼女はなんだその愚問はみたいな目でこちらを見ていた。
「なんでも何も美空君、昨日は11時ぐらいには消灯してたじゃないですか。特別何かしている様にも見えませんでしたし。あ、この前私が貸した本を読んでましたね。」
「何で知ってるんだよ。」
「そんなの、お隣さんだからに決まってるじゃないですか。」
だとしても何をしているのかを見ているのは流石に怖いよ。まあ、寝るまでカーテンを閉めないのが悪いんだろうけど。
「お前、人を観察するのはほどほどにしとけよ?誰かに引かれたりでもしたらどうすんだよ。」
前にもこういうことを他の人にするのは流石に引かれるだろうと思い、軽く注意してきたが、最近はそもそも別に引いてもいない自分が言っても説得力がない気がしてきた。
「はいはいきをつけますぅ~。」
………ほらね。
全く理解していないような口ぶりで彼女は席を外していった。
「で、何故おまえはさっきからニヤニヤしてんだよ。」
「いやあ、べつにい?」
右の坊主も楓の顔を真似てる(似てない)のか、ニヤニヤしながらこっちを見ていた。
あの後、特に何事もなく昼休みに突入した(二度寝の影響か、授業が退屈だったのか、はたまたどっちもかはわからないが、一回意識が飛びそうになったけど)。
「あ、弁当忘れた。」
まさか二度寝のツケがここにまで来るとは。学食に行こうにも財布も忘れているときた。鉄雄は昼休みに入ると学食に走っていったし、楓は友達と弁当食べ始めようとしてるから声かけにくいし………。
「…帰ったら何か食べるか。」
普通だったら他のクラスメイトに何か奢れだのお金を貸してくれだの言うのかもしれないが、仲がそこまでいいわけでもないのでやめにした。
『その代わりと言っちゃなんだが………。』
暇をつぶすために適当に自分の記憶をほじっていた時、朝、先生に頼みごとをされていたのを思い出した。頼み事といってもというのも明日授業で使うらしい教材がクラス全員分図書室にあるから取ってきて欲しいということだった。本当は放課後に取りに行く予定だったのだが、やることもないし、このまま時間をつぶしてるだけだと時間を無駄にする感じがするのが嫌だったので今のうちにやってしまおうと今やってしまおうという結論になった。
図書室に着き、ドアを開ける。廊下内は教室前などで生徒達が会話しているからかかなり騒がしかったのだが、図書室に入った途端その音がシャットアウトされた。
どうでもいいけど、足音の『カコッカコッ』って音いいよね。
「あれっ?今日は珍しく人がかなり来る思ったらなんだ、君か。」
カウンターまで来るとそこには小学六年生のような見た目をした少女が本を読みつつ優雅に紅茶を飲
んでいた。
「俺も人なんですけどね。ていうか、いくら人があんまり来ないからって満喫しすぎでしょ。」
「言っておくが、別に遊んでいるわけではないぞ?こうやって知識を蓄えているのさ。知識は人間の最高の宝。いくらあっても損をしないからね。」
「読書は最高の娯楽って言ってた人がよくもまあ。」
気になったので彼女の読んでいる本を少し見てみると辞書のような分厚さで表紙には何語か分からない文字が連なっていて、とても読めそうにはなかった。
「おお~っ?君もこの本がきになるのかい?」
俺の本に対する視線に気づいたのか自分の宗本に抱きしめニヤニヤしながらこっちを見てきた。見た目はまるで宝物を是が非でも渡したくない子供みたいだ。
…なんか皆今日ニヤニヤしすぎじゃない?
「気になりますけど、俺には読めませんし、読めたとしてもどうせ難しい本なんでしょう?」
「それはわからないよ。たとえ難しい内容だとしても君が興味を持ったら難しいは楽しいに変換されるのさ。君にだって好きなものの一つや二つはあるだろう?」
…好きなもの、か。
「おっと、そういえば要件を聞いてなかったね。」
「ああ、実は―」
「ちょっといいかしら?」
今度は後ろから声をかけられた。それなりに整っている容姿にピンクの一つ結び、制服のリボンの色が俺ネクタイと同じ赤なので、同学年だということがわかった。だが、自学年の顔はある程度認知しているつもりだったのだが、この人は初めて見た。
「えっと…どうかされました?」
「どうかしなかったら普通話しかけないわよ。…探してる本があるんだけど。」
「探し物か、なら私の後輩に任せてくれたまえ!」
え。
「今って先輩の当番なんじゃないんですか?」
「まあまあ、せっかくだし一仕事してくれよ~。君、大体の本の場所はわかるんだろ?私には多すぎてどれがどれだか………。検索用のパソコンが修理から戻ってこれば私でもわかるんだけどね☆」
じゃあ図書室の奥の外国の本スペースの一番上にあるその本は適当に持ってきたんですか?というツッコミは置いておいて、このままだとあの人の案件が解決されなさそうだしやってあげよう。場所ならこたえられるし。
「わかりました。どんな本をお探しなんですか?」
まあ、見た目からして最近ドラマ化した原作の本とかそのあたりを探しに来ているのだろう。俺も気になったら原作を読むからなあ。
「ふーん。あなた、本の場所がどこにあるのかホントにわかるのね。」
彼女が探していたのは予想通り、とあるドラマの原作だった。場所を見つけると彼女は一瞬笑みを見せ、そのスペースから何冊か取り出していく。
「一度見たものは記憶に残るんだ。だから、本の整理をしてたら自然に覚えてた。」
自慢ではないが、俺は一度見た物は忘れずに記憶に残っていることが多い。例えば、休日に買い出しなんかに行くと『布津森君だ~。』と声をかけられたりすることがある。その時に特に関わりがなかった相手だとしても、記憶内にある映像を思い出して『あ~中学の時の!』と、うまく切り抜けることが可能だったり、物をどこへやったか探す時にどこにあるか覚えているので探し物にも困らない。
とはいっても顔は覚えているが名前は覚えられていなかったり、そもそも部屋片付けてれば物がなくなるなんてことはなかったり。さらに言えば物を落とした際には見てすら居ないのでわからない。つまりあまり使える能力(能力といえるかは分からないが)ではない。
「へえ、便利な脳をしてるのね。さぞかし成績優秀なのでしょうね。」
「残念ながら俺が覚えられるのは人の顔や物の形状、見た景色ぐらいだから勉学能力はそこそこだよ。」
すると彼女はなーんだ、みたいな顔をしながら貸し出しスペースに戻っていた。
「悪かったな、抜けてる脳みそで。」
俺も俺の要件をすましに貸し出しスペースに戻るのだった。
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