EP.19

 叶奈は、ぼんやりと歩いていた。今日の出来事を噛み締めながら。

 思ったよりも近くに、彼がいた。もう二度と会うことはないだろうと思っていた人。


「ツナグ君は、人と人を繋ぐ猫ちゃんだったんだね……」


 空を見上げながら歩く。日差しが温かい。最近、夕方になると冷える。冬が近づいている。

 叶奈は、首に巻いたストールをもう一度巻き直す。足取りは軽い。良いことがあったと思える一日。


「人との再会は、こんなにも嬉しいものなのね」


 不意に、叶奈の鼻腔から鼻歌がこぼれた。愛しい人を想う歌。好きなバンドが、「君の笑顔が見ていたい。僕より長生きしてほしい。ただそれだけ。でもね、ううん。なんでもない」なんて、おしゃれに歌っている。

 叶奈は、ワイヤレスイヤホンを両耳に装着する。スマートフォンを操作して、さっきまで鼻歌で歌っていた曲を選曲して、再生をタップする。

 叶奈にとって、特に涼太に心惹かれているわけではない。ただ、なんとなくこの曲が聴きたくなっただけのこと。たったそれだけ。


「やっぱり、このバンドの曲は、心惹かれるなぁ……」


 叶奈は、駅の改札を通って、ホームに立った。のんびり曲をリピートしながら、静かに電車を待つ。

 大きな音を立てて、電車がホームに滑り込んでくる。扉が開くと、数人電車から人が降りてくる。全員降り切るのを見届けて、叶奈は電車に乗り込んだ。

 電車に揺られる。ほんの少し開けられた窓から風が入る。少し冷たい。

 目的の駅に着くと、叶奈はバスに乗り換える。目的地は、あの場所。ツナグと話したあの場所。

 植物園の中を散策しながら、目的の場所に向かう。少し歩いて、見覚えのある場所が、叶奈の視界に入ってきた。

 そろりと扉を開いて、中に入る。


「悟さーん。いらっしゃいますか?」


 少し大きな声で、悟の名を呼ぶ。すると、慌てた声が返ってきた。


「はいはい! 今向かいますからね! 少々お待ちくださいね!」


 大慌てで奥の部屋から出てきた悟。しかし、叶奈の顔を見ると、すぐに笑顔になった。

 叶奈はというと、こちらも負けず劣らず、とても嬉しそうににこにこしている。


「悟さん、ご無沙汰しております」

「よくきてくれました。お変わりないですか?」

「はい。おかげさまで」


 叶奈の返事に、悟が先程以上ににこにこと微笑んでいる。


「悟さん、できれば青いケシの花、一輪分けてくれませんか?」

「あぁ、構いませんよ。しかしまたなんで急に?」


 悟の言葉に、叶奈はことの経緯を話そうと、口を開きかけた。


「おっと。その前に……。紅茶は、いかがですかな? せっかくですから、ゆっくり紅茶でも飲みながら、お話をお伺いしましょう」


 叶奈は、嬉しそうに大きく首を縦に振った。


「はい! 紅茶、頂きます!」


 まだ外は明るい。終わる頃は真っ暗かもしれないなと思いながら、以前座った椅子に腰掛けた。


「さて、どこからお話しましょうか?」

「そうですね……。叶奈さんが、この場所を立ち去った時から、お聞きしましょうか」

「わかりました」


 叶奈は、ことの経緯を話し始めた。

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