EP.2

 涼太りょうたは、いつものように常連客を相手に談笑しながら、カップを拭く。

 カランという音と共に、扉が開いた。静かに女性が入ってくる。


「いらっしゃいませ」


 ゆったりとした口調で、女性を出迎える。彼女は、軽く会釈をして、涼太に案内されるままに、一番奥の座席に着いた。

 涼太は、何故か彼女に心惹かれた。なぜこのような感覚になるのか不思議に思いつつ、彼女の注文に対応した。


「マスター、どうしたんだい? 急に反応が悪くなったじゃないか」


 常連客の一人に声をかけられて、ふと我に返る。いつの間にかぼんやりとしていた周りが、一瞬で鮮明になった。


「いえ、なんでもありません」


 にっこり笑って、カップの手を動かした。キュッと気持ちの良い音がした。

 その日は、特に大きな出来事が起こる事もなく、穏やかに閉店時刻を迎えた。

 涼太は、閉店した店内の後片付けをしつつ、今日来店した初見のあの女性を思い出していた。

 彼女はまた来店してくれるだろうかと、ぼんやり考える。特にあの声は、思い出すたびに、涼太の心にさざ波を立たせた。

 涼太は、これ以上彼女に思考を支配させまいと、深呼吸をし、帰り支度を始めた。店の鍵がかかったことを確認して、家路を歩く。

 いつものように、夜道をのんびりと歩いていた時だった。前方に、ブーツを履いた猫がいた。その猫は、人間のように二本足で歩いていた。

 涼太は、自分の頭がおかしくなったのかと思った。


「ひょっとして、僕は相当疲れているのかな……?」


 涼太は、瞬きをした。そして、目をこすった。しかし、目の前にはブーツを履いた猫が、器用に二本足ですたすたと歩いていた。

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