EP.1

 気付くと、叶奈は湖のほとりにいた。どこかの森の中のようだが、さっぱりわからない。

 叶奈は、じっくり思い出す。自分は、ついさっきまでベッドにいた。という事は、これは夢なのだ。

 そんな推理をしつつ、もう一度あたりを見渡す。あたりは、しんと静まり返っている。

 ぼんやり周りを見ていると、急に声をかけられた。


「君は、どうしてここにいるんだい?」


 声の主を探して、きょろきょろと周りを見る。


「ここだよ、ここ。おいらはここだよ」


 少し目線を下げると、そこには二本足で立つ猫がいた。


「君は、どうしてここにいるんだい?」


 猫は、さっきと同じ言葉を言った。叶奈は、返事に困りつつも、正直に話した。猫は、大きな瞳で真っ直ぐ叶奈を見つめる。


「ふーん」


 訊いた割には、あまり興味がない様子の猫だった。


「君は、この世界の住人ではないんだね」


 猫はそう言うと、顎に前足を当てて考える仕草をした。人間っぽい仕草があまりに自然で、叶奈は今更ながら不思議な気分になった。


「君はまだこちら側のモノではない」


 猫はそう言うと、険しい表情を浮かべる。


「それなら、早く元の場所に戻る方が良い。ここは、ふらりと来るような場所ではないのだから」


 猫は叶奈にそう告げると、そそくさと立ち去った。叶奈は、ただ茫然と猫を見送るしかなかった。

 どうしたものかと思いながら瞬きをした瞬間、叶奈はベッドの中にいた。どうやら、夢だったようだ。

 叶奈は、じっくり風景と猫とのやりとりを思い出す。ただの夢ではあるが、なんとなくあの世界は実在しているような気がした。

 寝起きのぼんやりとした頭で色々と考えてみた。答えは出なかった。

 ぼんやりとした思考回路のまま、ブーツを履いた猫なんて不思議だなと考えた。もちろん、日本語を話していたことも。

 考えてみても仕方ないという思考と、二度目の睡魔がやって来たので、叶奈は誘われるままに、もう一度眠ることにした。今度は、夢すら見なかった。

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