星降る夜にひとときの願いを
黒田真由
EP.0
「いらっしゃいませ」
店に入った彼女は、案内されるがまま席に着く。
「メニューがまだなくて、今はコーヒーとレモネードと手作りケーキしかないのですが、よろしいですか?」
マスターと思われる男は、少し申し訳なさそうに言葉をかけた。
「では、レモネードとケーキを」
男は注文を聞き終えると、レモネードを作り始めた。叶奈は、ぼんやりとその光景を眺めていた。
「お待たせいたしました」
男の言葉に、ハッとする。どこかで聞いた声のように感じた。しかし、叶奈の脳内には、該当する答えは見当たらなかった。
叶奈は、なんだかもやもやした気持ちを抱いた。聞いた覚えがあるのに思い出せない。しかし、海馬の奥底の、そのさらに隅っこにあるであろうその小さな断片は、確かにその声を捉えていた。
その引っかかりが不快で、断片を表に出そうと試みる。だがその記憶は、表には出てきてくれそうになかった。
「一体どこで聞いたのかしら……」
言葉を漏らす。言葉は空気中に一瞬花開いて、すぐに溶け消えた。花火のように一瞬だった。
遠い記憶を辿る。この記憶は幻だろうか……?
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