第8話

 ため息をつきながら答えるウィル。


「はぁ、だから、白魔法は俺も使えるのだが、体液でしか扱えぬ。女王を抑え込むには口づけしかない。それともお前が俺とやりたいというなら、俺的にはそちらの方が魔力移動が手っ取り速いからいいが?」


赤い熟れた果実のように全身真っ赤になるナリーナ。あれほど決意しても心はまだ乙女らしい。こういった話には弱い。


「かわいい奴だな。そんな反応するなら今すぐ襲ってやろうか」

「……だめ……です」

「残念だ」


ウィルは意地悪そうな笑顔で言った。ナリーナは火照った顔を触りながら、冗談だったことに気づき、さらに顔を赤らめた。


「冗談はさておき、マイグは邪魔者は全て消した。だから、お前の父も残念ながら……」

「お父様は呪いで死んだのではないの?」

「あぁ、マイグが殺した。君の復讐するのは国ではなくマイグなのだよ」

「えぇ……そんな」


ナリーナは戸惑ってしまう。父に汚名を着せ父を殺したのも全てカメリア国だと思っていた。しかし、実際はマイグが仕込んでいたに過ぎなかった。それを知らずにカメリア国を滅ぼしてって言ってしまった。そのせいで魔物が……


自分のしでかした大きな過ちにどう償えばいいのか考えていた。優しく肩を触りながら、ウィルが微笑する。


「大丈夫。魔物は全て俺が倒したから」

「え?でも、さっき国も滅亡したって……悲惨な状況も見たよ」

「だって、女王を呼び出すのに餌は必要でしょ? 今はおとなしく眠ったみたいだから本当のこと言えたけど。魔物だけ焼き払っただけで、少し映像を改変したんだよ」

「……でも、数人は亡くなったのですよね……私のせいだ……復讐するなんか決めたから」

「……魔物はどんな人間を狙うか知っているかい? 魔物が狙うのは汚い人間。すなわち心に悪意や妬みを持った人間ばかりだ。だから、亡くなった人はそう言う人ばかりだよ……」

「だからといって、私が殺していい人たちなんかいない」


ナリーナは自分のやった罪に耐えきれなくなり、下着に隠し持っていた短剣で自分の首を斬ろうとした。


「お父様、ナリーナも今すぐそちらへ行きます」


冷たい感触が首に触れた。一思いに行こうとしたそのとき、突如マイグが現れた。


「何をしている!! ナリーナ。どういうことか説明しろ」

「おやおや、そんなに大事なのか。ナリーナが……甘くておいしいぷにぷにした唇だもんな。そして、うぶなくせに反応は色っぽいときた。はまるよな」


マイグはその発言からナリーナの唇を奪ったという事実を知り、心の底に沸いたふつふつとした怒りがこみ上げ、ナリーナを抱きかかえ、ウィルとの距離を取った。


「おい、貴様は……まさか……勇者ウィルなのか?」

「ご名答」

「なぜ、貴様がここにいる。まさかウィストン陛下に仕えてたのか」

「そうだと言ったら?」


ウィルはマイグに魔剣を突き付けた。ナリーナはいきなり起きた目の前の光景に驚き、短剣を下ろしていた。そして、冷静になる。今ならコイツを殺せる。ナリーナはマイグに抱きしめられたまま機会をうかがっていた。


マイグに魔剣を向けたまま、ウィルは表情を強張らせながらナリーナに尋ねる。


「で、ナリーナはどうする?黒女王として目覚めることを選ぶのかどっちだ?」

「……そんなの決まってる。こうする」


ナリーナは、マイグの脇腹を短剣で一突きした。マイグの脇腹から血がにじみ出ている。そのスキに逃げるナリーナ。


マイグは何が起きたのかはわからずに、自分の脇腹を見た。ナリーナに刺されたということに気づく。しかし、なぜかナリーナに刺されたことに嬉しさを覚えていた。脇腹を抑えながら、ナリーナを追いかけようとしたのだった。

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