第7話
その日の晩、夕食の案内ができたとメイドが呼びに来た。もしかして、夕食という名のプレイだったらどうしようかしらとナリーナの頭はおかしな状態になっていたのだった。
いつの間に、夕刻になっていたのだろう。部屋に会った1冊の魔法書がおもしろく、夢中で読み進めてしまっていたようだった。夕食の会場では、青空みたいに美しい髪色に赤い瞳の見知らぬ男性が座っていた。
「やぁ、ナリーナ。カメリアはもう滅亡したよ。魔物と共に焼き払ってきた」
「え?本当ですか? でも、あなたはどなたですか?」
「君になら、本当のこと話しても問題ないかなと思って本当の姿にしてみたんだけど……普通僕を見た女性は僕にメロメロのはずなのにおかしいなぁ」
「ん? どういう意味?」
首を傾げ、全く意味が分かないナリーナ。
「……あー可愛いなぁ。まぁいいや。実は陛下は表の顔で本当は勇者なんだ。名はウィルと言う。ちなみに20歳だ」
そう言いながら、おじいちゃん陛下や美少年へと化けていくウィル。メイドたちは普通に給仕を続けているので、普段からコロコロと化けているのだろう。だから、何も普通のことなのだろう。きっと、信用できる。ナリーナは驚きながらも一番気になることを尋ねた。
「マイグは、陛下が勇者だって知ってるの?」
「君こそ、マイグが何をしたか知ってるの?」
「え?」
そうすると、ウィルはパチンと指を鳴らし、映像を見せた。
そこには、父の結界に穴をあける人物がいた。あれはフリード王子?まさか……犯人は、フリード王子だということなの。混乱しつつ映像を見ていると、次のシーンに切り替わる。
黒髪の美しい女性を守るようにマイグがウィルと戦っている。ウィルがマイグを瀕死状態に追いやり、黒髪女性を倒したようだが、その女性の体からは何かキラキラした光が飛んでいった。マイグはどこに動けるだけの力が残っていたのだろうか。傷だらけの体でその光を追いかけていた。
そしてまた、シーンが変わり、ナリーナの誕生シーンにかわっていた。ナリーナはなぜ自分の生まれる瞬間を見せられているのか不明だったが、まだ見たこともない、ナリーナを生んだ時に死んでしまったお母様の顔を初めて見れることに喜びを感じていた。ナリーナが生まれた瞬間、先程のキラキラした光は吸い寄せられ、ナリーナの体に入っていった。
ウィルは探るような、読み切れない表情で言った。
「これまでが今までの昔話の回想ね。ここからが……本番だよ。女王様」
なぜ、女王と呼ばれるのかわからないナリーナは困惑していると、また、指をぱちりと鳴らした。
次の光景は悲惨なものだった。カメリア国が映し出されていた。そこには3体の魔物が街を暴れ倒しており、人々は無情にもどんどん食べられていく。そして、魔物化された人々が人間を食うというすさまじいものだった。あまりの血生臭いリアルな映像に頭痛と吐き気をもよおしてしまった。しかし、心は痛いのに、なぜか笑いがこみ上げ、下品な笑いをしていたのだった。
「ぎゃはははあ……ここはどこ。貴様は……」
ナリーナは驚愕する。頭は自分の物なのに体を乗っ取られているような感覚に陥っていた。
まだ覚醒しきっていない女王に悪魔の微笑みを向けるウィル。
「ハハハ。作成成功だな」
そして、ナリーナに口づけをした。
「ん……ゆ……う……しゃ……」
ドンドン深い口づけに変わっていく。ウィルは普通の治療がてらの軽いキスのつもりだったがナリーナの柔らかい唇に心を奪われてしまい、夢中でナリーナの口内を舌をかき混ぜていた。
(え?陛下にキスされてる?なんで?でも抗えない。気持ちいいし、温かい)
ナリーナはぼんやりする頭で考えながら、ハッと気づけば目を開けることができていた。
「ははは。素直でいい子だね。ナリーナ。もう少しそのままでいて」
「ふっ……クチュ……んん」
唇が腫れそうになるまで舌で舐めつくされる。心の中にあった体の何かがクリアになっていく感覚を感じていた。拒否したいというよりも、もっととせがみたくなるよう感じであった。
「ん……そろそろかな……お嬢ちゃんには刺激が強いみたいだし」
そう言って、唇を離すウィルだった。ウィルとナリーナの口からは淫らな糸が引いている。真っ赤な顔をしながら聞くナリーナ。
「……いったいどういうこと?」
「君には黒女王の魂が入っていた。それを探すためにマイグを王宮魔術師としてそばに置いた。アイツは俺が勇者だと気付いていない。おじいちゃん陛下と18の姿しか知らないのだ。そして、やっと器を見つけてきた。アイツが固執するのは女王だからだ」
「……マイグのことと私の話はなんとなく映像見てたからわかった。そっちじゃなくて、口づけの理由が知りたい……」
「そっちかよ。黒女王が出てきそうだったから、抑え込んだだけだ。本物の器なのか確認したかったし」
「だからって、なんで口づけなの……」
なぜか納得できないナリーナだった。
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