第4話

 マイグは泣くナリーナに声を掛ける。


「ナリーナ。早くローブを着ろ。今夜はもう寝て、明日城に案内する」


「……え?王宮魔術師って本当なの?」


コテンと小首を傾ける姿がやけに子供っぽくてかわいく見えてしまう。そんなことを思ってしまう自分に虫唾が走る。


「あぁ、そうだ。では明日。お前の部屋は2階だ」


「はい、ありがとうございます。マイグさん!!」


ナリーナは2階に上がり、部屋の中に入った。意外ときれいに整えられていた。至ってシンプルな部屋だった。ベッドと机、本棚がある。昔誰かと暮らしていたのではないかと思わせる部屋だった。


ナリーナは、自分自身の弱さに悔しい気持ちになる。自分の体を餌にマイグを腑抜けにさせようと考えていたのだが、思った以上に男性に対する恐怖心が勝ってしまった。


あれ以上は無理だと思い、思わず女の武器である涙を利用し、意志操作の魔法を入れ込んだ。なぜか、自分から出る涙や唾液などの魔法の扱いだけは、無詠唱でできたのだった。


ナリーナの体が何かに取り憑かれているような気がした。魔力の乱れが著しく狂うときがあり、その乱れが激しくなると頭痛が起きるようだ。その後は記憶がなくなっている。


いったい何が起きているのだろうか。何でもいい。とりあえず、あの国をつぶしてお父様の仇を打たないといけない。そのためには私はなんだってする。男に抱かれようが、殺人を犯そうがもうどうでもいい。


お父様が心配していた白魔法を使わないという約束など余裕で守れそうだ。これから、私は悪の道を突き進むのだから。


 それにしても、マイグって王宮魔術師と言ってたけど本当なのかな?明日ついて行けばわかるわね。明日こそ、マイグに抱かれてマイグが私なしには生きられないようにしてやらないといけない。


男は女にぞっこんになると腑抜けになるそうだから、利用するためにも頑張らないといけない。自分に媚薬でも入れれば耐えられるかな?けど、マイグ媚薬がどうのこうのって言ってたよね?まぁいいや。今日は寝よう。ナリーナは眠ることにした。



 朝になり、ナリーナは目覚めた。お父様が亡くなったというのに朝までぐっすり眠ってしまった。私ってどれだけ強いのかしらと自身をあざ笑う。小指の指輪を眺め、挨拶をすることにした。


「おはよう。今日からナリーナお父様のために頑張りますわね」


「おいっ、ナリーナいつまで寝ている。行くぞ」


1階からナリーナを呼ぶ声が聞こえる。


「はーい、今行きます」


急いで階段を下りると、そこには赤髪の長髪が似合う容姿に優れた見目麗しい男性が立っていた。あまりの格好良さに見惚れてしまうナリーナ。


「おい、何をそんなに見つめているのだ。気持ち悪い。さぁ、行くぞ」


「えぇ!! えっ!! まさかマイグなの?」


「あ?うっさいな! 行くぞ」


ナリーナは昨日の姿とは全く違うので驚いた。やはり、王宮魔術師というのは本当らしい。衣装がキラキラに輝く王宮の紋章入りだったのだ。それにしても容姿の違いには納得がいかないが、かっこいいに越したことはない。ナリーナはマイグについていくことにした。


王宮に着くと、王様への謁見の場では膝をついている。正真正銘の王宮魔術師にしか見えない。でも、この人の正体って魔物なのよね?


あー混乱する。混乱する頭を下げながら、王様の許可が出るまでひれ伏すしか私には方法がない。


「顔を上げよ」


やっと、顔を上げることができる。この国の王様はどんな人なのだろうか?王座に座る人は、なんと太ったよぼよぼの失礼ではあるが今に死にそうなおじいさんだった。この国大丈夫なの?


「ゴホッ、ゴホッ、魔術師よ。そのおなごは誰じゃ?」


声も枯れており、覇気がない。この人大丈夫なのかしら。心配になってくるナリーナ。そのあからさまに表情に出てしまっているナリーナを横目にマイグは言った。


「新入りの魔術師です。以後お見知りおきを」


ナリーナは、こんな話し方もできるんだと感心している。すると、頭の中に声が聞こえてきた。この波長はマイグだ。


「おい、お前ちゃんとしろ! さっきから王様を何だと思ってるんだ」


「え?だって、死にかけのよぼよぼおじいちゃんだよね?」


「……なんだ気付いていないのか? お前魔力で透しすりゃそんなのずぐわかるだろうが。バカ」


ナリーナは、バカだと言われたのが苛立ったかが、透ししろと言われたので、誰にも聞こえない程度に呪文を唱えようとした。

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