第13話 ギルド

 半年に及ぶ冒険者育成コースを、寺門は無事にやり切った。

 今日はその教育課程修了式だ。


「リョウ君、修了おめでと!」

「ありがとうございます。モニカさんも無事に修了できましたね」

「リョウ君がいるところに私もいるんだから、当然でしょ?」


 そう、寺門のそばには常にモニカがおり、それが当然のような風潮が出来上がっていた。


「僕はこのまま寮に戻って、寮から出る準備に入ろうと思っているんですが、モニカさんはどうします?」

「このまま冒険者ギルドに行って登録してきた方がよくない?」

「おそらく今日は混んでいるので、空いている明日以降にしようかなと思っています。それに寮にはいつまでもいられないので、先に準備をしていたほうがいいと思いまして」

「そっか。それじゃあ私も寮を出る準備しちゃおっかなぁ」


 そんな会話をしつつ、寺門たちは寮へ戻っていった。

 翌日、荷物を持って魔術学校近くの冒険者ギルドに向かう。

 冒険者ギルドは郊外の広い敷地に建っている。建物の裏手には広い演習場が整備されており、日々のトレーニングに使っているものも多い。

 また、併設されている大衆食堂や宿泊施設は格安で使えて、常に冒険者でいっぱいの状態だ。

 そんな冒険者ギルドに、寺門たちはやってくる。


「とりあえず今日の所は登録だけして、本格的な活動は明日からしましょう」

「さんせー!もちろん、パーティーも一緒に組んでくれるよね?」

「えっ」

「え?」


 おもわず二人は顔を見合わせる。


「もしかして、パーティー組んでくれないの?」

「いや、その考えは完全に頭から抜けていたと言いますか……」

「それじゃあ組んでくれるよね?」


 モニカからの圧。寺門は顔をそらすものの、考えを張り巡らせる。

 もしここでパーティーを結成しなかったら、モニカは一人になってしまう。そんな状態で野放しにしていたら、何をしでかすか分からない。

 それに、ここで一度人間関係をリセットしてしまうと、のちの冒険者生命に支障をきたしかねない。

 そんな損得勘定が寺門の頭の中で行われた。


「……分かりました。パーティーを組みましょう」

「ほんと?よかったぁ……」


 安心したように、モニカは深く息を吐く。

 そうと決まれば、早速冒険者としての登録だ。

 まず冒険者としての身分証として、ギルドから冒険者カードが発行される。そのカードには個人情報が書き込まれ、その情報を元に様々なやり取りをする。

 自分の氏名はもちろんのこと、冒険者ギルドに預けている預金や、料金支払い、各種保険の加入状況など、できることは多岐にわたる。

 いわば、冒険者ギルドにおけるマイナンバーカードの役割を担っている。

 こうして、時間はかかったものの、冒険者ギルドに登録を済ませることができた。


「さて、無事に冒険者ギルドに無事登録出来ましたし、何か食べていきますか?」

「うん!食べる!」


 元気よく返事したモニカを連れて、となりにある大衆食堂へと向かう。

 大衆食堂では、まさに様々な冒険者たちが食事をしたり会話を楽しんでいた。

 そんな中、テーブル席についた寺門たちは、適当に料理を注文して、食事を楽しむ。


「ねーねー。明日からの予定どうしよっか?」


 モニカがそんなことを尋ねてくる。


「そうですね。まずは比較的簡単な依頼をこなすために、採取系のものからやっていきましょうか」

「うん、分かった」


 そんな話をしていると、寺門の後ろの席の会話が聞こえてくる。


「なぁ聞いたか?帝国の北の方で魔人が目撃されたらしいぜ」


 帝国とは、寺門たちがいる国のことである。


「まじか。今度そっちの方に行くのにな」

「最近よく目撃されるようになったよなぁ、魔人」

「この間だって隣の共和国で街が三つも破壊されたらしいじゃん?」

「今の俺たちには手に負えねぇしなぁ……」

「上級冒険者くらいにならないと、魔人の討伐も難しいらしいし」

「それでも再起不能なレベルの傷も負わされたとか……」

「だから最近上級冒険者の数が減ってきているのか」

「せめて魔人討伐の糸口でも探し出せれば、悩みの種も減るのにな」


 その会話を聞いて、寺門は黙り込む。


「どうしたの?リョウ君」


 その様子を察知したモニカが話しかける。


「あぁいや。なんでもありません」

「……そっか」

「それより、今後の事としてもう一つ話しておきたいことがあるんですが」

「なになに?」

「僕たちはパーティーじゃないですか。でも少しバランスが悪いと思うんですよね」

「というと?」

「僕は攻撃主体の戦闘員タイプ、モニカさんは前衛も後衛もこなせるバランスタイプ。悪くない組み合わせだとは思うんですが、それでも回復役がいないのは、ちょっと不安要素でもあります」

「うーん、そうかなぁ?私が頑張ればいいと思うけど」

「それではモニカさんの負担が大きくなってしまいます。その状態はあまり好ましくないです」

「リョウ君が私の事心配してくれてる……!うれしい……!」


 なぜかモニカが感激している。

 寺門はその事には突っ込まず、話を続ける。


「なので、早速ではありますけど、パーティーの募集をしたいと思います」

「うーん、私は今のままでもいいと思うけどなぁ」

「念には念をってことで」


 こうして寺門たちは、新たにパーティーメンバーを募集することになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る