第12話 課題
この日は、魔術学校の卒業式。
長くも短かった1年半が終了した。
「君たちは本日をもって、魔術学校を卒業する。ここにいる全員が、魔術学校で得たことを、存分に発揮してほしい」
学校長からの言葉で、卒業式は締めくくられる。
「学校生活終わっちゃったね、リョウ」
「えぇ、そうですね。アキナはこれからスカーレット家に戻るんでしたっけ?」
「うん、お父様の言いつけ通りに。リョウは冒険者になるんだったよね?」
「はい」
「リョウ君冒険者になるの?」
「その条件で、魔術学校に入学させてもらいましたからね」
「うーん、私どうしよっかなぁ?このまま卒業しても、家の事情に縛られるだけだし……」
少し考えたあとに、モニカは決断する。
「私も冒険者になる!」
「大丈夫なんですか?家の事情とか言ってましたけど」
「大丈夫だよ。その辺はいくらか言い訳がつくし」
そういって、ニシシと笑う。
何が大丈夫なのかいまいちピンと来なかったが、本人がそう言っているのならそうなのだろう。
とりあえず進路は決まった。
寺門とモニカは、このまま冒険者育成コースに編入するため、学校に残る。一方で、アキナは実家へと帰省する。
翌日には、家の馬車が迎えに来ていた。
「それじゃあ、またいつか。会える日を楽しみにしてる」
「はい。アキナ」
そういって馬車は出発し、学校をあとにした。
「さて、僕たちは冒険者育成コースの編入手続きでもしてきますか」
「そうだね」
そういって寺門とモニカは手続きのために、学校へと戻るのだった。
冒険者育成コース。それは座学では学べない実践形式の授業を主体とする、冒険者になるための教育過程である。
半年しか授業をしないが、その間に過酷な状況でも耐えられるような技術や、サバイバル知識を叩き込まれる。
しかし地球のサバイバル技術などとは違って、この世界には魔法が存在する。そのため、本来なら軍人、陸上自衛隊ではレンジャーに列挙されるような過酷な状況は魔法で大概なんとかなってしまう。
そのため、その魔法を会得するための授業や訓練が主に行われるのだ。
それに冒険者は剣術や体術にも優れていることが必要と考えられている。それを習得するために、野外授業も相当気合が入っているのだ。
要するに、冒険者育成コースは、体育会系の教育を取り込んでいると考えてもいいだろう。
そんな授業の一部風景を切り取ると次のようになる。
「これからお前たちには、身体強化魔法を自身にかけた状態で、腕立て100回、腹筋100回、スクワット100回やってもらう。身体強化魔法で多少やりやすくなっているだろうが、それでも時間とともに疲労感が増していくだろう。これも、極限状態での忍耐力や体力の温存に役に立つ。最終的には、それぞれ500回を1時間以内に終わらせられるようになってもらう。では始め!」
このように、軍人の訓練と見間違えるようなことを、平然と要求してくるのである。
もちろん、この訓練に追いつけない者もいる。そんな中で、寺門は何とかして食らいついていく。
時には、実践的な授業を行うこともある。
それはチームで近くの森に入り、特定の植物を採取してくるというもの。この際、魔物や危険動物との接触も当然ありうることであり、戦闘も許可されている。
採取する植物はチームによって異なり、それがこの課題の成否を問う形になっているのだ。
この日は、寺門とモニカがチームとなり、この課題に取り組む。
「僕たちが探すのは、キイロホホレンソウという草みたいですね」
「これの根っこが、薬草として重宝されているみたいだね」
「しかし、この見た目のスケッチ、まるでタンポポみたいですね」
「ん?タンポポって何?」
「あ、いや、こちらの話です。お気になさらず」
そういって、寺門はキイロホホレンソウ、もといタンポポを探しに、森へと入っていく。
今回チームである寺門とモニカは、どちらも後衛担当である。しかし、事実上寺門が前に出て攻撃を加えているため、寺門が前衛に、モニカが後衛というようになっている。
さて、森に入った二人だが、タンポポは一向に見つからなかった。
タンポポ探しに夢中になっていると、来た道を見失いかねない。寺門は慎重になって、地図と現在地を照らし合わせる。
そして、森の開けた場所にそれはあった。
タンポポの群生地である。
「よかったぁ。やっと見つけた」
「それじゃあ、指示通りに回収しちゃいましょう」
そういって魔法を使って、タンポポを根っこから丸ごと採取する。
そして、いざ帰ろうとしたその時だった。
近くの茂みから音がする。
その瞬間、二人は即座に戦闘状態に入った。何がいるか分からないこの森で、油断は禁物なのだ。
しばらく様子を見る。
すると、近くの茂みから赤い体毛をした小熊が出てきた。
「これは……」
「オオアカグマの子供、だよね?」
オオアカグマの子供は、そのままヨチヨチと二人の方に寄ってくる。
「かわいー!抱っこしてもいいかな?」
「野生動物なのでやめときましょう。しかし、この時期に小熊が一匹でいるとは考えにくいな……」
「ねー、別にいいじゃーん。抱っこしたいー」
そう駄々をこねるモニカ。
その時である。
遠くのほうから咆哮が聞こえてきた。
その咆哮は、二人の体を強張らせる。
寺門は咆哮のする方角を見る。するとそこには、大型の何かが動いていた。
「……まさかとは思うけど、この子の母親だったりしないよね?」
「そのまさかだと思います」
次の瞬間、その何かがこちらに向かって動く。
寺門は火属性の弾丸を生成する。そしてそれを、動く何かに対して射撃した。
命中はしたものの、それで止まる様子はない。
「回避!」
突進してくる進路を予想し、急いで回避した。
出てきたのは、母親と思われる巨大なオオアカグマだった。
先ほど弾丸が効かなかったのは、分厚い体毛によって防がれたものと考えられる。
「それならばっ」
今度は弾丸の直径を大きくし、それを何十と生成する。
そして、それをオオアカグマに向かって秒速400mで撃ち出す。
すると、今度は体毛を貫通して体の内部に傷を負わせることができた。
それによって、オオアカグマはこれでもかという咆哮を上げる。
そこに、モニカの風の刃が飛んでくる。
それを察知したのか、オオアカグマは回避行動を取る。
「遅いっ」
モニカのいう通り、風の刃は見事右の前足に命中し、大きな損傷を与えることができた。
それに苦痛の声を上げるオオアカグマ。
「とどめだ」
寺門は、手を手刀のように構える。そして手刀の先端から、超高温の炎の剣を出現させる。
火属性と風属性の合わせ技の、どんなものも断ち切る光の剣だ。
その状態でオオアカグマに接近し、そして首をはねる。
あっさりと首が取れ、オオアカグマの体は地面に伏す。
「ふー、どうにかなりましたね」
「リョウ君ったら、あいかわらずの火力だね」
「慣れればこんなもんですよ」
するとそこに、オオアカグマの小熊が近寄ってくる。
「どうする?この子」
「今は放っておきましょう。自然のままにしておくのが一番です」
「そっか」
そうして二人は課題を提出するため、学校へと戻るのだった。
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