第11話 生活
それからと言うものの、モニカの寺門に対する執着というか粘着具合は増していった。
朝、ルームメイトのいない寮で目を覚ますと、外から声が聞こえてくる。
その様子を確認しようと窓を開ければ、そこにはモニカの姿があった。
「おはよーリョウ君!今日も元気に学校行こうね!」
寺門はどのように返事したらいいのか分からず、苦笑いで手を振る。そして寮から出てくるまで、モニカは正面玄関で待っているのだった。
朝の登校時には、一緒になって教室まで向かう。その間、モニカはずっと自分の話をしてくるのである。寺門は若干鬱陶しく思うのだが、それで人間関係が壊れてしまう可能性を考えれば、聞き流す程度で済ませた方がいい。
そして教室に入り、授業を受けている時は視線を向けてくる。寺門が視線を送り返すと、ニコッと笑って手を振るのであった。
女子とのそのようなコミュニケーションは、地球の時でもあまり経験したことがなかったため、寺門はバッと視線を戻してしまう。その行動が、余計にモニカの執着心を燃え上がらせる行為であることに、寺門は気が付かないだろう。
昼食時も、モニカは一緒になってくる。
「リョウ君!一緒にごはん食べよっ」
「今日はアキナと一緒に昼食を取る予定なんですが……」
「なら私も一緒に行ってもいいよねっ?」
「ア、アキナが断らなければ、ですけど」
「なら決まりっ!早く行こっ」
こんな感じでお昼時まで一緒にいようとする。
悪い人ではないのだが、どこかおかしな言動をするため、寺門としては少々身構えてしまう。
結局この日は、アキナも一緒になって昼食を取ることになった。
そして午後の授業も同様に、たっぷりと視線を送る。
こうして授業が終了し、放課後になってもモニカの粘着は止まらない。
「リョウ君。今度の実習試験の練習、付き合ってくれない?」
「でも、モニカさんの成績では問題ない程度のものなのでは?」
「それでも復習とか、練習はしておきたいでしょ?リョウ君も一緒に練習しようよ」
「まぁ、断る理由はありませんが……」
「やった!それじゃ、早く行こっか!」
そういって手を引かれて演習場に連れていかれる。
しかし、魔法の練習をしている時のモニカは真剣そのものである。
寺門が絡むと、少々言動がおかしくなるだけなのだ。寺門自身、なんとなくそんなことを漠然と考えるのだった。
そして寮に帰る時まで、モニカは一緒になっているのである。
「それじゃ、また明日ね!」
「はい、また明日」
そういってモニカは、女子寮へと戻っていくのである。
「毎日大変そうだな……」
そんな一言をつぶやくのであった。
肝心の学校生活であるが、一言で表すなら「楽しい」に集約される。
地球にいた時は、そんな感想を抱くこともなかったのだが、この世界に来てからはそう感じるようになった。
これも、恵まれた環境や人間関係に支えられたからだろう。
もちろん、授業でも苦労する所はある。文字が読めなかったりする問題だ。
しかしこの世界では、成人の識字率はそんなに高いものではない。特に魔術学校に通っているのら、文字は読めて当然という風潮もある。
そのため、学校の授業の中では、小学校でやるような文字の練習も含まれている。寺門にとってはありがたい授業だ。それに、学校周辺の施設を使用すれば、授業を補完できるようなこともできる。このような環境に、寺門はただ感謝するしかない。
「リョウ、最近ご機嫌だね」
「え、そうですか?」
ある日の昼食、アキナがそんなことを寺門にいう。
「なんだか学校生活に慣れてきたっていうか、新しい仲間を見つけたって顔してる」
「新しい仲間、ですか……」
「当然、私のことだよね?」
「うん。それもあると思う。けど、それとはちょっと違うかな」
アキナのいう通り、最近はクラスメイトとも交流を図っている。それ以外にも、日々勉強する内容が、新たな知見ばかりであることも関係しているのかもしれない。
そういった意味では、寺門はご機嫌なのだろう。
「リョウ君はすごいんだよ!最近は全属性の中級魔法が使えるようになったし!」
「え、そうなの?そのうち私の事追い抜いちゃいそう……」
「そうですかね?僕からしてみればまだまだって感じですけど」
「ううん。リョウ君は頑張ってる!それは私がずっと見てるから、断言できる」
モニカに実力を保障される寺門。
その感じは悪いものではなかった。誰かに褒められる、それは認めてもらっているのと同義なのだから。
そして時は移ろい、寺門がこの世界に来てから1年と半年が過ぎようとしていた。
その間に、いろいろな出来事があった。
学校行事として体育祭があったり、小旅行として海辺の街へ行ったりして、寺門としては充実した毎日を過ごすことができた。
そしてこの日、卒業をかけた試験が行われる。内容は、筆記試験と実技試験。
筆記試験は簡単だ。中学校までの知識さえあれば簡単に解ける。
実技試験のほうはというと……。
「では、模擬戦闘を開始します。両者前へ」
模擬戦闘として、魔法の撃ち合いみたいなことをする。それをもって、この1年半でどれだけ成長したかを確認するのである。
寺門の相手は、アキナと同じクラスの男子である。
「へっ、下のクラスのやつに引けを取るかっての」
そんな捨て台詞のようなものを吐きつつ、模擬戦闘が開始される。
「うらっ!」
先制は相手の風属性の魔法である。
しかしそれに寺門は動じない。寺門は右手を出して、その魔法を真正面から受ける。
その瞬間、魔法は消失する。
「何!?」
相手は驚いていた。
これが寺門が在学中に手に入れた新たな魔法、「可逆性エネルギー相転移魔法」である。
これは、E=mc^2で表される質量とエネルギーの等価性を利用した、魔法と科学の融合技である。
もちろん、この世界には相対性理論なんてものは、まだ概念も存在しないため、その場にいる人からは「魔法が消失した」ように見えるだろう。
今度は寺門のターンである。
寺門は、手のひらを相手に向けて、得意の火属性を顕現させる。
しかし寺門のすることである。単純な火属性ではない。
その火は超高温高圧にされ、青白く光り輝く。体を魔力の障壁で守っていないと焼け焦げてしまうほどだ。
そしてそれを相手に向けて放つ。
まさに「プラズマショックカノン」という技名が似合う魔法だ。
その魔法は相手を巻き添えにして、蒸発する。
はずだった。
「そこまで!」
相手にプラズマの塊が衝突する前に、教員のストップがかかった。
その直後、プラズマは蒸発した。
もとより、このプラズマは一定時間を経過すると勝手に蒸発するようになっている。
そのため、相手に当たらない距離をあらかじめ寺門は取っていたのだ。
相手の様子は、体の表面に軽いやけどを負った程度である。すぐに治療すれば、問題はないだろう。
「勝者、テラカド」
こうして無事に実技試験も突破することができたのだった。
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