第14話 募集

 早速、冒険者ギルドの掲示板に、パーティー募集の掲示をすることになった。

 もちろん、他の冒険者も同様にパーティーを募集したり、その内容を吟味していたりする。

 そのため、掲示の内容に一工夫加えることにした。


「でも、どうするの?単純にヒーラー募集ってやっても効果薄いと思うけど」

「そうなんですよね。なのでこうしたいと思います」


 そうやって掲示する紙に書き込んだのは、ごく単純なものだった。


『ヒーラー募集。年齢職歴問わず。採用面接あり』


 こんな感じであった。


「採用面接って……」

「まぁ、簡単に行ってしまえば、優秀な人からそうでもない人まで、幅広く募集しようってことです」

「なんか効果薄そうだけど……」

「まぁ、これで来なかったら、またその時考えましょう」


 そうして日時を指定して、掲示板に張り出すのだった。

 その日になるまでは、簡単な依頼をこなしていくことにする。

 とはいっても、片道3日かかるような採取依頼や、崖の途中にあるような危険地帯での採取依頼、危険な魔物が住んでいる森での採取依頼など、どれをやるにしても中途半端な結果に終わりそうなものばかりであった。


「採取依頼に限定すると、こんな感じですか……」

「ならいっそのこと、討伐依頼こなしてみるとかどう?」


 そうモニカに言われ、寺門は討伐関係の依頼も見てみる。その中には、畑に出没するオオアナイノシシの駆除要請、危険なキイロジマバチの巣の撤去など、冒険者というよりかは業者に頼むような依頼ばかりである。その辺も含めて、冒険者は便利屋みたいな所もあるのだろう。


「とりあえず、このオオアナイノシシの駆除でもやっておきますか?」

「場所もそんなに遠くなさそうだし、いいと思うよ」

「では受付に持っていきますね」


 こうして寺門たちは、猪退治のために、近隣の村に出発した。

 その村は、片道6時間程の場所にある。

 そして依頼者である村長に話を聞いた。

 村長曰く、ここ最近、山から猪が降りてきて作物を荒らしているとの事。魔法による簡単な罠も効果なしと嘆いていた。


「猪には罪はないが、やつらは厄介者だ。仕留めた猪はすべからく鍋に放り込むから、遠慮はいらん」

「分かりました。畑に入ろうとしている猪はすべて駆除してよろしいということですね?」

「そうだ」


 村長の了承を得て、寺門たちはその日の晩から畑に張り込むことにした。

 幸い、夜空には月が昇っており、夜目が利きやすくなっている。

 そのため、その晩に現れた猪はすべて狩る事に成功した。

 翌日も近くの畑に潜み、猪を狩る。

 こうして、合計で14匹の猪を狩ることができた。

 これで、しばらくは畑の作物を荒らされることはないだろう。


「よくやってくれた。今日は狩ってくれた猪で鍋を振る舞おうと思うのだが、どうだ?」

「いいんですか?では遠慮なく」


 こうして三日目は報酬代わりの猪鍋を振る舞われ、村人たちに歓迎されたのだった。

 一晩たっぷりと休養した寺門とモニカは、そのまま冒険者ギルドに戻る。

 片道6時間は、彼らにとっては歩ける許容範囲なのだ。

 冒険者ギルドに戻ると、受付で今回の依頼達成を報告する。

 そしてギルドから報酬を受け取り、依頼は完了となるのだ。

 寺門たちは、その報酬で大衆食堂で食事を取る。


「ねぇリョウ君、そろそろアレ、大丈夫なんじゃない?」

「あれっていうのは?」

「パーティー募集のやつ」

「あぁ、あれは確か明後日に面接を行う予定でしたね」

「ほんとに来るのかなぁ?」

「僕たちが心配しても仕方ないですよ。あの掲示を見た誰かが来てくれることを願うだけです」


 そうして寺門が指定した当日。

 掲示の前で待機していると、ローブを深々とかぶった人がやってくる。


「もしかして、僕たちの掲示を見て面接を受けようとした人ですか?」

「は、はい」


 か細く、ギリギリ聞こえる声で返事をする少女。

 一瞬不安はよぎったものの、その考えを振り払う。


「と、とりあえず、他の人も来るかもしれないので、しばらく待ってから場所を移動したいと思います」

「多分ほかの人は来ないと思いますよ」

「……どうしてです?」

「ボクがこの掲示を見ていた時、暴言を吐いていった人たちを見たので……」

「何それ、信じられない」


 モニカが憤慨する。


「そうですか……。じゃあ面接希望者はあなた一人ということでこのまま場所を移しいちゃいましょう」


 そういって大衆食堂へと場所を移す。


「さて、これからあなたの事に関していくつか質問をします。よろしいですか?」

「はい……」

「まずは名前を」

「ニーナ・アーネットです……」

「募集している職種としてはヒーラーなんですが、間違いはないですね?」

「はい……」


 ここまでやって、寺門は思った。

 これではまるで、就職面接のようだと。

 そんな考えはすぐに捨てて、質問を続ける。


「ヒーラーとして使える魔法はどのようなものですか?」

「あの、簡単な回復魔法から、重症用のものまで使えます……」

「なるほど、汎用性は高そうですね」

「そう、ですね」

「これまでの冒険者としての経歴はどうなんですか?」

「えっと、それは……」


 ここで、ニーナが少し狼狽える。


「どうかしたの?」


 モニカも、その様子が分かったようで、ニーナに聞く。


「あの、実は、ここ半年くらいは冒険者らしいことしてなくて……」

「それには理由があるんですか?」

「それは……」


 そういうと、ニーナは次第に涙目になっていき、そしてポロポロと泣き出してしまった。


「え、大丈夫ですか?」

「ごめんなさい……ごめんなさい……」


 そういってニーナはずっと謝り続ける。


「と、とりあえず泣かないでください。あぁ、大丈夫ですから……」

「うぅ……」

「リョウ君、どうするのこの空気……」


 モニカが珍しく寺門に突っかかってくる。

 しばらくして、泣き疲れたのか、ニーナの涙は止まった。


「それで、詳しく事情を聞かせてください」

「それが……、魔術学校を出たのはいいものの、何をしたらいいのか分からなくて、それで試しに冒険者になってみようと思ってなってみたら、今度は仲間をうまく探すことが出来なくて、それで一人で採取依頼をこなしてたら一人でいるのが普通みたいになっちゃって……」


 事情はだいたい把握した。

 要するにコミュニケーションが足りずにパーティーを組むことが出来なかったということだろう。


「ねぇねぇリョウ君」


 モニカが小声で話しかけてくる。


「この子正直どう思う?」

「今まで苦労してきたのは分かるんですが、どうも人との接触を避けている感じはありますね」

「そうかもしれないけど、完全に扱いづらい部類の子でしょ?どうするの?」


 ここで採用見送りとして突き放すなら簡単だろう。

 しかしその後のことは?彼女は新しい困難にいくつも立ちはだかることになるだろう。

 そんなことは、寺門としては積極的に取りたいようなものではなかった。

 それを確かめるように、寺門は質問を投げかける。


「アーネットさん、もし僕たちのパーティー募集がなかったら、今後の生活はどうしていたと考えますか?」

「……分かりません。もしかしたらどこかの森の中でコロッと死んでたかもしれません」


 この質問で寺門の心は決まった。


「分かりました。あなたを僕たちのパーティーにいれます」

「リョウ君本気?」

「ただし、これから数ヶ月間は仮のパーティーメンバーとして活動してもらいます。その時の活躍次第では、正式にパーティーに加入させましょう」

「あ、ありがとうございます……!」


 ニーナはまた泣き出しそうになっていた。

 その目の前でモニカが寺門に聞く。


「ほんとに大丈夫なの?」

「正直ここだけの話、彼女を放置していると本当に死んでしまう可能性もありますからね。僕たちで保護する感じでお願いします」

「言いたいことは分かるけど」


 こうして、寺門たちのパーティーに新たなメンバーが加入することになった。

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