第9話 関係
寺門の学校生活は、とんでもない形で始まった。
日本でもあったが、クラスに一人くらいはいるガラの悪い生徒。その一人が、寺門に突っかかってきたのである。
「おいテメェ、さっきガンつけてきたよな?」
「そんなことはしてませんけど」
「んなわけあるか!テメェは確実に俺にガンつけた!喧嘩売ってんのか?」
「そんなわけないじゃないですか。言いがかりですよ」
「あ?なめてんのか?」
この時は放課後であったため、寺門は逃げるように教室を去った。
だがこの日以来、この学生――のちにガウェンと知る――は寺門に何かとちょっかいをかけるようになるのだった。
翌日からは本格的に座学が始まる。
寺門は言葉は理解できるものの、文字を読み取ることに必死であるため、授業では一刻も集中を切らさないように授業に集中する。
しかしそんな寺門を見て、先日からちょっかいをかけているガウェンは、この授業中でもいたずら仕掛けようとしていた。
位置的には席は離れているものの、小さい初級魔法を使ってノートや寺門の体に向かっていたずらをする。主に水属性の魔法を使ってのいたずらだ。
水なら被害が出ても、最小限にとどめられる。そういった意味では最適ないじめの方法なのかもしれない。
そんな感じで、机の上を一面水で濡らされる寺門。せっかく書き留めていたノートも台無しだ。
しかしそんなことで動揺する寺門ではない。
寺門は、机の上にかけられた水を、魔法によって一滴残らず回収する。ノートにしみ込んだ水すらも回収した。
そしてその水を、今度は魔力へと再変換する。これは、魔力はエネルギーの一種であるという仮説に基づいて、質量とエネルギーの等価性に当てはめた一つの魔法である。
これにより寺門の机の上は何事もなかったかのような状態に戻る。
「ちっ」
これを見ていたガウェンは舌打ちをする。
寺門はなぜ、こんなにも冷静でいられたのだろうか。
それは、寺門は過去にいじめられていた経験があるからだ。その時は友人のアドバイスがあって乗り切ることができた。
そのアドバイスは、『どんなことがあっても反応を見せないこと』である。
こういういじめやいたずらは、たいていの場合相手がどのような反応をするのか見たがっているものだ。もちろん、これに当てはまらない場合もあるが、一定の効果は認められるだろう。
そんな感じで、ガウェンからのいじめやいたずらをことごとく回避していく寺門。
寺門はかなりうんざりしている感じであった。
しかし、そんな中でも楽しみなことはいくつかある。
その中に一つに、アキナとの交流があった。
「リョウは最近はどう?元気にやってる?」
昼休みの中庭。そこでサンドイッチを食べながらアキナと会話をしていた。
「一番上のクラスだから、授業のペースもすっごい早いんだよ。板書についていくのがやっとの状態だよー」
「お互い苦労してますね」
そんなことを愚痴りながら、二人は昼食をとる。
もしこんな所をガウェンに見られでもしたら、アキナに被害が及ぶ可能性がある。それだけはなんとしてでも阻止しなければいけない。
しかし、この日も、また別の日も、まったく問題なく昼食をとることができたのだった。
寺門とアキナはいつも同じような時間、同じような場所で昼食をとっている。時々学生食堂を利用することもあるくらいだが。
それ以外にも、寮にいる時や学校をうろついている時など、無防備な時はいろいろある。
しかし、そんな時にガウェンからのいじめやいたずらを受けたことはなかった。
その理由を、寺門はある日知ることになる。
それは早めに昼食を食べ終えて、教室に戻った時だった。
教室からなにか怒号が聞こえてくる。
「いい!?ガウェン君がやっていることは全部分かってるんだから!」
「分かったから、そんなに怒るなよ委員長……」
あのガウェンが気圧されている。その相手は学級委員長であるモニカ・クルーガーだった。
このクラスでも随一の実力を持っており、水と風属性が使える有能だ。この間行われた小テストの結果でも満点を取る程の頭脳の持ち主でもある。
寺門は、なぜ彼女がこの一番下のクラスにいるのか分からないでいた。
そんな寺門のもとに、モニカが近づいてくる。
「リョウ君、今日も厄介払いは済ませておいたからね」
「えっと……厄介払いって何かな?クルーガーさん」
「モニカで大丈夫だよ。グウェンたちがリョウ君のことをいじめてたから、もういじめないように忠告しておいたの」
まるで寺門に媚びるような言い方をするモニカ。敵対しないだけマシなのだろうか。
「もし今度、リョウ君をいじめるようなことがあったら私に言ってね」
そういって自分の机の方に行くモニカ。
完全にクラスで浮いているが、実力が伴っていないわけではないため、なんとも言い難い立場に立っている彼女であった。
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