第7話 試験
それからまたしばらく時間が過ぎ、いよいよ魔術学校の試験日が近づいて来る。
この日は、アキナと寺門が魔術学校に行くための準備が進められていた。
「持ち物はこんな感じかな」
バッグに必要なものを詰めて、準備を終える寺門。
あとは、これまで身に着けてきた勉強の成果を見せるだけだ。
そう張り切っていると、部屋がノックされる。
入ってきたのはアキナであった。
「アキナ、どうしたんです?」
「うぅん、ちょっと不安になってきちゃって……」
「不安ですか?」
「私、明日の試験に合格すれば、魔術学校に通えるんだよね。でも家の外にあんまり出たことないし、友達も少ないし……。もし学校でうまく行かなかったら、私どうしよう……?」
箱入り娘なりの不安が彼女にのしかかっているのだろう。
寺門はなだめるように、アキナに話しかける。
「アキナ、あなたは大丈夫。僕だって、この家に来て1,2ヶ月くらいしか経ってないけど、ちゃんと馴染んでいるでしょう?それと同じように、アキナも学校に入って、しばらくすればちゃんと馴染めるようになりますよ」
「でも、もし友達が出来なかったら、私、独りぼっちになっちゃう……」
「それも大丈夫。まったく見ず知らずの僕と友達になれたんですから、問題はないですよ。それに、僕も一緒に入学しますから、大丈夫です」
そのように説得されたアキナは少し涙ぐんでいた。
「うん、分かった」
「それなら良かった」
「でも、リョウが友達出来なかったらどうしよう……」
変なことを考えるアキナ。寺門は思わず変な声を出しそうになった。
「ぼ、僕は大丈夫ですよ。なんたって異世界人ですから」
「そう、だよね。うん」
そういってアキナは納得する。
「相談に乗ってくれてありがと。また明日ね」
そういってアキナは寺門の部屋を出る。
「悩み多き思春期か……。若いねぇ」
寺門自身も若いが、アキナより数年長く生きている分、アドバイスできる部分もある。
今回はその部分が活きた形だ。
「さて、僕も最後の準備をしなけれれば」
そういって机のロウソクに火をともす。
試験前、最後の追い込みというやつだ。
そして翌日、アキナと寺門はスカーレット家の馬車を使って、隣街にある魔術学校へと出発した。
アキナは、前日のような不安さは残っていないように見える。
寺門は、自分のアドバイスが生きていることを願って、言葉の復習をしているのだった。
そして半日して、馬車は魔術学校がある街に到着する。
この街は大半が魔術学校に属する生徒で構成されていて、街全体が学校の関連施設のようになっている。
これは、寺門の感覚で言えば学園都市というものになるだろう。
また、街の外郭部分には宿泊施設が充実しており、魔術学校に来る人々を受け入れられるようになっている。
そんな宿泊施設に、アキナと寺門が宿泊する。馬車の御者は、馬の世話と保守管理を行うため、宿泊施設に併設されている敷地で寝泊りする予定だ。
宿は比較的安い場所を選んだ。寺門としてみれば、他人の金でこうして学校の試験を受けさせてもらっているため、少しでも安く済ませようとしているのだ。
アキナには申し訳ないが、二人で一室に宿泊することにした。これも金銭的な問題で仕方ないとした。
こうして宿で一夜過ごして、翌日。
この日が入学試験当日である。
「持ち物準備、良し」
寺門は部屋を出る前に、荷物の確認をする。
「リョウ、準備終わった?」
「今終わりましたよ」
「それじゃあ行こっか」
二人は宿をあとにして、魔術学校の敷地を目指す。
朝早くにも関わらず、学校の校舎の前には多くの受験者があちこちを行き来していた。
「魔術学校一般教養コースの受験希望者はこちらに並んでくださーい。最後尾はこちらになりまーす」
そういって係員が受験者を誘導する。
その誘導にしたがって、寺門たちは受験会場に向かうことができた。
整理番号を受け取ると、まずは筆記試験を行うために、会場となる教室へ案内される。
「えー、それでは、これより魔術学校入学試験、筆記試験を開始します。始め」
そういわれて、寺門は筆記試験に臨む。
読みは問題ない。書きも問題ない。あとは問題を解くだけだ。
こうして筆記試験を何とか終えることができた。
次は実技試験である。
また場所を変え、今度は演習場だ。
そこには、スカーレット家で見た的が遠くにポツンとあった。
「受験者の諸君、この実技試験の内容は簡単である。ある程度離れた位置から、あの奥にある的に向かって得意な魔法を打ち込んでもらうだけだ。しかしこれで毎回落とされる受験者がいる。今年は何人落ちるか見物だな」
このようにしてプレッシャーをかけてくる試験官。アキナもビビっているようだ。
そして実技試験が開始される。
順番に的に命中させていき、アキナの出番になった。
「ふぅ……」
アキナは一回集中すると、手を前にかざし、水玉を作る。
そしてそれを射出した。
勢いよく出た水玉は、見事的に命中する。威力も十分だ。
「よしっ」
アキナは小さくガッツポーズする。寺門は、無事にアキナが試験を終えられたことに安堵する。
だがいつまでもそういう気分でいる場合ではない。次は寺門の出番だからだ。
「リョウスケ・テラカド、次の番だ」
「はい」
寺門は指定された場所に立ち、的を見やる。
模擬試験の時と一緒だ。精神を集中し、魔力を一点に集める。
寺門は拳銃のジェスチャーをする。その瞬間、周囲がザワッとした。見たこともないポーズをしているからだろう。
寺門はそのまま指先に魔力を集中させ、魔法を顕現させる。
指先に爪程度の小さい火の玉が出現した。
それを見て、同じ受験者が鼻で笑う。
しかしここからが本題だ。
寺門は火の玉にジャイロ効果を持たせるため、高速で回転させる。そしてそのまま狙いを定め、射出した。
その勢いは速く、とてもじゃないが目で追いつけるようなものではなかった。
魔法を放っていたら、直後には的に命中していたのだ。
試験官は呆気に取られていたが、すぐに自分の仕事に戻る。
「試験終了。退出してもらっても構いません」
無事に実技試験をやり切った。
試験会場をあとにしてから、アキナと寺門は宿に向かう。
「何とか試験終わってよかったね」
「そうですね。あとは結果が出るのを待つだけですね」
「あー、なんだかドキドキする。確か明日の午後には合格発表なんだよね?」
「日程としてはそうなっています。それまでは宿でゆっくりしていましょう」
「そうだね」
そうして宿で過ごし、翌日。
合格発表の時がやってくる。発表場所である魔術学校正面入口にはたくさんの受験者が押しかけており、賑わいを見せていた。
そしてついにその時がやってくる。
仮設の掲示板に受験者の番号が書かれた紙が貼り付けられていく。
ここに番号があれば合格である。
そして前方ではこの結果に、一喜一憂する受験者たちでにぎわっていた。
ゆっくりとではあるものの、合格者発表の掲示板に近づいていく。
そして手元の番号を照らし合わせる。
「あ、あった!リョウ!私のあった!」
「僕のもありました。これで二人そろって合格ですね」
二人は喜びを分かち合う。
こうして二人は魔術学校に入学することが決定したのだ。
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