第5話 提案
スカーレット家でお世話になること1週間。
毎日のようにアキナの相手をしていて、若干息が上がってきた寺門であった。
ある日の夕食、エボルトがある提案をする。
「リョウ、学校に行ってみないか?」
「学校ですか?」
「そうだ。ここから馬車で半日した所にある魔術学校だ。私もそこの学校を出たんだが、いい学校だ」
「でも、どうして急に学校のことなんか出したんですか?」
「まぁ、これは私個人の考えなんだが、君には自立した生活が必要だと思ってな。いつまでもスカーレット家にぶら下がっているわけにも行かないだろう」
「それはまぁ、そうですけど……」
「それに、君自身魔法というものに慣れる必要があるだろう?話を聞く限りでは科学技術が発達した世界で、魔法の類いは一切なかったようだからな」
「確かに」
「魔法なら私が教えてあげるよ」
「アキナは中級魔法が使えるんだったな。でもまだ人に教えられるようなものではないだろう」
「むぅ。できるよ」
そんな押し問答が始まる。
「それに、リョウはこの世界に来て日が浅い。慣れるという点でも学校に通うのが得策だと思うんだがね」
「それもそうかもしれません」
「そんなわけだから、私個人としては学校に行くことをおすすめするよ」
「はぁ。でもいいんですか?学校なんかに通っても」
「もちろん。しかし対価は支払ってもらう」
「対価、ですか?」
そういってエボルトは食事する手を止める。
「そう、対価だ。私は学校に収める入学金や授業料を提供する。その代わり、学校を卒業したら冒険者になってもらう」
「冒険者、ですか」
「冒険者は、今や公務員に次ぐ人気職業だ。うまく依頼をこなしていけば、それなりの収入を得ることができるだろう」
「そうなんですか」
「そうだ。そこで冒険者になって、その収入をもって魔術学校に払った金額分を返済してもらう。どうだ?」
「でも、自分がどれだけできるか、まったく分からないですけど……」
「それなら大丈夫だ。我が家には手慣れの魔術師がいる。普段はアキナの面倒を見てもらっている者だ。彼女なら何とかしてくれるだろう。それに、君はアキナを助けたとき、魔法を使ったことがないのに、魔力を上手に扱えていたそうじゃないか」
「確かにそうですけど……」
「ならなんの問題もない。ぜひとも、君にはその高い能力をいかんなく発揮してほしい」
そういわれてしまっては、寺門も引き下がるわけには行かないだろう。
「分かりました。魔術学校に行くことにします」
「それでいい」
早速翌日から魔法の授業が始まった。
魔術師はエボルトとそう変わらない年齢の女性であった。
「それではまず、どの魔法が適性を持っているのか、これを使って確かめましょう」
そういって取り出したのは、ひとかけらの石であった。
「これは?」
「これは特別な魔法石です。ここに魔力を通すと、適性のある魔法に変化するんです」
「へぇ……」
「私もこれ最初にやったなぁ」
そんなことをアキナが横からいう。
それを無視して、寺門は魔石を受け取る。
「では魔力を流し込んでみてください」
寺門は言われた通り、魔力を魔法石に流し込む。
とは言っても、どうやるのか分からないため、とにかく魔法石に精神を集中する。
すると、寺門の中で何かがグラッと揺れ動いた。
粘度の高い流体が、全身から魔法石の方に流れていく感覚を覚える。
そして魔法石が輝きだした。
次の瞬間、魔法石から虹色の光があふれだす。それと同時に、火、水、土、風が一斉に顕現した。
「うわ、わ、わ」
寺門は慌てて、魔力の流れをせき止める。
それを見ていた魔術師とアキナは唖然としていた。
「ま、まさか全属性使えるというの……?」
「すっごーい!リョウすごいよ!」
「え、え、これ大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ、あなたは珍しい体質をしているのね」
「珍しいんですか?」
「全属性を使える人は何回か見てきたけど、ここまですごいのは初めてよ」
「そうなんですか」
「ちょっと手相を見せてもらってもいいかしら?」
そういって魔術師は寺門の手相を観察する。
「……正直驚いているわ。あなた、神秘十字を持っているのね」
「神秘十字?」
「そう、感情線と頭脳戦を結ぶ横線に縦線が交差して十字になっているわ。これは大賢者やそれに類する人間に特徴的に現れるものよ。しかも左手だけでも珍しいのに、両手に出ているなんてかなり珍しいわ」
「そうなんですか……」
寺門は手相には詳しくないため、言われたこと以外は分からないが、とにかく珍しいことははっきりと分かった。
「とにかく、あなたは稀有な存在とも言えるわ。魔法石があのようになったのも納得するわ」
なんだか魔術師が勝手に推測をしているのだが、とにかくいい手相であることは間違いないようだ。
こうして、学校の入学試験までの特訓が始まったのであった。
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