第4話 昔話

 寺門はなんともあっさりと衣食住を保障してくれる場所に転がり込むことができた。

 早速メイドに案内されて、その部屋へと赴く。

 その部屋は長年使われていないのか、少し埃っぽさが残っていた。


「申し訳ありません。この部屋を直ちに使うとは思わず、このようなみっともない状態で使わせるなど……」

「いえ、こっちが勝手に来たものですから。仕方ないことです」


 そんな話をしていると、アキナがやってくる。


「リョウの住む部屋がないの?」

「いえ、掃除が行き届いていないだけで、あるにはあるのですが……。すぐに使うことができないだけですので」

「なら私の部屋に来ればいいじゃない」

「しかし、お年頃のお嬢様の部屋に行くなんて、そんな破廉恥なこと……」

「大丈夫よ。リョウなら何もしないわ。私が保障する」


 そうアキナが胸を張って言う。

 そこまで言われてしまっては、メイドの立場もない。


「リョウは私の部屋で、異世界のことについて話してほしいの」

「それならお安い御用だ。僕の知っている限りの生活を教えてあげよう」


 そんなことを話つつ、寺門はメイドに耳打ちする。


「お嬢様が寝たら、部屋から出ますので、その時になったら使用人の部屋にでも案内してください」


 そういって、寺門はアキナに手を引かれて部屋へと向かっていく。

 そうして、寺門はアキナの部屋に入ると、自分の生前の話をするのだった。

 地球のこと、文明がどれだけ発達していて、どんな技術があるのか、スマホの中にある写真を見せながら話す。

 やがてアキナが眠りについたころを見計らって、寺門はアキナの部屋を出る。

 そのまま屋敷の中を散策した。

 すると、明かりのついている部屋にたどり着く。そこにはエボルトがいた。


「入ってきたまえ、リョウ」

「失礼します」


 そういって部屋に入る。


「君とは一度話をしておきたかった」

「と、言いますと?」

「若いのに、なかなか大人びているように感じてね」

「そうですかね。自分は普通の対応をしているだけですよ」

「そうとは限らないからな。君、過去に何かあったんじゃないか?」


 そういわれると、一瞬寺門の顔が曇る。


「……実は幼い時に両親を亡くしているんです」

「そうか、それはいけないことを聞いてしまったな」

「いえ、いいんです。仕方のない事故だったものですから」


 小さくロウソクの火が揺れる。


「まぁ、深くは詮索はしないことにするよ。アキナが信頼を寄せているようだからな」


 そういってエボルトは手に持っていた飲み物を飲み干す。


「今日は客人用の部屋を使ってもらって構わない。今日は特別だ」

「何から何までありがとうございます」

「何、いいさ。せっかくの異世界人なんだからな」


 そういってエボルトは部屋から退出する。

 それと入れ替わるように、メイドが入ってくる。


「本日のお部屋にご案内します」

「お願いします」


 そういって寺門は客室に案内された。

 翌日、誰かの呼び声で起こされる。


「リョウ!起きて!」

「アキナお嬢様、まだ時間が早いのでは……」

「いいから起きて!それに私のことはアキナでいいって言ってるでしょ!」


 そういって、寺門はアキナに引きずられるように、ベッドから起き上がる。

 そして、その日も朝から晩まで、アキナのやることに付き合わされるのだった。

 夜。寺門の部屋の掃除が完了したとのことなので、部屋に入る。

 簡素なベッドと机一式がある以外は何もない、質素な部屋だ。


「掃除ありがとうございます」

「それは私たちの仕事ですから。感謝は不要です」


 そういってメイドは去っていく。

 部屋に入り、ベッドに横になる。

 そのまま眠りへとついていくのだった。

 それから数日。毎日のようにアキナのすることに付き合わされる寺門。

 夜にエボルトにそのことを愚痴ったのであった。


「……というわけで、ここ毎日のようにアキナと遊んでいるような感じです」

「はっはっは、そうかそうか。それだけアキナに気に入られたのだろう」

「そうなんですか?」

「あの子はこれまで箱入りで育てた分、人との接触が少ない。この間勝手に街に出たのも、私の教育方針に間違いがあったからかもしれないがな」


 そういってエボルトは悲しそうな顔をする。そこには後悔の念が込められているようだった。


「そんな時に君がやってきた。同世代の人間がやってくるなんて、あの子にとっては願ってもないことだっただろう」

「だから、うれしくて僕と一緒に遊んでいるというのですか」

「おそらくそうだろう。君もあの子と遊んでリフレッシュしているじゃないか?」

「そう、かもしれませんね」

「まぁ、あの子もいろいろあるからな。申し訳ないが、君にはもう少しあの子のすることに付き合ってやってくれ」

「はい」


 そういって夜は更けていく。

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