第3話 お茶会

 街中を歩いている道中、少女と話をする。


「あなた珍しい恰好しているのね」

「え?そうかな……」


 そういわれて服装をチェックする。どこにでもありそうなブレザーの制服だ。

 どこかおかしいものがあるのかと思って見るが、そもそも中世ヨーロッパ風の世界に制服は似合わないだろう。そういった意味で彼女は言ったのかもしれない。


「なんだか、昔話に出てくる異世界人のようね」

「異世界人?」

「あなた知らないの?この世界には、まれに世界の外からやってくる人間がいるの。伝説によれば、女神が気まぐれで異世界人をこの世界に送っているそうよ」

「へ、へぇ……」


 どうもこの世界では、異世界人に対する敷居が低くなっているようだ。


「もしかして、あなた異世界人?」

「い、いやぁ、それはどうかな……」


 今はまだ、はぐらかす時だと寺門は考えた。


「そういえば、まだ名前も言ってなかったわね。私はアキナよ」

「寺門陵介です」

「なんだか言いにくいわ……。テラ……、リョウ……。そうね、あなたのことはリョウって呼ぶわ」

「あはは……、ご自由に」


 そのまま歩いていくと、前方に立派なお屋敷が見えてくる。

 すると、アキナが少しソワソワしだす。


「どうしたんです?」

「ちょ、ちょっとね。そろそろ家だから大丈夫よ」

「え、家って言っても、この辺露店くらいしか……」


 その時、一陣の風が吹き、アキナのかぶっていたフードがめくれる。

 フードの中からは、紅く燃えるような髪の毛が現れた。

 すると、お屋敷の方から大きな声が響く。


「アキナお嬢様ー!」

「げ、じいや……」

「じいや?」


 お屋敷の方から、一人の男性が走ってくるのが見えた。

 アキナは思わず、寺門の後ろに隠れる。


「やや、あなたは?」


 じいやと呼んだ男性が寺門に接触する。


「あー、僕はこの後ろにいるお嬢さんを下衆な男たちから助けた者でして……」

「本当なのですか?お嬢様」


 男性は後ろにいるアキナに聞く。

 アキナは素直に首を縦に振った。


「まったく、勝手に外に出歩くからこうなるんですよ。お嬢様がご迷惑をおかけしました」


 そういって男性は頭を下げる。


「いえいえ、困っているならお互い様ですし」

「しかし、助けてもらっているにもかかわらず、何もお返しができないのは、いささか割に合わないのでは?」

「そうですか?でもこれから行く当てもありませんし……」

「なら、我が家でお茶でも飲んでいかれては?」


 そうアキナが提案する。


「そうですな。お嬢様を助けていただいた方ですし、お屋敷でゆっくりお休みになられてはいかがでしょう?」

「そういうなら、お言葉に甘えて」


 そうして寺門は、アキナの家であるお屋敷に招待されることになった。

 お屋敷の敷地に入ると、そこはもはや城のような感じである。

 庭や小さいながらも噴水があり、それだけでここがどれだけ裕福であるかを物語っている。

 そのままテラスへと案内された。


「では、お嬢様はお着替えをするので、ここで失礼させてもらいます」


 そういってアキナはメイドに連れられて奥の方へと消えていった。

 一方テラスでは、じいやと呼ばれた男性が、お茶会の準備を進める。

 突然の訪問者であるにも関わらず、テキパキと準備が進められていく。

 そうして、寺門の前に紅茶が用意される。


「どうぞ」

「これはどうも丁寧にありがとうございます」

「いえいえ、当然のことをしたまでです」


 そんなことを言っていると、アキナが戻ってきた。

 フリルの付いた真っ白なドレス調のワンピースを着ている。


「よくお似合いですよ」


 そう、寺門が言う。


「ありがとうございます」


 そういって、丁寧に返事を返すアキナ。そのしぐさから、良い教育を受けていることが分かる。


「さぁ、お茶会にしましょ!」


 そういってお茶会が始まった。お茶会では、主にアキナが自分の話をするのに夢中であった。寺門はそれに対して、にこやかに話を聞いている。

 そんな時、奥から誰かがやってくる音が聞こえた。


「おや、見たことない客人だな」

「ご主人様、お仕事のほうは終わられたのですね」

「お父様!」


 そちらの方を見ると、まだ30代後半だろうか。そのくらい若い男性が出てきた。


「じい、こちらの方は?」

「こちらの方は、アキナお嬢様が勝手に外出した所を保護してくださった方です」

「そうか。愛娘が世話になった」

「いえ、自分の良心に従ったまでです」

「どれ、私もお茶会に参加しようか」

「お父様も!?」


 アキナはうれしそうに言う。その言葉で、父親との関係を測ることができた。

 そしてお茶会は続けられる。


「ところでリョウ。君はどうしてこの街に来たのかね?」

「と、言いますと?」

「この街や周辺は私の領地であるからな。途中の関門を通ってきてないのかね?」

「……えっと」


 寺門は動揺する。もしここで下手なことを言ったら、最悪の展開が待っているからだ。

 しかしアキナが言っていた通り、この世界が異世界人にとって敷居が低い場所ならば、自分の正体をバラしても問題はないだろう。

 寺門は決断する。


「実は、この世界ではない、異世界から来た人間なんです」

「となると、君は異世界人になるのかね?」

「そうなります」

「やっぱり異世界人だったのね!」


 アキナが興奮気味になる。


「そうか、君は異世界人なのか」

「はい」

「通りで見たことない服装をしていると思ったよ。我が領土に異世界人が来るのは公式に見れば、これが初めてかな」

「左様でございます」


 じいやが答える。


「ならば歓迎しよう。その様子だと、この世界に来てまだ日も経たないだろう?我が屋敷の一室を居住に使うと良い」


 そういって、寺門に手を差し出す。


「挨拶がまだだったな。私はエボルト・スカーレット。現スカーレット家当主だ。よろしく」

「よろしくお願いします」


 順番が逆になっているような感じもするが、二人は挨拶をする。

 こうして、寺門はあっさりスカーレット家に受け入れられることになった。

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