第33話 授業参観

「クラリス、ソワソワしすぎじゃない?」

「逆に何でマリアンヌはそんなに落ち着いてるの!? 父さまも母さまも見に来るかもしれないのよ!?」

「だって私、二人とも来るって知ってるもの」

「え、な……っ、どうやって!?」

「こまめに手紙書いてるし」

「あぁああああ、私、絶対に怒られる……!!!」


 NMAに入学し、慣れてきたタイミングでの授業参観。

 先日のオーガとの一件でバタバタしてたせいで、私は授業参観があることを聞き逃していたため、今朝担任の先生から「明日の授業参観の件ですが」と話をされたとき「じゅ、授業参観!?」と教室内で大声を出して注目を浴びたのは記憶に新しい。

 それからというものソワソワと落ち着かず、しかもマリアンヌから手紙の話題が出るまで今の今まですっかり手紙を出すのを忘れていた私は、あれだけ念を押されていたのに忘れるだなんて二人から何を言われるか、と考えるだけで恐ろしく、顔が青ざめる。

 しかも授業参観のあとには学園長との親子揃っての面談もあるらしく、もう今から双方から何を言われるのかと心臓が飛び出そうなほど緊張していた。


「もう今更だし、授業参観は明日なんだから今から緊張してもしょうがないでしょう?」

「うぅうう、そうなんだけどさ。ねぇ、マリアンヌ。今から手紙を書いたら大丈夫だと思う?」

「さすがに無理じゃない?」

「ですよねー!!」


 このメンタルで今日一日持つだろうかと胃がキリキリする。

 とはいえ、時間はあっという間に過ぎていき、気づいたときには授業参観当日だった。



 ◇



「では、本日の課題はよく魔道具に使用されるミスリルの生成をしてもらいます。ミスリルはご存知の通り、魔力を宿す武具を作ることができる素材で、とても柔軟性を持っている加工するのに優れた鉱物です。一般的にミスリルは発掘で得られる鉱物ですが、錬金術でも生成可能です。教科書をよく見て授業時間内にミスリルを作り、提示してください。ちなみに本日は授業参観ですが、あまり保護者の方々のことを意識せずに普段と同じように授業に臨んでくださいね。それでは各自、素材と道具を持ってペアを組んでください」


 (よりにもよって授業参観の授業が錬金術の授業とはツイてない……)


 錬金術自体はとても面白くて好きな授業なのだが、いかんせんペアで受けることが必須なのがネックである。

 普段の錬金術の授業では毎回エディオンとペアを組んでいるが、今回の授業参観では何としてでもこの事実は隠し通さねばならない。


 (なぜなら、もしその事実を知られたならばきっと根掘り葉掘り二人から詳細を聞かれ、王家とのご縁ができるだなんて、絶対に彼を逃すんじゃないと説得されかねないからだ……!)


 だから、まかり間違っても私がエディオンとペアになっていることは両親に見られることはあってはならない。

 そのためには、何としてでもエディオンに声をかけられる前に他の誰かとペアにならなければならない。

 チラッとエディオンを見ると、これを好機だとばかりに自分の両親達にエディオンと仲良しアピールをしたい人達が彼のとこにこぞって群がっていて、今ならまだ他の相手を探す余裕があった。


 (チャンス! この隙に別の人とペアを組まなければ……っ!)


 誰に声をかけようかとキョロキョロ見回して考えていると、教室の外がザワザワと騒がしいことに気づく。

 どうやら保護者が到着したらしい。


「では、どうぞ保護者の方々は中に自由にお入りください。なるべく子供達の邪魔はしないようにお願いしますが、ぜひともどのように授業を取り組んでいるか間近でご覧ください」

「私の親が来たわ」

「僕の両親も来てる」

「母さま〜」


 (もしかしたら二人は忙しくて今日来れないなんてこともあるかも……? そうすれば、どうにか……)


 なんて淡い期待をしつつ後ろをチラッと振り向けば、ちょうど教室に入ってきた二人と目がバチッと合ってしまった。


 (そんなに人生甘くはないわよねーー!)


 慌ててサッと目を逸らす。

 想定内ではあるが、やはりそう都合よくことは運ばないらしい。

 元々不運なことには慣れているので、そこまで衝撃ではなかったものの、やはり心構えできてなかった私としては非常に気まずくて身が縮む思いだ。


 (と、とにかく誰かペアを……っ!)


 ダラダラしていたらいつエディオンが私のところに来るかわからない。

 そんなことを考えつつ目に飛び込んできたのはアイザック。

 私には彼しかいない! と私はすぐさま彼の制服をガシッと掴んだ。


「……何だ?」

「一緒にペア組んで」

「なぜだ? クラリスはいつもエディとペアを組んでただろ」

「いいから。お願い。一生のお願い!」

「随分と安い一生のお願いだな。……まぁ、いいが」

「やった! ありがとう、アイザック!」


 (アイザックがいてくれて本当よかった……!)


 困ったときのアイザックと化している気もするが、なんだかんだで頼むと頷いてくれるのでありがたい。

 アイザックといつもペアを組んでる相手には申し訳ないが、今日は喪女生活を送ってるというところを両親に見せるために、何としてでもエディオンから離れればならなかったのだ。

 視界の端でエディオンがショックを受けているのが見えるが、私の人生のためなので甘んじて受け入れてもらうしかない。

 ……実はアイザックも魔法統括大臣の息子なことをすっかり忘れながら、とにかく私は喜んだ。

 これで両親から無駄に茶々を入れられることはなくなった、と内心ホッとするのだが、そう簡単にはいかないのが私の悪運の強さであった。

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