第28話 防衛術
「遅いぞ、お前達。珍しいな、三人が遅刻しそうになっているのは」
校庭に着くと防衛術の先生であるグリゴリオ先生が仁王立ちで構えていた。
グリゴリオ先生は巨人族とのハーフだそうで、私の三倍以上はありそうな巨体なために威圧感が半端ない。
見た目もとても厳つくて、ぎょろりと鋭い瞳で睨まれると石化しそうなほど恐怖を感じる恐い先生だった。
ちなみに、普段の学校生活ではこの巨体だと不便ということで、縮む魔法を使って私達と変わらない大きさで生活している。
「はぁはぁはぁはぁ、す、すみません」
「ちょっと、色々とありまして」
「まぁ、いい。今日は実技訓練だ。ビシバシ鍛えるから覚悟しておけ」
「はい」
慌てて私達はすぐにみんなと同じ列に並ぶ。
どうにか授業に間に合ったが、全速力で走ってきたせいでゼェゼェはぁはぁと息が荒く、肩で息をしている状態だ。
汗で服が肌に張りついて気持ち悪い。
正直、寝たきり後からの一発目の授業でこうして走るのは、鈍った身体にはとてつもない負担だった。
(あぁ、せめて途中で水分補給でもしておけばよかった)
さすがにしんどいと貧血でふらふらっとしていると、横からガッとアイザックに肩を掴まれて彼のほうへ引き寄せられる。
力強く抱きしめられたことの羞恥心で一気に血の巡りが良くなったのか、貧血がどこかへ吹っ飛ぶ。
代わりにカッと顔が熱くなって、また違った意味で汗が噴き出した。
「大丈夫か?」
「う、うん。ありがとう」
不意打ちにしどろもどろになると、横から不穏なオーラを感じてそちらを見ればエディオンが憤怒のオーラを纏ってこちらを見ていた。
そして、すかさずアイザックの手を私の肩からやんわり外してくる。
「僕のほうに寄りかかっていいよ? ごめんね、僕達のせいで走らせてしまって。僕が抱えて走ればよかった」
「う、ううん、大丈夫! ずっと寝たきりだったから身体が鈍ってただけだし、リハビリのためにも動かないとだから、気にしないで!」
エディオンなら本当に抱えながら来そうだと思って慌てて取り繕う。
エディオンに抱かれながら授業に行くとかどんな罰ゲームだと内心血の気が引く。
「そうかい? でも途中で具合が悪くなったらすぐに教えてね? 医務室に連れて行くから」
「ありがとう、何かあればすぐに言うわ」
私がそう答えるとエディオンは満足したように先生の方を向く。
私もずっと私語していてはダメだと、授業に集中することにした。
「つまり、防衛術は自分に最適な魔法、使い勝手のいい魔法で素早く出せることが最も重要だ。下手に難しい強い魔法を出そうとしてもその間にやられてしまうからな。そういえばマルティーニは最近防衛術を使ったそうだが、実際どうだった?」
「え? あ、はい!」
グリゴリオ先生に突然指名されて慌てて手を上げて前に出る。
みんなの注目を集めていることにキュッと心臓を縮めながら、周りをなるべく見ないようにし、先生に意識を集中することにした。
「えっと、すごく、難しかったです。逃げることと戦うことと焦りと恐怖でパニックで、思考は限られるし、咄嗟に出せる魔法も限られてくるので、いっぱいいっぱいでした」
「なるほど。ちなみに、マルティーニは何の魔法を出したんだ?」
「私は、火の魔法でした」
「あぁ、キミは入学式でも火の魔法が溢れたらしいからな。きっと適正があるのだろう。マルティーニ、貴重な体験話をどうもありがとう」
「い、いえ」
(適正というか、もはや呪いみたいなものだけど)
自分自身では火の魔法はなるべく避けたかったのだが、ここまで縁があるとなると認めざるを得ない。
周りも「あぁ、確かに」と納得しているところを見るのも複雑ではあるが、ある意味今回ばかりは火の魔法で生き残れているのだから素直にそこは認めなければならないだろう。
「ということで、適正がある魔法、自分にとって身近な魔法が最も出しやすく、身を守るのに最適だ。実際、瞬時に自分の身を守らなければならないことに直面すると、人は無力だからな。そして何度も経験を積み、身体に教え込むことでゆくゆくは緊急事態でもそれなりの魔法が出せるようになるはずだ。いかに冷静になって状況判断して防衛術が使えるかが重要であり、防衛術の最終目標である。ということで本日は、防衛術の初歩である自分に合った魔法を探るべく、ペアになって各々の魔法適正を確かめること。その後はそれぞれ模擬戦として一対一の勝負をしてもらうから、そのつもりで励めよ」
「わかりました」
「では、解散!」
グリゴリオ先生の言葉でみんな散り散りになる。
そして私はアイザックをガシッと引っ掴み、私の腕をエディオンが握るという状況になってそれぞれ見合った。
「何をやってる?」
「えーっと、アイザックと一緒に練習したいなぁと思って」
「クラリス、アイクなんかよりも僕の方がちゃんと教えられると思うよ? それに僕はキミを守るために片時も離れないと言っただろう?」
「いやぁ、ちょっとは離れたほうがお互いのためだと……」
(うーん、どうしたものか……)
このままここでまた言い争いというか話し合っていても決着がつくことはないだろう。
そこで私はある提案をするのだった。
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