第24話 告白
(どうして私は前世の記憶を持ったまま転生したんだろう……?)
(どうして私は前世とまた同じ運命を……?)
(どうして私は……)
何度も何度も自問自答する。
けれど答えは出なかった。
今世こそ平穏な生活を送るために、必死になって喪女として生きようと引きこもって人目に触れぬように努力してきたというのに。
やはり私はこうして外に出てきてしまったのがいけなかったのだろうか。
私は一生引きこもりの生活をしているべきだったのか……
ーーねぇ、本当に、それでいいの……?
「は……っ! あれ、私、生きてる……?」
何か自分とは別の声が聞こえた瞬間一気に覚醒し、がばりと身を起こす。
キョロキョロと周りを見回せば、見たことある光景。
どうやら私は医務室にいるようだった。
「あら、マルティーニさん。目が覚めた?」
「シーラさん?」
保険医のシーラさんが私が起きたことに気づき、奥からやってくる。
外の様子を見る限りまだ昼だろうが、一体私はどれほど意識を失ってたのだろうか。
「体調はどう? どこか痛みや具合悪いとことかある?」
「えぇっと……とりあえず、身体中が痛いです」
「でしょうね。ところどころ折れてたし、内臓にもダメージが入ってたから。一応ある程度は治しておいたけど、それでもまだすぐに治るってわけではないから、もう少し痛みは続くかもしれないわ」
「そうですか」
確かに、あれだけ投げ出されて振り回されたら骨折してたって言われてもそりゃそうだと思った。
むしろあんなに引っ張られたり投げ飛ばされたりしたのによくまだ五体満足でいられたな、とある意味ラッキーとも言える。
「それにしても何であんな地下なんかにいたの?」
「えっと、それが……アイザックを探してたら、彼があの地下にいるって教えてくれた子がいて」
「その教えてくれたって子の容姿はわかる?」
「えーっと……」
思い出そうとすると、途端にぐにゃりと思考が歪む。
なぜか突然靄がかかったかのように思考が鈍り、どうやっても誰が言ったのか思い出せなかった。
「すみません、思い出せません」
「そう。……あの部屋の隠匿術を破れて結界を作れて撹乱までできるほど魔力の持ち主……か」
シーラさんが険しい顔になる。
そして、何か考えるようにぶつぶつと独り言を言うと、「ちょっと学園長のとこに行ってくるわ。貴女はまだ寝てなさい」とそのまま行ってしまって私は一人医務室に取り残された。
「はぁ、生きてる……」
ぼふん、と起こしていた身体をベッドに倒す。
死を覚悟したが、こうして生きていられるのはよかった。
痛みはかなりあったけど、前世のときに比べたらだいぶマシだったと前向きに考える。
とはいえ、自分の手や腕を見るとどこもかしこもボロボロで、脚も動かすだけで痛くて、ちょっとは美人じゃなくなったかしら、なんてアホなことを考えながらもう一眠りしようかなんて思ったときだった。
「クラリス……?」
入り口から私を呼ぶ声が聞こえてそちらを向くと、そこには花束を抱えたエディオンがいた。
花束似合ってるなぁ、なんて思っていると、足早に彼が私のところへやってくる。
「あぁ、やっと目が覚めたんだね。よかった……!!」
ガバッと急に抱きつかれて目が白黒する。
王子に抱きつかれているという事実と、いい匂いと痛みという情報量の多さに脳内はパニックだった。
というか、花束ごと抱きしめられて顔に花の花粉がついて少し咽せるとさらに骨が軋んで痛みに呻く。
「ごほっこほっ……うっ」
「す、すまない! つい、感情が昂ってしまった」
「い、いえ、というか、助けてくれてありがとうございます」
「いや、気にしないでくれ。むしろ助けられて本当によかった。クラリスがいなくなったかと思うと僕は……」
頬に触れられ見つめられる。
まるで恋人同士のようなやりとりに気づいて、慌ててその手を外すと、よいしょっと身体を起こした。
「無理に起きなくてもいい。身体はまだ痛むだろう?」
「ちょっとだけなので大丈夫です」
「クラリス、敬語はやめてくれ。同級生だろう?」
「そうですけど、でもエディオンって王子なんですよね?」
あえて直接訊ねれば、「そうだけど、今はただの同級生だよ」と微笑まれる。
「国では王子という身分かもしれないが、NMAではただの一生徒だ。だからクラリスも僕を同級生として接してほしい。ダメかな?」
「ダメじゃないけど……」
「それに、僕はクラリスが好きだ」
「え!?」
まさかこのタイミングで告白されるとは思わず、身構えていなかったぶん衝撃が大きい。
薄々気づいていたが、まさか直接好意を告げられるとは思っていなかった私は反応に困った。
「それは、ただ見た目が好きとかじゃなくて?」
「正直に言うと見た目も好きだ。今まで見たことないほど誰よりも美しいと思っている。でもそれ以上に、他のみんなと違った部分に惹かれている」
「みんなと違った部分?」
「僕を特別扱いしたり、無駄にベタベタしてきたりしないとこかな……? 下心がなくて自然体で接してくれるのもいい。あとは笑顔が素敵だとか、困った顔も可愛らしいとか、とても素直なとことか、ちょっと意地悪なとこと……っぶ」
「わかった、わかったから。それ以上はもういいわ!」
私の良さを延々と語り出すエディオンの口を慌てて手で塞ぐ。
褒められていることになれていないためにこうして手放しで褒められるとむず痒かった。
するとエディオンは、私の手を口からやんわりと外す。
「もし良ければ、僕と結婚を前提にお付き合いしてもらえないだろうか? 王子という立場ゆえに不都合がある部分も出てくるかもしれないが、どんなことからもちゃんとキミを守ると誓おう。どうかな、クラリス」
口元を押さえていた手を握られ、そのまま手の甲に口づけられると真剣にまっすぐ瞳を見つめられる。
どうやらエディオンは本気のようで、私は困惑しながらゆっくりと口を開いた。
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