第19話 女子会
消灯時間になり、自室へと戻る。
すると早速、私に聞きたいことがあるとずっとウズウズとしていたらしいハーパーとオリビアの二人にベッドの端に追いやられた。
なぜかその後ろにいるマリアンヌも、「私も混ぜてちょうだい」と参加しているが。
「ねぇねぇ、クラリスちゃん! 一体どういうことよー!」
「そうよそうよ。エディオンさまといい感じになったと思ってたらアイザック・ノースと仲良くしてるだなんて!」
「しかも、さっき見た感じだとすごくいい感じだったじゃない〜! いつ急接近したの!?」
ハーパーとオリビアはきゃいきゃいといつものノリだが、マリアンヌはいつもよりも食い気味で聞いてくる。
その瞳はかなり真剣で、私は思わず後ずさった。
「えっと、エディオンから助けてもらったりマリアンヌのことを相談したりしてたら結構気が合って……」
「そうだったのね! あー、クラリスとクラスが一緒じゃなかったのが悔やまれる! 二人が仲良くなる過程が見たかった……!!」
たまにマリアンヌが怖いことを言っているような気がするのだが、気のせいだろうか。
私も大概マリアンヌのことは好きだが、それ以上にマリアンヌが私のことを好いてくれているような気もする。
ありがたいことではあるのだが。
「べ、別に大したことないと思うわ。ただ勉強を教えてるだけだし」
「えー!! アイザック・ノースに勉強を教えてるの、クラリスちゃん!」
「魔法統括大臣の子息に魔法教えるって結構凄いことよね……可愛くて秀才で魔法力も高いってクラリスちゃん凄すぎない!?」
「いや、そんなことはないと思うけど……」
だが、言われてみたら確かにそうだ。
すっかり忘れていたが、アイザックは魔法能力が最も高いと言われている人の息子であったことを思い出す。
そのわりには勉強も魔法もからっきしだと言っていたけど、どういうことだろうか。
実際勉強も魔法も苦手そうだったけど、教えたら教えたぶんだけ覚えていったし、魔法も別に程々には使えていたように思う。
多少魔法を使っているときに違和感があったが、それも体調の問題か単なる気のせいだろう。
そもそもNMAは優れた魔法使いが入学資格を得られるのだし、NMAはコネ入学等がまるっきりないというのだから、アイザックにだってここに入学できるほどの優れたところが色々とあるはずだ。
とはいえ、今までの覚え方が悪かったのか、それとも勉強をまるっきりしてこなかったのか。
エディオンもトゲのある言い方をしてたし、アイザック自身もファミリーネームも嫌っていたし、何かしらアイザックにも悩みがあるのかもしれない。
「クラリス?」
「え? あ、ごめん。ちょっと考えごとしてた」
「もう〜。それで、アイザック・ノースもだけど、エディオンさまとはどうなったの?」
「ずっとクラリスのこと追いかけてたわよね、見てたわよ」
「結構他のクラスでも噂になってるわよね」
「そ、そんなに……?」
まさか他のクラスにまで噂が広がっているなんて、と青ざめる。
それと同時に、そりゃそんな勘違いをみんなからされるほどに接触していたら婚約者が怒るのも無理はないと思った。
「で、でも。エディオンには婚約者がいるらしいわよ?」
「え、そうなの!?」
「えぇ。パーティーのときにそう言われた」
「それは初耳! どの子か知ってるの?」
「えーっと確か、ミナって名前だったような。あと、取り巻きの子が侯爵令嬢だって言ってたわ」
「ミナ……んー、覚えがないわね」
「侯爵令嬢ってどこの侯爵令嬢かしら」
「あー! 私知ってる! ミナ・ブランシェットでしょ! 髪が茶色くて癖っ毛で瞳が紅玉のように真っ赤な子じゃない!?」
オリビアとマリアンヌが首を傾げていると、ハーパーが大きな声を上げる。
すかさず消灯時間だから「しーーーー!!」と彼女の口を押さえると「ご、ごめんごめん」と謝られた。
「で? その子で合ってるの? クラリス」
「うん、多分その子。ウェーブかかった長い茶髪に赤い目をしてた気がする」
「じゃあ間違いないわね!」
「マリアンヌは同じ侯爵令嬢だけど知らないの?」
「そうね、今まで会った覚えがないわ」
「ハーパーは何で知ってるの?」
「私はミドルスクールが一緒だったのよ。確か彼女、大魔法使いのミゲル・ブランシェットの子孫だとかなんとかで、すごい魔力を持ってるだとか」
「ミゲル・ブランシェット!??」
驚きすぎて、今度は私もつい大きな声を出してしまう。
すかさず自ら口を押さえるが、「騒いでないで早く寝なさいよー」と外から副寮長の声が聞こえてきた。
そのためみんなで顔を見合わせたあと、声の大きさを絞ってヒソヒソと話す。
「クラリス、知ってるの?」
「えぇ、魔法史にも出てくるくらいすごい人物よ。確か、今日調べた防衛術の考案の一人が彼だったはずだわ」
「そんな凄い人だったの」
「知らなかったわ」
「でも、それなら王子の婚約者というのも頷けるわね」
「確かに」
私に対して話しているとき、怒っているのが目に見えていたあれは溢れた魔力だったのか、と気づいてそれほどまでの力があるとは凄いと今更ながら感心する。
私の力も凄いとは言われているものの、そもそもちゃんと使ってこなかったせいで使いこなせていないし、恐らくだがあのレベルまでの力は持ち合わせていないと思った。
「でも婚約者がいるのにクラリスちゃんを追っかけてるのってどうなのかしらね」
「確かに、不誠実よね」
「クラリスはエディオンさまのことどう思ってるの?」
エディオンのほうに話が戻り、マリアンヌに尋ねられて「うーん」と言葉が詰まる。
(正直に言っていいだろうか、このメンバーだし、まぁいいか)
彼女達が口が固いことは知っている。
こうして興味本位で根掘り葉掘り聞かれはするが、今までも他言無用ということで情報漏洩はなかったから信用はできた。
「正直、エディオンはなんかしつこいというか、私……目立ちたくないのもそうだけど、追いかけ回されるの好きじゃないのよね」
「あー、わかる」
「しつこい男は嫌よね」
「うんうん、こっちはその気ないのに勝手に盛り上がるやつとか最低」
「『僕はキミの唯一の理解者だ!』みたいな顔されるの腹立つわよねー!」
「そう、本当それ! 勝手にわかった気にならないでよ。こっちは猫被ってるんだからーってね」
本音で私が話すと、それを皮切りにそれぞれの恋愛トークに花が咲く。
私は経験がないためほとんど聞くことに徹していたが、「令嬢って大変なんだなぁ」と他人事のように聞いていた。
そして、どれもこれも興味深くて、気づいたら深夜になっていて、慌ててみんなで寝るのだった。
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