第7話 寮選別

「さて、ここまで長々とお話してきましたが、ついに本日のメインイベント! みなさんお待ちかねの寮の選別を行います!!」


 学園長の言葉に沸き立つ新入生達。

 私は何がそんなに興奮するのかとマリアンヌを見れば、彼女も高揚した様子で目を輝かせ、頬を紅潮させていた。


「ねぇねぇ、マリアンヌ。寮の選別って何?」

「あら、クラリス知らなかったの? NMAは寮制度があって、火・水・木・工・星の五つの寮に分かれてるのよ」

「そうなの?」

「えぇ。それぞれ適正ごとに分かれていて、火は火の魔法に優れ、水は水の魔法に優れ、木は木の魔法に優れ、工は魔法力のこもった魔道具の作成に優れ、星は占星魔法に優れていると言われているわ」

「寮が別れているのは知ってたけど、そこまでは知らなかった……」


 どうやらこの情報は周知の事実らしい。

 知らないのはどうやら私だけのようで、よくよく聞けば招待状のパンフレットに記載されていたようだ。

 私は毎日スパルタ指導を受けていたせいで、まともにパンフレットを読んでなかったと今更思い出す。

 下手したら家族のほうはよっぽど読み込んでいる気がする。


「私達、どこの寮になるかしらね?」

「うーん、どこだろう?」

「ちなみに、五寮の中で一番魔法力に優れているのが火だと言われているわ。最も威力が強く、何でも燃やし尽くせるからね。そして、水の寮とは昔から相性が悪いと言われている」

「そうなの?」

「えぇ、クラリスと私、同じ寮だといいわね」

「そうね! マリアンヌと一緒だったら私も嬉しいわ」


 次々と新入生の名が呼ばれ、呼ばれた者は舞台上にある器の前で何かやっているのが見える。

 どうやら器の中に手を入れているようだが、一体何をしているのだろうか。


「さっきからあれって何をしているの?」

「寮の振り分けをしてるのよ。本人の資質をあそこで判別しているの。器の中にはエルフの作った聖水が入っていて、手を入れるとその人物の最も長けた魔法が現れるらしいわ」

「マリアンヌは詳しいのね」

「クラウスもNMAだったからね」

「あぁ、なるほど……」


 そういえば、マリアンヌの婚約者であるクラウスは年上であったなと思い出す。

 マリアンヌとクラウスは親同士が幼馴染だそうで昔から仲がいいと聞いていたから、しょっちゅう会っているようだし、事前に色々と聞いていたのだろう。

 婚約者なんて私には縁遠い話だな、なんて考えていると「アイザック・ノース!」と呼ばれる声が耳についた。

 視線をそちらに向けると私が抱きついてしまった彼が舞台に向かって歩いていくのが見える。

 どうやら彼はアイザックという名前らしい。

 大きいぶん目立つせいか、つい視線は彼に釘づけだった。


「あら、さっきの彼、ノース公爵家の令息だったのね」

「ノース公爵家?」

「もう、いくら引きこもってるからって公人の情報くらいは覚えておいたほうがいいわよ? この国の魔法統括の大臣がノース公爵。彼はその息子さんのようね」

「ふぅん、そうなのね」

「高官になりたいのならそれくらいは覚えておきなさいな」

「はーい、ママ」

「全くもう、クラリスったら」


 悪びれる様子もなく返事をすると呆れるように笑うマリアンヌ。

 こうしてマリアンヌは私に甘いのでついつい甘えてしまうのだ。


「あら、彼は火の寮ね。まぁ、ノース公爵家の息子ならそれもそうね」

「そんなにノース公爵って凄いの?」

「えぇ、歴代トップの魔法力を誇ってると言われているわ」

「それは凄い……」

「マリアンヌ・デルトロ!」

「あら、呼ばれちゃった。クラリス、行ってくるわね」

「いってらっしゃい!」


 マリアンヌは舞台に上がるとゆっくりと器に手を入れる、そして「これは……火の寮ね!」と先生が判別し、マリアンヌは火の寮のグループへと入っていった。


「マリアンヌは火の寮、か。一緒がいいけど、火は嫌だなぁ……」


 火はどうしてもかつて火炙りにされた記憶がチラつき、どうしても敬遠してしまう。

 あの火が纏わりつき、肌を焦がす感触は身震いするほどに恐ろしく、あの肉が焼け焦げる匂いは嗅ぐだけで吐き気を催すほどだ。


「クラリス・マルティーニ!!」


 名を呼ばれて、慌てて舞台に向かう。

 フードを目深に被り、手でそれを押さえながらひょこひょこと舞台上に上がった。


「なぜフードを被っているのです?」

「あ、これがあるほうが落ち着くので……」

「ほう? まぁ、いいでしょう。早速手をこの中に入れて」

「は、はい」


 言われて器に手を入れる。

 すると器の中の水はゆらゆらと揺めき、何かを映し出した。


「あ、あ、……っ、」


 そこに映っているのは燃え盛る焔だった。

 そしてその焔は腕を這い上がり、身体中に纏わりつく。

 熱くはない、が……あの感触が脳裏をよぎる。

 肌を舐めるように焔が纏わりつき、身を焦がす感触、匂い、そして痛み。

 泣き叫んでもなお止まぬ苦痛と、聴衆達の歓喜に満ちた声と悪意。


「素晴らしい火の適正だ!」

「やだ……っ、嫌……っあぁ……っ!」


 叫ぶと同時にぶわっと辺り一帯を焔が包み込む。

 あの状況と今の状況が重なって感じ、さらに私はパニックになる。


「やだ……死にたくない……っ」

「クラリス!!!」


 マリアンヌに名を呼ばれて、ハッと我に返る。

 そこで初めて自分が注目を浴びていることに気づいて頭が真っ白になった。


「は……っ、は……、はぁ……」

「大丈夫です? 体調が悪いようですが」


 学園長に顔を覗かれ、思わず反射で顔を伏せる。


「は、はい。大丈夫で……っ」


 フードを押さえながら歩き出そうと前に進む。

 だが、ふらっと目眩がしたかと思うと、私はそのまま意識を手放してしまった。

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