第6話 入学式

「ようこそ、ノワール・マジカル・アカデミアへ。入学生はこちらよ。はい、いってらっしゃ〜い」


 リフトが校舎へ到着すると、エントランスへと案内されてそのまま先生らしき人に中のホールへと転移魔法で飛ばされる。

 飛ばされた先にはたくさんの新入生達で溢れ返り、みんな興奮した様子だった。


「わぁ、凄い! ホールの中はこんな風になっているのね」


 ホールは外観とはまるで違い、ゴシックな造りの建物になっていて、細部までこだわっているであろう細工に目が奪われる。

 ステンドグラスの絵は動き、外の太陽光を通した光の上では光の妖精達が舞い踊っていた。

 ホールの上部はキラキラと優しく輝き、光の粒子を振りまくシャンデリアがいくつも浮遊していて、その周りを妖精が飛び交い、歌を歌って新入生の歓迎の歌を歌っている。


「って、クラリス! その服!」

「え、えぇ……っ! いつの間に!? ってマリアンヌ、貴女もよ!」


 いつの間にかお互いに服は着替えられ、ノワールの名に相応しい漆黒の艶やかな生地に金の糸で刺繍が施され、騎士の服のようなNMAの制服に変わっていた。

 採寸もしていないというのにぴったりのサイズのそれは、首元までしっかりと覆われているというのに息苦しくもない。

 その上から漆黒のガウンも羽織らされており、どうやら制服の上から羽織る式服のようだ。

 状況から察するに、身体をホールまで転送している間に着替えも済ませていたらしい。

 さすが優秀な魔法使いを育成する学校である、先生もみんな優秀なようだ。


「クラリス、とても似合っているわよ」

「そ、そう? マリアンヌも可愛いわ」

「ありがとう。……ふふ、そうやって目深にフードを被っていると逆に目立つわよ?」

「うー。目立ちたくはないけど……、顔を見られたくない」

「せっかく誰もが羨むような綺麗な顔をしているのにもったいないわねぇ」

「だから見られたくないの〜」


 とりあえず、目深にフードを被りつつ、マリアンヌに手を引かれながら新入生が集まっているホールの中央に向かう。

 どうやらこれから入学式が始まるらしい。

 ぞろぞろとやってくる新入生達を見ながら、「世界各国から集められただけあって色々な人がいるんだなぁ」とこっそりと見つめる。

 とはいえ、優秀な生徒だけということでザッと見た限り人数はそこまで多くはなく、新入生は二百人ほどだろうか。

 キョロキョロとしていたせいか、先程私が抱きついてしまった人を見つけて思わず目で追う。

 濃紺の夜空のような髪色は癖なのか多少うねっていて、他の男子生徒よりも頭一つ分は飛び抜けて大きいのでとても目立つのだが、顔が整っているわりには仏頂面というか無愛想なせいで威圧感があるのか、周りはどうも避けているような印象があった。

 しかも彼も特別誰か友人がいる様子ではなく、どうやら単身でいるようで、なんとなく親近感が湧いてくる。

 と、そうやってジーッと見つめていたせいか、不意に彼がこちらを見てきてバチッと目が合ってしまった。

 目が合っただけだというのに、あまりの衝撃にドキンと大きく心臓が痛いくらいにビクつく。


「どうしたの、クラリス」

「う、ううん。何でもない、大丈夫」


 動揺したときにマリアンヌの手を強く引っ張ってしまったらしく、心配されるように顔を覗かれる。

 すると「本当に? 顔、だいぶ真っ赤だけど」と指摘されて、なぜか至近距離で見た彼の顔を思い出して、再び羞恥心がぶわわわっと駆け上がってきてなんだか心臓がいつにないほどドキドキし始めた。


「だ、大丈夫。ちょっとさっきの思い出しちゃったのと、緊張してきただけ」

「そう? ならいいんだけど。もうそろそろ始まるようだから、大人しくしなさいよ?」

「はーい、ママ」

「もう、クラリスったら」


 そうやって軽口を言い合っていると、リーーーーンゴーーーーーーンと大きな鐘の音が聞こえてザワザワとしていた会場が一気に静まり返る。

 そして、ホールの中央の舞台に一人の男が空から舞い降りた。


「ようこそ、我がノワール・マジカル・アカデミアへ! 私はここの学園長をしてます、ボン・ボワーレです。どうぞ、お見知りおきを」


 学園長、というからとても老齢な人を想像していたけれど、どうやら違うらしい。

 白髪ではあるものの、伸ばした髪は綺麗に腰ほどまでで揃えられ、背筋もしゃんとしている細身の男性だった。

 あの学園長が毎年魔法で学校の場所を変えたり見た目を変えたりしてると思うと、人は見かけによらないのだなぁと感心しながら、私は彼の言葉に耳を傾ける。


「ここには世界各国より集められた精鋭の魔法使いばかりが集まっています。ここにいる人物はみんな魔法力に長け、思慮深く、そしてカリスマ性のある者ばかりです。そう、キミたちは選ばれた人間! けれど、慢心してはいけません。さらに飛び抜けた人物になるためには人のために役立ち、そのために努力する人であり、優れた能力を自身のみならず他者にも与えられる者で……」


 すらすらと遊説している学園長の声はとても心地よいものだった。

 誰でも脳内にスッと入ってくる声、音質、ボリューム。

 恐らくこれも魔法の力によるものなのだろうが、魔法ってこんな使い方もあるのか、としみじみと思った。

 よくよく考えてみたら、私は目立たないようにしていたため魔法をあまり使ったことはない。

 魔法力が人より優れているとマリアンヌに言われていても、人と比べたことがなかったのでただのお世辞だと思っていたが、学園長のように様々なことに魔法が使えたらそれはそれで素敵なことだと思った。

 そしてさらにこの容姿に対するトラウマを克服できる術があったならそれは望ましいことだ。

 喪女生活を送ることが人生の第一目標ではあるが、あくまで根底にあるのは平穏な日常を送り大往生することである。

 決して処刑などされることなく、望んだ死を得たいというのが今世の最大目標だ。

 そのため、トラウマが克服できるなら克服するに越したことはない。


「では、長々と心得について話しましたが、今度は施設の案内をしましょう。まずここがカフェテリア」


 そう学園長が言うと、頭上に先程まで何もなかったはずのところに大きいビジョンのようなものが現れる。

 一瞬でこれを出したの? と驚くと、周りも私同様に驚いたのかザワザワしていた。


「学生が最もお世話になるのが恐らくこのカフェテリアでしょう。ちなみに場所はこの地図の通り、別館の一階にあり、各教室の転移魔法陣から行き来できます」


 ビジョンに映し出されるカフェテリアはまるでそこに行った気になるような映像になっており、地図や内装なども映し出され、メニューなどの紹介などもされる。

 未知の魔法や今までの生活になかったものの数々の自然と胸が躍った。


「凄いわね、NMA」

「えぇ、想像以上だわ」


 マリアンヌとこっそりと話しながら、その後も各教室についてや教員についての紹介、履修についての案内など、私達はNMAについて一通りの説明を受けるのだった。

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