終章 冒険者、凱旋する

シャロウアビスの脱出口の外は、戦場だった。

戦っているのは狼の群れと先輩冒険者たち。しかし既に趨勢は決した様子で、僅かに残った狼たちも算を乱して逃げ出すところだ。

先輩冒険者たちはやれやれ、と武器を下ろし、倒した狼を数え始める。


ヴィーノ:「ヤバイヤバイ。隠れなきゃ……!」

アラーイス:「カールまで退治されてしまうもんね」


慌てて物陰に隠れる一行。

カールは巨大化していたけれど、なんとか茂みに隠してやり過ごすことが出来た。


ヴィーノ:遠目に様子を観察する。狼は本当に数百匹いたのか? 普通の狼?

GM:そのようですね。翼が生えているでもなく、双頭でもない、ごく普通の野生の狼のようです。早速、クリスのところに報告に行きますか?

ダナ:「カールをこのまま返したら、クリスがショックを受けるでしょう。元の状態に戻るまで、どこかにかくまわないと」

アラーイス:「ヴィーも見た目やばくなってるの、覚えてる?」

ヴィーノ:「そうだった。オレ、腕が一本増えてる」

アラーイス:「腕は無理矢理袖に入れれば、ごまかせるかもしれないけれど」

ヴィーノ:試しにやってみる。「袖口から指が10本出た」(笑)

GM:ヴィーノは皮膚も硬く変化してますよ。

アラーイス:「マントを羽織って、フードを深く下ろせば……」

GM:逆に人目を引きそう。あからさまに怪しくて。

ヴィーノ:「そんなものは持ってない」しばらくカールと森で静かに暮らすよ。

アラーイス:「僕は頭が良くなっただけで見た目には何も変わっていないから、町にも行かれそうだ」

ヴィーノ:「アラーイスのIQが下がるのを待とう」

アラーイス:「言い方」(笑)

GM:その間は森で暮らすのかな? 森へお帰り?

ヴィーノ:このままじゃ町に入れないよね?

GM:ダナとアラーイスは何の問題もなさそうです。

ダナ:でもカールも守らないといけないし……

ヴィーノ:このまま連れていったら、クリスが気絶するだろうしな。

GM:そういえば、双頭フラグを回収してますね。最初にクリスに言ってた……

アラーイス:そんなこともあったね。

ダナ:変異が治るのにどれくらい時間が掛かります?

GM:そうですねぇ……変異が1つ戻るのに、1日掛かることにします。カールは3つ変異しているので、3日。


変異が元通りになるまでの3日間、森でカールと過ごすことにした一行。

カールの帰りを心配しながらずっと待っているクリスに、どう説明するかを相談していたが……。


ヴィーノ:はっ! その前に「保存食が足りない! 町で買ってこい、お前ら」

GM:もしくは森でなら、レンジャー技能で調達できそうな気もしますが。

アラーイス:「僕が保存食を1週間分持っているから、二人にも分けるよ」

ダナ:「あとでちゃんと返しますね」

ヴィーノ:当たり前のように貰っておく。

GM:では3日間、森暮らしをする予定ですね。結局、クリスには誰がどう説明するのかな?

アラーイス:「僕が行ってくるよ。クリスにはカールは無事だけど、すぐには戻れないって説明する」

GM:(ふぅむ?)

ヴィーノ:「冒険者ギルドにも報告して、しっかり報酬を貰ってこいよ」

アラーイス:「わかった。お金もちゃんと、貰ってくるね」


ヴィーノとダナはカールと一緒に森に残り、アラーイスの帰りを待つ。

しばらくして、クリスと冒険者ギルドへの報告を終えたアラーイスが戻ってきた。

ところが……


GM:二人がアラーイスから首尾を聞いているときに、傍で伏せていたカールの耳がぴくっと立って、それから顔を上げます。身を起こして「ウォン、ウォン!」。茂みに向かって吠えました。

ダナ:「どうしたの、カール」何かいるのかな、一応武器を構えますけれど。

GM:すると茂みがガサガサと揺れ……、現れたのはクリスでした。

ヴィーノ:「クリスーー!?」

アラーイス:「えっ、なんで!?」

GM:アラーイスの説明が腑に落ちなかったため、後を追ってきてしまったようです。茂みから顔を出したクリスは、目を驚愕に見開いています。カールを指さし、「か、……カール……なの……?」愛犬の余りの変貌ぶりに、動けなくなっている。

ダナ:「落ち着いて、クリス。大丈夫ですよ」サニティとか、掛けた方が良いかな? でも接触なんだよね。

GM:一方のカールは、尻尾がちぎれんばかりに喜んで、クリスへと近づいていきます。でかい。クリスを一飲みできてしまいそうな大きさです。口をがばっと開いて、クリスに顔を近づけると……、

ヴィーノ:ひと飲みに!?

GM:違います(笑)。そのまま、彼の顔を大きな舌でぺろぺろし始めました。双頭が交互に。そうしたらクリスも「カール……? ほんとに、カールだ!」とカールの首に抱きつきました。「良かった……! カール! 無事で良かった……!!」半べそをかきながらも、嬉しそうにしています。

アラーイス:「びっくりした……」ほっとして胸をなで下ろしているよ。

GM(クリス):「ごめんね、お花のお兄ちゃん。こっそりついてきちゃって。でも、カールが心配だったんだ」

アラーイス:「いいんだよ。こっちこそ隠していてごめん。クリスが怖がるかと思ったんだ」

GM(クリス):首を振ります。「分かってる。僕のこと、カールのこと、考えてくれたんだよね。ありがとう」ヴィーノやダナの方にも向き直り、「そっちのお兄さんとお姉さんも、ありがとう」

ダナ:「良かったです」安心して、武器を下ろします。

ヴィーノ:「礼を言うくらいなら、報酬を上乗せしてくれよ」

ダナ:恩人ではありますが、ここはヴィーノの足を踏んでおきます。

ヴィーノ:「~~~……!!」(痛かったらしい)

ダナ:「とはいえ、このまま連れ帰ったら、町の人も牧場の人も驚くでしょうから、カールは元に戻るまで、私たちが責任を持って見ておきますね」

GM(クリス):「そうか。そうだよね! わかった。宜しくお願いします」ぺこり。

アラーイス:「任せておいてよ」ふふ、少しは冒険者らしく、なれたかな?


こうして駆け出し冒険者一行は、クリスの依頼も冒険者ギルドからの依頼も見事に果たし、一回り大きく成長した。

なんといっても彼らは、魔神王(自称)を倒しさえしたのである!


GM:ところでアラーイスは、冒険者ギルドから受け取ったヴィーノの分の500Gの報酬から、100G差し引いてクリスに返しますか?

アラーイス:(少し考え)止めておくよ。ヴィーノがポーション沢山使って、お金掛かっているのを見てしまったから。「これは正当な、報酬なんだね」って。

GM:うんうん。それもいいでしょう。それでは今日の冒険はここまで。みなさん、お疲れ様でした!

一同:お疲れ様でしたー!


ひとまず、おしまい。

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