第1話 冒険者、依頼される

ここはハーヴェス王国の郊外に位置する、森と牧草地に囲まれた自然豊かなとある町。

その冒険者ギルドにて、朝イチで冒険者登録を終えた一行は、初めての冒険に夢を馳せながら、ゆったりとした朝の時間を楽しんでいた。

ギルド内には他にも先輩冒険者が集っており、クエストボードを眺めたり、談笑したり、食事をしたり、各々自由に過ごしている。


だがその心地よいざわめきは、突如、勢いよく開かれた扉の音で破られた。


GM(町の人):「た、大変だ! 数百匹規模の狼の群れが、町のすぐ近くにまで迫っている!」

ヴィーノ:はぁーーっ!?

GM:するとギルド内に一瞬にして緊張が走り、騒然とします。座っていた者も、椅子を蹴って立ち上がり「どういうことだ!?」「え? 数百匹!?」

ヴィーノ:「数えたのか?」

GM(町の人):「厳密には分からないけど、遠目にざっと見ただけでも数百匹はいるようだ」

ヴィーノ:やばい。日本野鳥の会もビックリ。

GM:(笑)。この話を聞いたギルドからは、緊急クエストとして『群狼の討伐』の依頼が出されます。

ダナ:普通の、野生の狼?

GM:はい。どこからともなく現れたようです。

ヴィーノ:マジか。この町の人口がどれくらいなんだよ。

GM:町の人口……5,000人くらいかな?

ヴィーノ:「めちゃくちゃ数を盛ってんじゃねーだろうな?」

ダナ:一匹見たら百匹いると思え、みたいな。駆け込んできた町の人に尋ねます。「怪我人も出ているのですか」

GM(町の人):首を振って「わからない。私はとにかく、早く冒険者ギルドに知らせなくてはと、ここまで馬を走らせてきたので……」

ダナ:「大変でしたね。お水をどうぞ」

GM(町の人):「ありがとう」ごくごく。お陰で漸く人心地付いたようですが、まだ不安そうです。

GM(ギルド職員):「お手すきの冒険者は、今すぐ狼退治に向かってくださーい」

ダナ:他の冒険者はどれくらいいるの?

GM:割と大勢います。十数人くらいかな? 皆さんはどうしますか?

ヴィーノ:「一匹当たりにつき、どれくらい貰えるんだ?」

GM:まず報酬の交渉に行くのですね?

ヴィーノ:数百匹は(自分たちの強さ的に)話にならないので。端っこの方でちょっとずつ数を稼いで、小銭を集めようかなと思って。

GM:なるほど。そうしたらギルドの人が「そうですねぇ、まだはっきりしたことは言えないけれど……」(計算中)。そんな話をしていて気づいたら、他の冒険者達は取るものもとりあえず、群狼退治に向かってしまったようです。

ヴィーノ:「やべーやべー。後れを取ってるぞ」

アラーイス:「そんなの計算してないで急ごうよ」

GM:皆さんだけが今、残っている状態です。

アラーイス:「早く行こうよ。このままだと……」

ヴィーノ:「お前ら、行くぞ!」

GM(ギルド職員):「あれ? 報酬の話はいいんですか?」

ダナ:「良くはありませんが」

アラーイス:「報酬は別に……。貰えたら貰えたで」

ヴィーノ:「いやいや、貰わないと困るけどな?」

アラーイス:「それよりも町の人の安全が最優先だよ」

ダナ:「私もそれに同意です」


この町の冒険者ギルドに登録している先輩冒険者は、なかなか意識の高い人達のようですね。行動が迅速でした。

しかし報酬の交渉をしっかりするのも、冒険者としては間違ってないです。

すっかり出遅れてしまった一行ですが、却ってそのことが幸いして―――?


GM:そこに、今度は一人の少年が飛び込んできます。

ヴィーノ:「おお? どうした? 今、みんな出払っちまったぞ」

ダナ:少年、どうしたんだろう。

GM:「誰か助けて!」と、息せき切って入ってきました。さてこの少年ですが、皆さんは見覚えがあります。町外れの牧場の跡取り息子で、名前をクリスといいます。冒険者ギルドに肉や牛乳を納めているため、見かけたことがありました。

GM(クリス):「カールが、カールが消えちゃったんだ……!」

アラーイス:「カールとは?」

GM(クリス):(息を整えつつ)「カールはうちの牧場で飼っている牧羊犬なんだ。今朝、いつもみたいにカールと一緒に散歩してたら、牧場の外れの森に黒い球体があって。なんだろうって見てたら、そこから翼の生えた犬と、首が二つある犬が飛び出してきたんだよ!」

アラーイス:「えっ、そうなの」

ヴィーノ:「やべえ!」

GM:そこでカールがクリスをかばって二頭の魔犬と戦い、何とか二頭を黒い球体の中に押し戻したそうです。

ヴィーノ:「すげえ!」

ダナ:「強い!」

アラーイス:「へー」

GM:(みんなの語彙力が低下中(笑)。)しかし直後に、カールがその黒い球体に引き込まれてしまったとのこと。

ダナ・アラーイス:「ええっ!」

ヴィーノ:三体目の魔犬になる感じのやつ?

GM:クリスは泣きそうになりながら、「お願い、カールを助けて」と、彼の全財産である100Gを皆さんに差し出します。

ヴィーノ:「狼は他の冒険者が行ってるから、目先の金を……取るか!」

ダナ:いや、カールが単純に心配なので……

GM:このやりとりは報酬の交渉をしていたときだったため、ギルドのカウンターの傍で行われていました。ギルド職員も当然、今の話を聞いていて、「実を言えば、先んじてオーロラが観測されていたんだよ」と口を挟みます。

アラーイス:オーロラ?

GM:皆さんには先ほどクリスが言及した黒い球体が、奈落の魔域シャロウアビスであることがわかります。アルフレイム大陸では、シャロウアビスが出現する前兆としてオーロラが観測されます。ギルドでも付近の調査を依頼しようとしていましたが、群狼の話が飛び込んで、対処が後回しになってしまったそうです。

ダナ:イーヴの神官としては、「シャロウアビスなら尚更放っておけませんね」

GM:そういうわけで、ギルドからも1人につき500Gを提示され、『魔域の調査・排除』を正式に依頼されます。「見ればイーヴの神官さんも居るようだし、君たちは良かったら、シャロウアビスの方を何とかしてくれないか」

ヴィーノ:「よしっ! でも駆け出しの冒険者に何とかなるものなのか?」

ダナ:「何とかなるか? ではなく、シャロウアビスは何とかしなくてはいけないものです」クリスからも1人につき100G?

GM:いえ、クリスは全財産が100Gなので。「少なくて、ごめんなさい……(しゅん)」

ダナ:彼にとって大金なのは分かるので。「いいえ、充分です。依頼は確かに引き受けました」

アラーイス:(クリスに向かって)「お金は別に良いよ。取っておきなよ」

ヴィーノ:「じゃあ、オレが取っておくよ(サッ)。さあ、行こう!」

GM:(三者三様の反応だなぁ)ではクリスが差し出していた100Gはヴィーノの懐に消えていきました。ギルドからの報酬は成功報酬となりますので、今は貰えません。

アラーイス:(こそっ)後でヴィーノが受け取る分のギルド報酬からクリスの100G分を抜いておこう。

ヴィーノ:じゃあ、牧場の外れに? 「よし、案内しろ。クリス」

GM(クリス):「こっちなんだ。ついて来て!」と言って、クリスは先に立ってギルドを出て行きます。


出遅れたお陰で、クリス少年の依頼を受けることとなった冒険者一行。

初めての冒険、初めてのシャロウアビス。

そこで彼らを待ち受けるモノとは―――!?

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