第243話 あれ? ピンチですか?
放課後、【火竜の爪】との情報交換のために外出届を提出し、王都に出ようとしたらマールに捕まった。門の前で待っていたのだ。
「昼間はどうして助けてくれなかったんですかっ」
「助ける理由、ありました?」
学生会室から排除されたことを怒っているようだ。それはそれとして。
「どうやって先回りしたんです?」
「それは、こう、走ってですね……」
「動作の問題ではなくて!」
私が外出するって、どこで知ったのだ? 誰にも言ってないし、さっき外出届を出してきたばかりだよ。
まさかストーカー? ストーカーなのかっ!?
「ちょっ、マイ君、どうして離れて……」
「ストーカーは近寄らないでくれます?」
「誰がストーカーですか、ストーカー! マイ君の外出は情報収集の結果ですよっ」
「マイ様、当て身ます?」
「ちょっ、ヨナちゃんを止めてくださいよ。肉弾戦じゃ勝てませんからっ!」
当て身もよかったんだけど、門の前で騒ぎを起こすわけにもいかない。時間もないし、ヨナを制止して門を出る。
当たり前のようにマール先輩もついてきた。
「歩きながらでいいのでインタビューさせてくださいよ」
……はぁ、しょうがないな。このまま夢街までついてこられても厄介だし。
とりあえず、形だけでもハンターズギルドに向かおう。さすがにギルドの中でまでインタビューはしないだろうし。……しないよね?
「決闘に挑むにあたり、作戦などありましたか?」
「マリーニュさんの罠を、どうやって突破したんですか?」
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、考えながら答えていく。適当に答えたいけれど、矛盾とか突っ込んでくるからね、マール先輩は。
そして。
「あの闇をバラバラに動かすのは、どうやったんですか? 学生会副会長でも、あれは自分には無理だと言ってましたが」
やはりきたか、この質問。素直に精霊魔法だと言うと面倒だし、かといってうまい説明も思いつかない。
……いや、そうか。説明できなくてもいいのか。
「マール先輩は、どうやって歩いてますか?」
「え、なんですかその質問は。どうって、こう……足を交互に……」
「どうやって交互に動かしてますか?」
「はあっ!? どうって……えっと?」
マール先輩は一旦立ち止まり、再び歩き出そうとして首を傾げた。
「えっと、まず右脚を……いや、その前に重心を少し左に傾けてバランスを」
「どうやって重心を左に傾けてます?」
「え、ええっ!? こ、こう、腰から上を左に……いや、どちらかというと脚の付け根で? あれ?」
立ち止まり、何度も歩き出す動作を考えながら繰り返すマール先輩。意外と律儀なんだね。
やがてマール先輩はため息をついて、歩き出す動作をやめた。
「……マイ君は、普段当たり前にやっていることを説明するのは難しい、と言いたかったりします?」
「理解が早くて助かります」
「そりゃ魔法は個々人のイメージがものを言いますけど……。そうかー、闇をバラバラに動かすのもマイ君には普通のことなんですか」
わかってくれたらしい。
身体が覚えていること、無意識にできることとかは、いざ説明となると難しい。そういうものだと勘違いしてくれてよかった。普通にできると言うと説明させられるからね。
再び話しながら歩き出す。ハンターズギルドが近づいてくると、マール先輩は足を止めた。
「それじゃあ最後に。学生会に呼ばれてましたけど、マイ君は晴れて学生会入りですか?」
「保留です」
「保留?」
「マリーニュさんの罠に見事にひっかかりましたからね。なので様子見だそうです」
「そういえば、バッヂつけてませんもんね。なるほど。……それでは、私はここで」
うんうんと納得したマール先輩は踵を返す。しゅたっと手を上げて、驚くほどの速さで人ごみを縫って姿を消した。
……なんだ? あまりにもあっさりと撤退しすぎじゃない?
念のためマークしておいたけれど、確かにマール先輩の反応は遠ざかっていく。どこかに隠れていて、私を尾行しようという感じでもなさそうだなあ。
「なんだろうね」
「この辺りに結界でも張ってあるんでしょうか?」
「そんな結界があるなら、学園内に張らないとね」
ヨナと笑い合う。対マール先輩結界か、誰か研究しないかなあ。
◆ ◆ ◆
「違法薬物、ですか?」
「そう。ここ最近、王都で暴力事件が多発していることは知ってる?」
あれからしばらくして。
マール先輩が尾行していないことを確認してから夢街にやってきた。もう、酔っぱらいたちのあしらいかたも慣れたものですよ。
【夜霧の夢亭】には顔パスで入れた。楽でいいけれど複雑だね。
そして、一ヶ月ぶりに会う女弓兵さんから、吸血鬼崇拝者たちが違法薬物を流通させている可能性について聞かされたのだった。
「魔法学園通信というもので、王都で謎の暴力事件が……という記事は見ましたが」
まさか繋がってくるとはね。これは偶然だろうか。
「そう、最近、王都で人が突然、狂ったように暴れ出す事件が数件。その事件に、どうやら吸血鬼崇拝者と違法薬物が絡んでいるみたいなの。だけど捕まえたのは下っ端でね、まだ薬物の流通ルートや売人については情報が少ないのよ」
「王都を混乱させるのが目的ですかね」
「おそらくね。魔法学園はどう? なにかトラブル起きてる?」
「……関連性は不明ですけど、魔法を暴発させる生徒が増えてますね。原因特定はこれからですけど、学生会が動いてます」
「そう。それで、例の影は?」
「私が転入してから、一度も現れてないですね」
簡単に情報交換をして、また一ヶ月後に会う約束をして別れた。
帰り道。夢街を出てからため息がでた。
「マイ様、よかったのですか? 薬物のことを言わなくて」
「んー、まあ、関連性がはっきりしないからね」
学生会室での会長さんの会話を思い出す。
『マイ君は、表向きは学生会とは無関係ということにして、あることを調べてほしいんだ』
『あること?』
『うん。最近、魔法を暴発させる生徒が増えてきているのは知っているかな。……知っているんだね、なら話は早い。その魔法を暴発させた生徒の一人が、どうやら外部から違法な薬物を入手して使用していたことがわかったんだ。その入手ルートの解明を手伝ってほしいんだ』
『それは構いませんが、なぜ表向きは無関係に?』
『悲しいかな、学生会の生徒は顔が知られていてね。薬の売人を見つけて接触しようにも警戒されてしまうんだ』
『現状、違法薬物と魔法暴発の関係性は証明されていません。全部で何人の生徒が違法薬物を使用したのかも、入手ルートもまだ把握できていません』
『学生会は校内の調査を進める。そこでマイ君には、学生会とは無関係を装って外を探ってもらいたいんだ。もちろん、情報は提供するよ』
魔法学園で問題となっている薬物が、王都で広まっている薬物と同一とは限らない。その証拠を押さえないと、【火竜の爪】との連携も難しいかなって思った。もちろん、同種の薬物、もしくは吸血鬼崇拝者が関わっていると判明すれば積極的に協力することになると思う。
ヨナと今後のことを話しながら夢街を後にして、少し暗くなってきた王都を進んでいると……。
「……ねえ、ヨナ。王都ってこんなに人がいなかったっけ」
「え、あれ? ここ、どこですか?」
気がつくと人気がまったくない路地裏にいた。
おかしい。大通りを歩いていたはずなのに、どうしてこんな場所にいる? いくら話しながら歩いていたとはいえ、大通りを外れる理由がない。
しかも、仮にも王都だというのに、不自然に誰もいない。路地裏とはいえ、人がいないはずはないだろうに。喧噪もかなり遠い。
「マイ様、引き返しましょう」
「そうだね……。いや、そうもいかないか」
振り返ると背の高い男がいた。
もともとは白かっただろうマントは薄汚れているけれど、その下に見える鎖帷子はよく手入れされているようで、薄暗がりの中でも輝いて見える。
テンガロンハットに似たつば広の帽子をかぶり、目元はゴーグルで見えない。口元は無精ひげでもじゃもじゃだ。つまり、顔はわからない。
さらに……すごい酒臭かった。路地裏で会いたくない人物だ。会っちゃったけど!
「まったくよお……」
気だるそうに呟きながら腰のから二本の剣を抜く男。
あ、あの剣の輝きはマズイ。見ただけで目がチリチリするあれは、間違いなく聖属性の剣!
「王都に吸血鬼が出るって聞いて来てみればよお、普通に街中をうろうろしてるじゃねえか。衛兵どもはなにやってんだ?」
え。吸血鬼が王都をうろうろしてる?
思わずきょろきょろしてしまうと、男は私に剣を突きつけた。
「とぼけんな。おめーだよ、おめー」
え、あれ? なんかピンチですか?
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