第224話 反撃開始
みなさんこんばんわ、マイです。
私は今、寮対抗戦が行われている魔闘技場の地下一階の……影の中にいます。
反則だろう、という声が聞こえてくるけど、今回だけってことで。三対一の状況をリセットするだけなので。
ヨナには青竜寮との前線に待機してもらって、タイミングを合わせて動いてもらうように指示しておいた。
キッカケは私が作る。あとは赤竜寮の面々の頑張りに期待するしかない。
チャンスを逃さないでよ、寮長。
白黒反転した影の世界を進みながら地上の様子を窺う。さて、黒竜寮の最前線の自陣水晶は、と……あった。
んー、自陣水晶のところに人がいるな。ひい、ふう……四人か。まあ、無防備なわけはないと思ってたけど。
ただ、全員が自陣水晶の南側にいて北側はがら空きだ。まあ、北側から敵が来るなんて思わないよね、この状況じゃ。
「
影の世界で手に電撃を纏う。そして────。
「うっ!?」
「ぎゃっ!」
「ぐうっ!?」
「きゃあっ!」
自陣水晶の影から飛び出し、四人を一気に殴り飛ばす。
バチチチチチッ!
速すぎて電撃の音が一つに聞こえた。
麻痺してバタバタと倒れる四人。
「あ……う……」
「あ。……勝負だからね、悪く思わないで」
一人だけ意識があると思ったらマリーニュさんじゃないか。
自陣水晶の効果を受けながらも、イーラ含めて三人が完全に気絶してるのに意識があるとか、元々魔法抵抗力が高いんだろうな。見られたくはなかったけれど。
電撃を纏った拳で黒竜寮の自陣水晶を思いっきりぶん殴る。
スンッ。と擬音が聞こえるみたいに輝きを失った自陣水晶が、次の瞬間に姿を消す。スタート地点に戻ったんだろう。
お、マリーニュさんたち四人も同時に消えた。
そして南の方が騒がしくなる。自陣水晶の効果が消えたのがわかったんだろうな。
「白竜寮だーっ!」
思いっきり南に向かって叫ぶと、すぐに影に潜って移動する。次の目的地は青竜寮の自陣水晶!
青竜寮の最前線の自陣水晶にも、守りが数人いた。だけど黒竜寮で異変があったのが伝わってきてるんだろう、誰もが浮足立って隙だらけだった。
バチチチチチッ!
その隙を逃さず、全員麻痺してもらう。そして自陣水晶をぶん殴る。
青竜寮の自陣水晶がスタート地点に戻ったのを確認して、再び影の中へ。
自陣に戻る途中、赤竜寮と青竜寮の最前線の下を通ると、赤竜寮が前線を押し上げているようだった。よしよし。
「寮長、どうなりました?」
「お前! ……いったい、なにをしたんだ?」
自陣に戻り、寮長を探して声をかけたら幽霊でも見るような目で問われた。あんまりじゃないかな。
まあ、見るからに黒竜寮の生徒が減っている。それだけじゃなくて、なにやら混乱しているようで、魔法による攻撃の頻度が下がっただけじゃなく、体勢を立て直した我が寮生たちの反撃に数を減らしているようだ。う~ん、予想以上だ。
感心していると、伝令たちに指示を飛ばしていた寮長から改めて問われた。
「で、なにしたんだ?」
「黒竜寮の自陣水晶を機能停止させてきました」
「おいおい……。どうやって後方に回り込んだんだ」
「加えて白竜寮がやったと、嘘の情報を叫んでおきました」
「……どうりで急に数が減って、しかも混乱しているわけだ。ここからじゃ見えないが、黒竜寮と白竜寮の間で戦闘が始まってるかもしれん」
「あと、青竜寮の自陣水晶も機能停止させてきました」
そう告げると、寮長の返事は少し遅れた。いや、なんで呆れたように頭を抱えるんですか。
「これだから天才は……」
正確にはチートなんですけどね。いや、言わないけど。
と、そこに伝令らしい生徒が駆け込んできた。
「寮長、青竜寮の防衛戦をこじ開けた!」
「よし、最低限の防衛部隊だけここに置いて、一気に青竜寮が確保していたエリアを奪う。可能ならそのまま黒竜寮がいた高台も奪うぞ!」
寮長の指示に、どおおっと空気が震えた。ようやく反撃できるんだ、気合いも入ろうというものだよね。
生徒たちの士気は高い。そのまま青竜寮のいたエリアになだれ込む。
ふと、隣に伝令の生徒が並んだ。
「お前の奴隷、凄いな」
「え?」
「青竜寮が後退を始めたタイミングで敵陣に乗り込み、大暴れして防衛線に穴を空けたんだ。最終的に魔法の集中砲火を浴びて退場したけど、あいつがいなかったらもっと時間がかかってただろうな」
おおう、ヨナ大活躍だったんだね。これは鼻が高い。あとでたっぷりとご褒美をあげないとね。
「ええ。私のヨナは……凄いんです」
こりゃあ、主の私も負けてられないねっ。
◆ ◆ ◆
寮対抗戦が終わると、寮に戻って反省会。
我らが赤竜寮は対抗戦前とは一転、穏やかな空気で反省会を迎えていた。
「かんぱーい!」
食堂でグラスが鳴る。
あの後の赤竜寮の快進撃は凄かった。青竜寮の確保していた陣地を奪い、そのままそこを通って、黒竜寮がいた高台の一部を確保した。
予想通り、白竜寮に自陣水晶を機能停止させられたと思った黒竜寮は白竜寮と争っていて、そこに我らが赤竜寮が襲いかかったのだ。
「まず反省点は、戦力の一点集中が遅れたことだな。地形の把握に手間どり、そこに黒竜寮からの爆撃で動きを止められた」
「あれは地形が悪いだろー」
「確かに。とはいえ、地形の把握をもっと早くできるように考えないといけない」
グラスを傾け────お酒ではない────ながら、和やかに反省点や全体の流れを再確認していく。
聞けば先月の反省会はお通夜状態だったそうで、今日はみんなもホッとしているんだろう。
そんな穏やかな時間は心地好い。
だけど、楽しんでいられたのは前半だけだった……。
「さて、今回の寮対抗戦のMVPを発表しよう。マイ、お前だ」
「……ファッ!?」
「はいはい、マイ君は前へ前へ」
「ちょっ、いつの間に!」
いつの間にか背後をとっていたマール先輩にグイグイと押されて前に。事情を知らない寮生たちがザワつく。
「実はマイに、遊撃任務を任せてほしいと言われてな。あのままだとジリ貧だとわかっていたから、ダメ元で遊撃を許可したんだが、予想以上の活躍だった。さあ、マイ、具体的になにをしたか話してくれ。みんな聞きたいはずだ」
期待に満ちた寮長の笑顔。
うー……まあ、こうなるよね。逃がしてもらえなさそうだ。仕方ない、諦めるか。
諦めて自分のやったことを、多少誤魔化しながらも説明する。
当たり前だけど質問の嵐になった。
「どうやって他の寮性に気づかれずに後方に回り込んだんだ?」
この質問が一番多かった。
「……闇魔法の応用ですよ。身に闇をまとって影の近くに潜み、誰にも見られていないタイミングで影から影へと移動したんです。意識していないと、壁とかの影だと思うでしょうね」
「自分も闇に適性があるんだけど、やり方を教えてもらえない?」
「すみません。子供のころ遊びで魔法を使っていたらできてしまったので、理屈じゃなくて感覚で発動させてるんです」
「くっ、やはり天才か」
違うんですけどねー……。
【影渡り】を説明するわけにもいかないので、そう誤魔化すしかなかった。
矢継ぎ早に飛んでくる質問を、なんとか綱渡りで凌ぐ。反省会が終わったころにはヘトヘトだったよ。
まあ、私もヨナも感謝されて、悪い気はしなかったけれども。
「いやー、マイ君、お疲れ様」
「他人事だと思って」
「実際、他人事ですからね。ですが、お陰で面白い記事が書けそうです」
マール先輩はブレないな。
そういえば寮対抗戦の最中に姿を見なかったけれど、どこでどう取材していたのやら。
「それにしても、マイ君はすごいですね」
「なにがです?」
「だって……あの短時間で黒竜寮の後方に回り込むだけでなく、黒竜寮の自陣水晶を二つも機能停止させましたよね。あの広い地下一階で、結構距離があった上に地形も複雑だったのに」
マール先輩は笑顔だ。だけど目が笑っていないような気が……。
人当たりのいい、だけど胡散臭い笑顔の仮面がわずかにズレて、本当の顔が見えたように思う。
「お陰で黒竜寮は前線に駆けつけることを断念し、地下の真ん中あたりに新しい防衛線を敷くしかなかったんですよねえ」
「……そうだったんですか」
「計算通りなんですよね?」
「結果論ですよね」
「……そういうことにしておきましょうか」
マール先輩はいつもの笑顔に戻った。
だけど、あの笑っていない目を思い出して、しばらく落ち着かなかった。
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