第216話 インタビュー
魔法学園最初の放課後を迎えた。
魔法学園には様々な施設があるけれど、驚いたのは広大な魔法訓練場だ。朝、柵に囲まれた場所があるって言ったけれど、そこだった。
訓練場はいくつかのスペースに区切られ、魔法射撃用の的があったり、ランダムにボールが飛んでくる回避、防御訓練所など様々な訓練用スペースが作られていた。
一年生の魔法の実技は今のところ基礎訓練だけど、いずれここで戦闘を意識した授業が始まるという。今から楽しみだ。
届け出さえすれば放課後にここは使えるというので、ヨナと一緒にやってきた。もっとも、目的はマール先輩のインタビューを受けることなんだけどね……。
「なんでまた、こんな場所で」
「放課後、一番人が集まる場所なのだよ。インタビューされているところを目撃されるだけでも、記事に信憑性が増すとは思わないかね?」
ドヤッと胸を張るマール先輩。頭の横で髪飾りがゆらゆらと揺れた。
うん、まあ、インタビューを受けているところを目撃されれば、マール先輩の妄想記事とは言われないか。
「……なにか失礼なことを考えてませんか?」
「キノセイデスヨー」
ここで私がペンゼル伯爵と無関係だと発言して、それを誰かが耳にしてくれればあとは噂として広がるだろうし。
(尾鰭がつかなきゃいいけど……)
いや、つくな。確実につくな。
まあ、噂を利用しようとしている時点でそれは覚悟しないとね。
「それでは、インタビューを始めますよ」
「ほーい 」
こうしてインタビューが始まった。
出身地とか、ハンターを目指した動機とか無難なあたりから……。
「ええっ!? 妖狐を倒したんですか?」
「機転を利かせて罠にかけただけですよ」
ヨナを買い取った経緯などの答えにくい質問に移っていく。
嘘設定は考えてきたけれど、破綻するからあまり細かいところまで訊かないでほしい。
もちろん、誤魔化すことができない話もあるけれど。
「推薦状は誰から、どのような経緯で貰ったのです?」
「あー、ケイモン周辺で起きた、吸血鬼の城の封印が解けた時ですね」
「そこ、詳しく!」
なんだかんだでギャラリーはいる。巻き込まれてくないから距離はとっているけれど、聞き耳を立てているのは丸わかりだ。
そしてタイミングを見計らって、マール先輩は約束通りに話を移した。
「そういえばアルビノだとは聞きましたが、お顔を拝見しても?」
「眩しいので短時間でお願いしますよ」
フードを外すと周囲で息を飲む音が聞こえる。気がつけばギャラリーの数がかなり増えてたな。うーん、視線を感じる。
「ほー。これは男子がほおっておきませんねえ」
「フードを戻しても?」
「ええ、ありがとうございます。しかし……先頃復学したセーラ・ペンゼル嬢にそっくりですね。血縁者ですか?」
「他人のそら似です。まあ、お会いした時は驚きましたけれど」
「初めて会ったのはどちらで?」
「ハンターの仕事で、雪の邪精に襲われた休憩所を助けに行った時に」
「ほう。もう少し詳しく────」
私の美貌────自分で言うのは恥ずかしい────で周囲の視線を集め、そこにセーラさんとは他人だとアピール。
これで身内ではないと知られればいいんだけどなあ。
その後、なんとかインタビューは終了。気がつけば陽もだいぶ傾いた。
放課の鐘が聞こえてくる。訓練場から帰る人も増えた。今日はここまでかな。
「最後に、なにか私に聞きたいことはありませんか?」
「聞きたいこと?」
「ええ、これでも事情通なのですよ」
「情報処理に問題がなあ……」
「なにか言いましたか?」
「いえ。それじゃあ、この記事について先輩の見解を聞いても?」
朝にもらった学園通信を広げる。その記事とは、魔法学園上空を舞う謎の影についてだ。
内容を確認したマール先輩は、少し難しい顔をした。
「あー、その影ですか」
「学園は警戒しているんですか?」
「一応、見かけても無闇に追いかけるな、とは言ってますね。ゴーレムが反応していないので、大型夜行性鳥類だとでも考えているんでしょうかねえ」
「先輩はなんだと考えてるんですか?」
「吸血鬼」
はっ!?
あまりにもさらっと、とんでもないことをこの先輩は……っ!?
「……だったら面白いのになあ、と思ってますよ」
「…………」
「そんなに見つめないでくださいよ、照れます」
「睨んでるんです」
冗談でも吸血鬼なんて言うものじゃないでしょうに。
いやまあ、王都で吸血鬼崇拝者が暗躍していた以上、吸血鬼の可能性はあるんだけど、誰が聞いているかわからないんだぞ。
だけどマール先輩は私の視線に怯んだ様子もない。
「まあ、私の予想はともかく。あらゆる可能性を否定はしないものです」
「じゃあ……吸血鬼だと仮定して。目的はなんだと予想してます?」
「やけに食い下がりますね、マイさん」
「吸血鬼なんて聞いて平然としていられる人がいるんですか?」
ちょっと前のめりすぎたかな、警戒されたかも。
だけど、今のところこの記事くらいしか手がかりが無いからね。真偽はともかく、情報は欲しい。
だけどマール先輩は肩をすくめるだけだ。
「そればかりはなんとも。本当に吸血鬼だとしても、目的は本人にしかわからないでしょう」
本当にわからないのか、それともはぐらかしたのか。
残念ながらわからない。
だけど、ここでさらに食い下がれば不審に思われるだけか。
「さあ、私たちも寮に帰りましょうか。時間外に施設にいては、マリア先生にどやされますから」
「そうですね」
仕方ない、今日はここまでだ。
マール先輩について訓練場を後にする。学園を囲む壁のせいで、早くも暗くなってきているなあ。冬だとどれくらい早く暗くなるのやら。
「そういえば、マイさんは寮はどこです?」
「赤竜寮ですけど」
「おお、同じでしたかっ」
うげ。マジかー。
寮だと学園以上にマール先輩が自由に動き回りそうだな。
いや、先輩のことだから他の寮にも頻繁に出入りしているかもしれないな。
なんにせよ、寮では静かにしていてほしいなあ。
「何階の何号室です?」
「さあ? なにせ今朝、荷物を運び込んだばかりなので」
「あやや、そうでしたか。じゃあ、遊びに行くのは後日としましょう」
来なくていいです。
「ちなみに私は五階の十一号室です。いつでも歓迎しますよ」
聞いていないし、多分、行きませんよ。
「まあ、あまり部屋にはいないかもですが」
おいこら。
寮に着くまでにガッツリ疲れさせられた……。
寮に到着し、寮監の先生から寮の説明を受ける。ちなみに寮監の先生は初老の男性だった。
寮則は現代とそれほど違いはなかった。集団生活を送る上で守るべき事に大きな違いはないってことだろう。
まあ、「寮内での魔法の使用は禁止」は、この世界らしいけど。
「これが鍵です。登校時に返却するのを忘れないように。すぐに夕食になりますから、荷物の片付けは後にするといいでしょう」
受け取った鍵の番号は5─12。……すごく嫌な予感がする。
「あの、確認したいのですが、私の部屋は……」
「五階の十二号室です」
マジかー……。
寮監室を出ると、なぜかマール先輩が待っていた。なぜ?
「昇降機の使い方を教えておこうかと思いまして」
「昇降機?」
「階段を使わずとも上階に移動できるんですよ」
寮は独特の構造をしていた。
塔の一~二階は食堂、娯楽室、浴室があるため、三階以上よりふた回りほど大きくなっている。
塔の中心を太い石造りの柱が貫いていて、その柱に巻きつくように階段がある。各部屋は塔の外壁側に並んでいるようだ。
その柱に四つの昇降機があった。つまり、エレベーターだ。説明を聞いたヨナは大興奮だ。
「マイ様、すごいですね! 階段がいらないんですって」
「確かにすごいねえ」
「まずは扉横にある水晶に触れてください。すると、誰も利用していない昇降機がここに到着します」
マール先輩が水晶に触れる。しばらくすると、涼やかな鐘の音がした。
到着しましたね、と言ってマール先輩は扉を開ける。どうやら自動ドアとはいかないようだ。
中は箱ではなく、大きな鳥カゴといった代物だ。マール先輩に促されて乗り込むと、先輩は扉を閉めてからカゴ内部に設置されている二つの水晶を指差す。
「片方が上昇用、もう片方が下降用です。ここに必要なだけのマナを流し込めば動きますよ」
「……それ、結構難しいのでは?」
「難しいですよ。加減がわからないと、なかなか行きたい階に到着できません。まあ、これも魔力の訓練なわけです。今日は私がやりますよ。どうやら同じ階なようなので」
知ってたんじゃないか? この先輩は……。
マール先輩が水晶に触れると、昇降機が動き出す。予想外にスムーズな動きにヨナは興奮しっぱなしだ。うん、可愛い。
そして五階に到着。先輩に連れられて歩き出して……。廊下の角、死角になりそうな窪み部分に女生徒二人を見かけた。
「んんっ!?」
通り過ぎて、思わず戻った。
「わ、わ、わ……」
「おやまあ、こんなところで」
ヨナは驚きで声を無くし、マール先輩は肩をすくめた。
死角となるところで、女生徒二人が熱烈なキスの真っ最中だったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます