第167話 女の子好き!?

「よかったのでしょうか?」

「まあ、本人がいいと言うのだから、お言葉に甘えましょう」

 私たちは例の宿の一室にいる。アノーさんが手配してくれたのだ。

 リモさんの名前を聞いた時のアノーさんの反応は、まるでSANチェックに失敗した時の探索者のようだった。


『お代は一泊、銀貨一枚で結構です。ええ、それ以上はいただきません。どうぞごゆるりとお過ごしください……』


 私たちではない、誰か、もしくはどこかを見たまま、まるで録音された言葉を繰り返すだけのアノーさんは見るに堪えなかった。リモさん、マジでなにしたんですか。

 申し訳なさすぎて、泊まらないという選択肢も頭に浮かんだけれど、それだとリモさんの名前を出してアノーさんを怯えさせるだけの迷惑客になりそうだったので……。

 この世界にチップという文化は無かったと思うけれど、なんらかの形でお返しできるかなあ。

「はー……、それにしても、こんな立派なお宿に泊まったことなどありません」

 アンシャルさんは素足で絨毯の感触を堪能したり、窓を開けて遠くに見える間欠泉に目を輝かせていた。

「あ、でもでも、ベッドは精霊樹の間の物の方が柔らかいですよ」

「いいんですよ……気を遣わなくても」

「そ、そんなのではありません!」

 調度品の類いは、当たり前だけど宿の方が立派だ。【マイホーム】内の物は機能優先でデザインなんか二の次だしね。

 だけどアンシャルさんは、世話になっている【マイホーム】より宿を良く言ったとでも思ったらしく慌てている。うん、可愛い。ついつい困らせてしまいたくなる。

 だからヨナ、ヤキモチ妬いてお尻をつねるんじゃない、痛いから。とりあえず、お茶でも飲んで落ち着こうじゃない。

 ヨナに淹れてもらったお茶を飲んでひと息つく。初めて飲むそれにアンシャルさんが驚いている。

「紅茶とはまた違った風味ですね」

「まあ、茶葉ですらないみたいですけどね」

 火山の影響か、それとも土地の問題か。ケイノ周辺ではお茶の木がうまく育たないらしい。

 じゃあ、今飲んでいるお茶の原料がなにかと言えば、どうやら火山洞内部に生息している苔の仲間らしい。

 量が採れないので高級品で、一般の人は飲めないそうだ。そうかー、苔もお茶になるんだ、と前回驚いたものだ。

『にゃー』

「ああっ、クロさんダメですよ」

 立派な柱で爪研ぎしたくてたまらないクロ。アンシャルさんがそれを止めようと四苦八苦しているのを眺めながらお茶をいただく。ホッコリするなあ。

「わっ!?」

「うん? ヨナ、どうしたの」

 なにか虚空を見つめていたヨナが小さく驚く。声をかけると、なんだか嬉しそうに小さく耳打ちしてきた。

「なんとなくステータスを確認していたんですけど、『主に愛されし者』という称号が増えていたんです」

 赤くなった頬を両手で押さえ、きゃーっと悶えるヨナ。なんだこの可愛い生き物は、愛でさせろ。

 しかし、ステータスか。そういえば内乱で忙しくて長く確認していなかったな。シーン・マギーナの欠片も手に入れたし、なにか新しいスキルとか増えているかもしれないな。どれどれ、私も。



【名前】マイ

【種族】吸血姫 (嗜好:快楽)

【年齢】十二歳

【職業】Eランク ハンター


生命力:─/─

マナ :1465/1465 up!


筋力:178 up!

頑健:156 up!

器用:148 up!

敏捷:358 up!

知力:229 up!

精神:302 up!

魔力:798 up!

魅力:82  up!

運 :50


【種族特性】

弱点:日光

魔属性

魔力の肉体

余剰魔力漏出



【種族スキル】

暗視

影渡り

嗅覚強化

吸血

吸精

霧化

血液操作

再生

従者強化

血の契約

使い魔召還

副眼 new!

魅了

闇の翼



【スキル】

隠密:Lv9 up!

解体:Lv7

格闘:Lv5 up!

気配消し:Lv9 up!

剣術:Lv8 up!

採取:Lv7

裁縫:Lv5

瞬間記憶:Lv5 up!

調薬:Lv2

追跡:Lv10 up!

包容力:Lv6 up!

母性:Lv6  up!

魔力隠蔽:Lv10 up!

魔法の才能:Lv10

魔力回路:Lv10

魔力感知:Lv8 up!

魅惑:Lv6 up!

力量察知:Lv5 up!

料理:Lv6


火魔法:Lv5

水魔法:Lv7

氷魔法:Lv7

風魔法:Lv7 up!

雷魔法:Lv6

土魔法:Lv4 up!

闇魔法:Lv8

光魔法:Lv1

精神魔法:Lv2

森魔法:Lv6 up!

精霊魔法:Lv8 up!


火魔法耐性:Lv6

水魔法耐性:Lv9

氷魔法耐性:Lv7

風魔法耐性:Lv9

雷魔法耐性:Lv5

土魔法耐性:LV9

闇魔法無効

光魔法耐性:Lv4

聖魔法耐性:LV2

精神魔法無効

毒無効

呪い無効

陽光耐性 :Lv2 new!


【称号】

転生者

真祖の血族

ヨナの主

シーン・マギーナの主

アンデッド・ハンター

精霊の家族

サラマンダーを従えし者

クロの主 new!

女の子好き new!


【EXスキル】

オートマッピング

解析

加速・減速:Lv6 up!

クリエイトイメージ

索敵

自動翻訳

スキャン

前世の記憶

全属性適性

全抵抗力上昇

操髪

マイホーム



 お、おお……。能力値が軒並み上昇してるな。まあ、短い間だったけれど、ロッテ姉妹たちと毎日のように鍛練してたからそのお陰かなあ。

 しかしまあ、能力値だけなら完全に人を超越してしまっているな。振る舞いに注意しないと。

 あまり魔法を使うことがなかったせいか、魔法スキルの伸びは弱いな。いやまあ、十分に高レベルなんだろう。問題はレパートリーが少ないことか。魔法学園で増えればいいけど。

 【包容力】、【母性】、【魅惑】が地味に上がっているのは解せないけれど、注目すべきは新しく増えたやつだな。

 まず【副眼】。種族スキルということは、シーン・マギーナの欠片が原因かな。しかし、どういうスキルだこれ? 名前的にはサブカメラっぽいけど……とりあえず使ってみるか。使用、と。

 ……あ、あー、こういうことか。スキルを使用すると、どこに副眼を設置するか選ぶようになるけど、マジでこれはサブカメラだわ。試しに後頭部に設置してみたら背後が同時に見えるようになった。な、慣れないと脳がバグりそうだ!

「ヨナ、私の後頭部に変化がある?」

「後頭部ですか? ……特になにもないですけれど」

 後頭部を覗き込むヨナが見える。ふむ、どうやら本当に目が出現するわけじゃなさそうだ。発想次第でいろいろできそうなスキルだな、これ。

 次は……【陽光耐性】だと!? 昼間の能力値低下率が減少するのか? これは普通に嬉しいな。

 しかし取得するのに一年近くか。本来なら取得できないはずのスキルなんだろうな、これ。スキルを管理しているのが神様なのかシステムなのかはわからないけれど、私の存在って想定外なんだろうなあ。

 そして、【クロの主】は、わかる。問題は……【女の子好き】って、どんな称号だコラァッ!

 あれか、ヨナだけでなくライラックさん、果てはクロや女性体の精霊たちともイチャイチャしたから?

 い、いや、否定はしないよ。中身は男だし、女の子が好きでなにが悪い。でも、わざわざ称号にすることですか? 称号でなにか変化があるんですか? ステータスに見える形でスキルや能力が追加されている様子はないけれど、変な能力がオマケされていませんようにっ!

「マイ様、どうしたんですか?」

 天に願っていたらヨナに心配された。クロを抱き抱えたアンシャルさんもやってくる。

「お祈りをしたいのならば、教会がありますよ?」

 いや、そうじゃない。……あ、でも、お祈りくらいはしておいてもいいかなあ。まあ、アマス様がステータス管理をしているとは思えないけれど、担当の神様に伝えてくれるかもしれないしね!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る