第52話 事後処理は大変だ
ガラガラガラ……。
乗り合い馬車は街道を行く。
どうも、マイです。ライラックさんは命の危機を脱したけれど、多分、まだ全快じゃない。意識が戻らないので背負って町へ向かおうとか思ったけれど、馬車の護衛さんたちが心配して見に来たので、慌てて【マイホーム】からライラックさんを引っ張り出した。
当たり前だけど、私やヨナがライラックさんを運べるようには見えなかったんだろう、ライラックさんを馬車で運んでくれることになった。正直ありがたいね。
そして今、ケイモン周辺で発生した一連の出来事を説明しながら移動している。
「吸血鬼の伝承か……」
「それで、解決はしたんだな?」
「ええ、とりあえずは。まあ、町の方は大変でしょうけど」
自分が吸血鬼の城に乗り込んだことは言っていない。だって、言ったら絶対に面倒なことになるじゃないのさ。
やがてケイモンの町が見えてくると、色々な意味で大変なことになっていた。
町を包囲していたアンデッドたちは残り少ない。防衛隊、頑張ったね!
問題は、鼻を衝く死臭。足の踏み場も無いくらいに転がる死体、死体、死体……。あちこちで火葬されているのは火炎系の魔法を撃ち込んだからだろうけど、困ったことに町周辺の草木にまで燃え広がっている。魔法で雪が吹き飛んで草木が露出したせいもあるだろうし、燃えているアンデッドから火の粉が舞っているのもあるだろう。予想外の場所で燃えだす危険性がある。
町の跳ね橋は下りていて、残っていたハンターたちがアンデッド掃討に出ているけれど、消火している暇なんて無いみたいだ。雪があるから燃え広がるスピードは遅いけれど、森林火災で大変な目に遭ってるんだから消さないとマズイ。
……うー、しょうがない。消すか。幸い、雪があるから材料には困らない。
「ちょっと消火してきます。ライラックさんをお願いしますね」
「あ、おいっ」
止める声を背にして駆け出す。うん? ヨナがついてきた。
「手伝います!」
焦りの見える顔。ヨナを助けて私が刺されたことを気にしてるのかな。まあ、気にするなというのは酷か。だけど、ヨナもマナが少ないはずだ。この面積の火を消すとなると……いや、あれを使おう。
「ヨナ、これ」
「こ、これはっ!」
懐から取り出したのは、地下で自分の命を救った液体。そう、【余剰魔力漏出】によって体外に排出された私の体液だ。【マイホーム】に戻さず、一本だけ持ち歩いていたものをヨナに渡す。
「多分、飲むと危険だから一滴ずつ舐めて使って」
「マイ様の……舐め……」
みるみる赤くなるヨナ。こらっ、余計なことを考えるでない。こっちまで恥ずかしくなるじゃないか。
恥かしさを誤魔化すように雪を水に変え、燃えている草木にぶっかける。ヨナも慌ててマナを補充し、突風で火を消す。よしよし、なんとかなりそうだ。……あ、そうだ。
「ヨナ、火の周りの空気を取り除くようなイメージ、練習してみて」
「? ……わかりました」
「じゃ、行きますか」
「はい、マイ様っ」
アンデッド掃討は他の面々に任せて、私とヨナは鎮火のために町の周辺を走り回った。
◆
北へ向かったハンターたちは無事に休憩所を襲撃した魔物を撃退し、凱旋した。そしてケイモン周辺の惨状に驚愕した。なにせ堀は死体で埋め尽くされ、町の周辺に死体が散乱してるんだものね。アンデッドではない死体は亡者滅還で土に還らないので、死体の処理にものすごく時間がかかっているのだ。
本来ならば墓掘りが埋葬地に人数分の穴を掘るところなんだけど、さすがに今回は無茶だ。場所もない。なので死体を燃やして、遺骨をまとめて埋める予定らしい。これを機に火葬が普通になればいいんじゃないかな、アンデッド化もしないし。
アッシュ? そこまで責任持てない。
通信の回復したハンターズギルドは各地のハンターズギルドと領主、国への連絡、そして死体の処理に追われて戦場と化していた。正直近寄りたくなかったんだけど、吸血鬼の城に乗り込んだメンバーとしては報告に行かないわけにもいかなかった。
地下の探索については問題なかったけれど、呪われたライラックさんをどう助けたかについては本当のことも言えない。なので、【霧化】で攻撃をかわしたこととか、刺されたはずなのに無事なことについては手品ってことにして誤魔化した。え、苦しい? わかってるよっ!
だけど、なんとかなってしまった。ライラックさんが、なぜだか私に話を合わせるようにしてくれたからだ。お陰で深く追求されずに済んだ。助かったー。
しかし問題はまだある。シーン・マギーナだ。念のため、ギルド・マスターにだけはシーン・マギーナが意思を持っていることと、謎めいたメッセージについては知らせたんだけど、能力を見る限り明らかに吸血鬼を倒すために城に乗り込んだ勇者の武器なので、詳しく調べるためにもギルドに預けてほしいと言われた。だけど呪われている上に私を主と認め、手放しても勝手に戻ってくるとあっては預けることもできない。
本当に戻ってくるのか証明してみろと言われたので、隣の部屋にシーン・マギーナを放り込んで扉を閉めたら、扉を真っ二つにして戻ってきた。まだ試すかと訊いてみれば、首を横に振られたけどね。さすがにギルド内をズタボロにされるわけにはねえ。
ただ、どうして私は呪われないのか。なにがどうなって私を主と認めたのか。しつこく訊かれたけれど、私にもわからないんだからしょうがないじゃん!
いや、呪いに抵抗できてるのはわかってるけどさっ、言えないじゃん。主と認めた相手は呪いは中和される、とでも思ってほしい。切実に。
結局、シーン・マギーナを預かることはギルドも諦めた。だけど調べるために毎日ギルドに顔を出すように言われてしまった。トホホである。
あ、そうだ。落ち着いてからステータスを確認してみたら、なんだかすごいことになっていて眩暈がしたよ。
【名前】マイ
【種族】吸血姫 (嗜好:快楽)
【年齢】十一歳
【職業】Fランク ハンター
生命力:─/─
マナ :563/563 up!
筋力:106 up!
頑健:113 up!
器用:110 up!
敏捷:186 up!
知力:155 up!
精神:216 up!
魔力:308 up!
魅力:53
運 :50
【種族特性】
弱点:日光
魔属性
魔力の肉体
余剰魔力漏出
【種族スキル】
暗視
影渡り
嗅覚強化
吸血
吸精
霧化
血液操作
再生
血の契約
使い魔召還 new!
魅了
闇の翼
【スキル】
隠密:Lv6 up!
解体:Lv5 up!
気配消し:Lv6 up!
剣術:Lv0 new!
採取:Lv5 up!
裁縫:Lv2 up!
調薬:Lv1 new!
追跡:Lv6 up!
魔力隠蔽:LV6 up!
魔法の才能:Lv10 up!
魔力回路:Lv10
魔力感知:Lv5 up!
料理:Lv4 up!
火魔法:Lv3 up!
水魔法:Lv5 up!
氷魔法:Lv6 up!
風魔法:Lv3 up!
雷魔法:Lv5 up!
土魔法:Lv0
闇魔法:Lv4 up!
光魔法:Lv0
精神魔法:Lv0
森魔法:Lv3 new!
火魔法耐性:Lv3
水魔法耐性:Lv9
氷魔法耐性:Lv7
風魔法耐性:Lv9
雷魔法耐性:Lv5
土魔法耐性:LV9
闇魔法無効
光魔法耐性:Lv4
聖魔法耐性:LV2 up!
精神魔法無効
毒無効
呪い無効
【称号】
転生者
真祖の血族
ヨナの主
シーン・マギーナの主 new!
アンデッド・ハンター new!
【EXスキル】
オートマッピング
解析
加速・減速:Lv5 up!
クリエイトイメージ
索敵
自動翻訳
スキャン
前世の記憶
全属性適性
全抵抗力上昇
操髪
マイホーム
……しばらく確認してなかったのもあるけど色々と上がりすぎぃっ! あと、ステータスだけで文字数取りすぎぃっ!
ただ、なんとなくわかるのは、能力アップはシーン・マギーナのお陰だろうということ。ゲームでもパラメーターを上昇させる武器とかあるけど、多分あんな感じ。装備しているからこそわかる。
さて、魔の霧事件から五日目。呼び出されてギルドを訪れた。受付で要件を伝える間もなくギルドマスターの部屋に通される。
部屋に入ると、書類に囲まれたギルドマスターが疲れた顔に笑みを浮かべた。
「よく来たな、英雄」
「やめてください」
騒がれたくないので口止めはしてもらったけれど、町に残ったハンターは私が吸血鬼の城に乗り込んだことを知っているし、呪われたライラックさんを救い、その呪われた刀を平然と持ち帰ったことも知っている。人の口に戸は立てられない、いずれ知られてしまうんだろう。今からげんなりする。
「すまんすまん、許せ」
笑いながら謝るギルドマスターは少しやつれて見える。ああ、サラリーマン時代の自分がダブッて見える。多分、私をからかいでもしなければ、やってられないんだろうな。
「珍しいな、今日は一人か?」
「ヨナは……女の子ですから」
「……ああ」
ギルドマスターも女性だから通じる。そう、ヨナに女の子の日が来たのだ。吸精の最中だったので、そりゃあ驚いた。
教えてもらう前に母親と死別してしまったため、ヨナは大パニック。落ち着かせるのが大変だった。
初めてということもあるけど、どうやら少し重いようなので今日は【マイホーム】内でお休みだ。帰ったら消化の良いものを作ってあげよう。
そんなことを考えてていると、ギルドマスターが秘書さんに合図した。秘書さんが別室に移り、戻ってきた時にはナイスミドルな神官さんと一緒だった。
「こちらは?」
「北に向かったメンバーで一番の実力者だ。彼なら例の剣の呪いを解けるかと思ってな」
聞けばBランクの神官らしい。それは確かに期待できるかもしれない。
よろしく、と握手をしていると、ギルドマスターが首を傾げた。
「ひょっとして、背中に背負っているのが例の剣か?」
「はい。さすがに抜き身で持ち歩くわけにもいかないですからね」
そう、漆黒の刀身を持つ刀を抜き身で持ち歩いていたら町に入る時に止められたのだ。事情を説明して町には入れたんだけど、やはり鞘を作れと言われた。とはいえ、手にした人物を狂戦士化させる呪いがかかっている刀を職人に預けられるはずもない。触れた瞬間に「ヒャッハー!」されるのがオチだろう。
だから仕方なく、【クリエイトイメージ】で鞘を作ったのだ。できれば漆塗りにしたかったけれど、この世界に漆があるかどうか。
「よく作ってもらえたな」
「ええ、まあ……苦労しました」
自分で作りました、なんて言えないから適当に誤魔化す。
ギルドマスターは深く追求してこなかったけれど、訝しむような表情だ。その隣でナイスミドルさんが目を見開いて背中のシーン・マギーナを凝視していた。
「呪い感知を使わねばわかりませんが、これほど強力な呪いは見たことがない。……どこで見つけたのですか?」
「すまないが教えられない。察してくれ」
「……なるほど」
うん? なにか意味ありげな会話をする二人。シーン・マギーナが吸血鬼の城跡から見つかったのは公言できなってことかなのか?
問おうとするより先に、ナイスミドルさんが聖印を取り出して歩み寄ってきた。
「それでは、解呪を試みます」
あ、はい。お願いします。
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