第45話 遺されたメッセージ
はい、こちら現場のマイです。集まってきたアンデッドを殲滅したあと、その勢いを駆って南に集まったアンデッドを倒しに向かっております。さあ、東と南にアンデッドが集まっている理由はなんなのでしょうか!
……なーんて実況したくなるような状況にいるのです、今。
私が【クリエイトイメージ】で創った氷塊でアンデッドをほぼ破壊したあと、乗り込んだ戦士たちが残りを掃討した。そしてそのまま、南に集まっているアンデッドたちのところへと乗り込んで行くところだ。
「おいチビッ子、あんな強い魔法が使えるなら最初に言いやがれっ」
「近くに水がないと無理なんですよ、あれは」
大柄な戦士に言い返す。
これが即席パーティーの難しいところだよね。お互いの能力がわからないから、いざという時に判断が遅れてしまう。まあ、Fランクの自分がド派手な魔法を披露するわけにもいかないと思って最初に申告しなかったのがいけなかったんだけどさぁ。過ぎたことだから大目に見てほしい。
「やはり凄い才能だ。無事に戻ったら推薦状を用意するから、ぜひ魔法学園に────」
うわ、魔法使いもしつこいぃっ。のんびりと学園に通ってたらヨナを奴隷から解放できないじゃないか!
小声でやりとりしているうちに、アンデッドが集まる近くまでやってきた。打ち合わせたように全員が足音を忍ばせる。まあ、鎧を着た戦士は限界があるけど。
「なにをしておるんじゃ?」
呟いたのはドワーフの戦士。夜目が利くだけ、他のメンバーより先にアンデッドたちの行動に気づいたらしい。
アンデッドたちは、一心に南側の壁を攻撃している。拳が潰れ、骨が折れてもかまわず、なにかに突き動かされるように。トンネルでも掘るつもりなんだろうか。外に出る亀裂はあるというのにね。
答えを知る前にアンデッドがこちらに気づいた。さすがに照明と鎧の音がすれば気づくよね。
「マイちゃん、さっきの魔法、まだ使える?」
「問題なく。ただ、もう少し引きつけてください」
「そうすると敵が散開する可能性があるんだけど」
「アンデッドたちが攻撃してた壁に、なにかあるんですよ。できれば壊したくないです」
【暗視】があるからこそ気づいた。アンデッドたちが攻撃している壁になにかが埋まっている。大きな台座らしきものと、その上に鎮座する水晶のようなものが。アンデッドたちがあれを目的としているなら、傷つけるのは避けた方が無難な気がした。
ドワーフ二人も私の見たものを確認したため、了解した、とライラックさん。まだ呼吸が苦しそうな盗賊は休ませ、戦士四人で迎撃に出る。アンデッドの群れはこちらを包囲するように動くけれど、さすがは戦い慣れした戦士たち、アンデッドをうまく一ヶ所に集めるように動いていく。見事だなあ。
「氷!」
「よし、散れっ!」
周囲の霧が晴れるのが合図。戦士たちが飛びのき、集まったアンデッドたちに氷塊が落下する。
ドッシャ────────────ンッ!!
数十体がまとめて押し潰され、ただの屍に戻る。残った敵も簡単に掃討される。二度目だからか慣れたものだ。
そして一同は、アンデッドが発掘しようとしていた物の前に集まった。半分以上土に埋まっているけれど、軽く五メートルはありそうな大きな台座、その上に鎮座する巨大な水晶は薄く黄金色に明滅していた。
一通り調べた魔法使いが、観念したように肩をすくめた。
「かなりの魔力を感じるけれど、どんな目的の魔導具なのかはわかりませんね」
「だけどアンデッドが掘り出そうとしていたんでしょ。それなら奴らにとって不都合な代物じゃないの?」
「そういえば、まだ東にもアンデッドが集まっているんだったね」
女剣士の言葉にライラックさんが応え、ふと沈黙が下りた。私とヨナを含め、多分全員が、ある想像をしたに違いない。まさかとは思うけれど、これが────。
「これが封印!?」
全員の声がハモッた。もしそうなら猶予はない。
「東へ急ぐぞ」
異論などあるはずもない。全員が急いで東に向かって駆け出した。
◆
「なんとか間に合ったか」
最後の一体を斬り伏せ、ライラックさんが額の汗をぬぐう。
いや、本当にギリギリだった。東の封印がある場所に到着した時、封印はほぼ発掘されていて、仲間を踏み台にしたスケルトンが水晶に攻撃しようとするところだったのだ。ヨナが素早く炎の魔法を足場のゾンビに撃ち込んで、アンデッドたちの組み体操を崩したからよかったものの、水晶が傷つけられていたらどうなっていたか。
その後は、私たちに目標を変更したアンデッドたちを一ヶ所に集め、氷塊でまとめて押し潰した。残った奴らは戦士たちがサクサクと潰してくれたよ。
「あんな強力な魔法を三回も使えるとか……君は本当にFランクなのかい?」
「単に氷の塊を作って落としてるだけですから、攻撃魔法でもなんでもないですよ。水が無いと創れませんし」
疑念に満ちた魔法使いの視線をスルー。他の人の視線もスルー。
まあ、確かにやりすぎてる自覚はあるよ。でも、まだボスがいるかもしれないのに他の人を消耗させるわけにはいかないでしょ。その分、ボス戦では見物させてもらうからね。
その時、魔法使いを呼ぶ声がした。近くの柱に皆が集まっている。駆け寄ると、柱にもたれるように一体の白骨死体があった。服や装備もボロボロで何者かは判別できない。だけど、魔法使いが呼ばれたのは別に死体の鑑定のためじゃなかった。
「これ、読めるかい?」
神官が死者へ祈りを捧げるのを聴きながら、ライラックさんが柱を指差す。そこには、硬い物で柱を削って刻まれた文字があった。
照明を近づけ、魔法使いは難しい顔で呻る。
「古代語ですね。……待つ、攻撃……私だけ。水、魔物……呪い……ああ、翻訳用の本があればっ!」
悔しそうに魔法使いが髪をかき毟る。
……どうしよう。魔法使いが苦労しているのに、【自動翻訳】のお陰で読めちゃうんだけど。
『まさか、こんな結末が待っているなんて思わなかった。まさか、まさか──に攻撃されるとは思わなかった。あの場を離れられたは私だけか。だが、この傷では長くはないな。水の災厄の魔物め、まさか最後の最後で──に呪いをかけるとは。
封印用のオーブが発動しているだと? くそっ、──め、私たちごと──の城を封印するつもりか。最初からそのつもりだったのか、それとも──の異変を察知したか。どちらにせよ、私は助からない。
遠い未来、もし、この文章を読む者に忠告しておく。呪い───に気をつけろ』
どうやら白骨死体は、吸血鬼を倒すため城に乗り込んだメンバーらしい。所々、文字が欠けていて判読できないけれど、吸血鬼を倒した後、討伐メンバーごと封印されたようだ。忠告として呪いに言及しているので、呪いに対する備えは必要だろう。
魔法使いは不完全ながら翻訳を終えた。自分が読んだ内容とかなり違う文章になっていたけれど、それを指摘するわけにもいかない。これ以上、悪目立ちするわけにはいかないのだ。
幸い、呪いへの警告は伝わったので、皆で呪いへの対処を話し合うことになった。
「儂ら神官の魔法に呪いへの耐性を上げるものはあるがな……」
「はい。ですが、単純に呪いとの力比べになります。私たちの力が及ばなかった場合、皆さんを危険に晒してしまいます」
「効果時間も短いしのお」
神官二人が呪いへの対抗手段について説明する。口には出さなかったが、二人のランク的にも吸血鬼の呪いに勝てる可能性は高くないようだ。それでも、ないよりはマシだと思う。
問題は呪いの具体的な内容がわからないことかな。使ってくるのは多分、水の災厄の魔物なんだろうけど、方法とか条件がわからなければ神官に無駄に魔法を使わせることになるし。
「こればかりは、行ってみないとわからねえだろう」
大柄な戦士の言葉に異論はでなかった。
出たとこ勝負かあ。ゲームとかなら燃える展開なんだろうけどな。なんだか不安だ。
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