第43話 侵入するよっ
メンバーが決まると一時間の準備時間が用意された。アンデッドが相手となれば、必要な道具や装備が変わってくるからね。ゾンビやスケルトンならいざ知らず、銀か魔法の武器でしか傷つかないやつもいるし。
ギルドからはポーションが一人につき二本、特別に支給された。あと、今回に限り銀の武器を貸し出してくれるということだけど、無くしたりすると武器代金+αを支払わねばならないので、できるだけ自分で用意したい。
幸い、領主からの褒賞と薪集めにより収入がそれなりにあったので、私とヨナは銀のダガーを買った。さすがに銀の剣には手が届かない。いや、買えたとして、チビな私が剣を振り回すのはよろしくない。怪しまれるだけだ。
あとは、胸あてや手甲などの部分鎧を買ったら予算がほぼ尽きた。ああ、ヨナを奴隷から解放する日が遠ざかったな。
そして今、吸血鬼の城へ向かう十人は曲がりくねった地下道にいた。
「まさか、こんな道があったなんてな」
「知らないだけで、どの町にもあるんじゃないか?」
所謂、脱出用地下道というやつだ。城にあるのはわかるけど、町にまであるとは意外だった。まあ、ケイモンは西の隣国と近い方だし、用意してあっても不思議じゃないかもしれない。尚、使用に際しては、公言しないこと、と釘を刺された。
ちなみに十人の内訳はこんな感じだ。
・ライラックさん。
・大柄の男性戦士。Cランク。
・ドワーフの戦士。Dランク。
・女性神官。Dランク。
・女性剣士。Dランク。
・男性魔法使い。Dランク。
・男性盗賊。Dランク。
・ドワーフの神官。Dランク。
・私&ヨナ。Fランク。
西から攻め込まれることを想定して、出入り口は町の東側にあるという。松明とランタンの頼りない照明の中、黙々と十人は進……んでいなかった。各自、なにができて、どんな魔法が使えるのかを申告しながら進んでいる。いざ戦闘になってからじゃ遅いから当然だよね。
「それはそうとよ、Fランクのヒヨッ子が戦力になるのか?」
あとは私とヨナだけど、というところで盗賊がジロリとこちらを見ながら言った。多分、他のメンバーも、口にこそしなかったけれど同じことを思っているんじゃないかな。あ、ライラックさんは別だった。
「ヨナちゃんはたまに私が手ほどきしてあげたけど、かなりいい動きをするよ。ゾンビやスケルトン相手に遅れはとらないと思う。魔法も使えるんだよね?」
「は、はい。火と風の魔法を。まだレベルは低いですけど」
「ほ~ん。じゃあ、そっちのご主人様は、なにができるんだよ」
影に潜ったり、髪を操ったり、材料があれば一瞬で物を創ったりできます。……嘘です、言えません。
どうしようかなあ。確か魔法使いは火、土、光の魔法を使えるって言ってたっけ。ヨナが火と風だから、役割がかぶるのは良くないな。よし、かぶらない魔法を使えることにしよう。
「水、氷、雷、闇の魔法を。レベルは最高でも4だけど」
瞬間、シンと場が鎮まった。え、なにこれ。
「おいおい、下手な嘘はやめろよ」
「嘘じゃないですよ。ほら」
なんか疑われてるので、ついムキになって魔法を発動。水を出し、それを凍らせ、指先に電気を帯びさせ、松明の火を闇で隠した。ね、嘘じゃないでしょ? ……あれ? なんで全員、茫然としてるんですか。
「凄い。……君、王都の魔法学園に通わないか? 推薦状ならば私が用意するよ。だからぜひっ!」
再起動した魔法使いがにじり寄ってきた。って、近い近い。顔が怖いっ。推薦状とかなんなのさっ。
「あなたの推薦状に価値があるの? どうせ、学園に恩を売ろうって魂胆でしょ」
「し、失礼な! 才能ある若者を探すのは卒業生の義務なんですよ」
知り合いらしい女剣士の言葉に、魔法使いはムキになって反論する。魔法学園だの推薦だの、どういうことなんですか。誰か説明プリーズ。
と、女性の神官が前に進み出てきた。
「どうやら知らないようなので、お教えしましょう。魔法使いを名乗るのならば、最低でも二種類の属性を操らねばならないのです。多くの人は三種類の属性が限界で、四種類を操れる人は数えるほどしかいないのです。そんな逸材を、魔法学園がほおっておくわけはないのですよ」
知らないよっ!
え、ちょっと待って。ということは、あれだ。自分から「私、天才ですよ」アピールしちゃったってことか!? なんてこったーっ! 目立ちたくなかったのにっ。
「……念のため訊きますけど、五種類以上操れる人はいましたか?」
「そこまでの人物は、もはや伝説の中だけですね」
ギ、ギリギリで踏みとどまれたのかな。うっかり六種類操れるって言ってたらどうなっていたか想像したくない。
「理解してくれたなら話は早い。ぜひ、学園にっ」
「話は後にしよう。出口だ」
再び魔法使いがにじり寄ってきたけど、ライラックさんの言葉に場は引き締まった。突き当たりに階段があり、天井にマンホールよろしく蓋がついている。大柄な戦士が蓋を持ち上げると、そこは岩に囲まれた小さな広場だった。
「どこだ、ここは」
「町の東の森の外れですね。近くに小川があるはずですよ」
【オートマッピング】で位置を確認すると、薪集めのために来たことのある場所だった。確かに変な岩場があるとは思ってたけど、まさか脱出路があったとはね。……って、なんか全員に見られてる?
「霧で周囲が見えないのに、どうして言い切れるんだ?」
「……仕事で頻繁に森に入ったので。この岩場、不自然なのでよく覚えてたんですよ」
し、しまったー! 早々に位置確認した方がいいと思って逆に疑われた。フードを目深にかぶっているので表情は隠せるけれど、咄嗟に口からでた嘘は信じてもらえるだろうか……。
「……確かに水の流れる音がするな」
意外にも援護してくれたのは盗賊。全員が耳を澄ますが、聞こえるのは盗賊と私、ヨナくらいのようだ。周囲に敵の気配はなかったので、岩を登って外に出る。盗賊が先導して進むと、霧の中に浮かび上がるように小川が姿を現した。今度は違う意味で視線が集中してむずがゆい。
「大したもんだな。となると……あっちが東か」
「この霧じゃ、真っ直ぐ進めるかも怪しいわね」
とはいえ進まないといけない。お互いの姿を確認しながら、ゆっくりと進む。おっと、【索敵】に反応が。
「前から敵が来ます」
「なに? 気配は感じないぞ」
「こっちに茂みがあります。隠れましょう」
「おい、勝手に仕切ってんじゃ────」
「マイちゃんの気配を察知する範囲は広いよ。ここは従おう」
ライラックさんが口添えしてくれたので、皆は従ってくれた。文句を言いつつも盗賊も続く。茂みに身を潜めていると、やがて下生えを踏む音が聴こえてきた。濃い霧のヴェールの中を、ゆらゆらといくつもの人影が町の方へと歩いて行くのが見える。かすかに腐臭もした。
「マイちゃん、他に気配は?」
「少なくとも、私が感知できる範囲にはないですね」
質問に答えると、ライラックさんは皆に振り返って言った。
「さて、ここで皆に提案があるんだけど……先導はマイちゃんに任せた方がいいと思うんだけど、どうだろう?」
特に反対の声はでなかった。盗賊はいくらか不満そうだったけれど、結局はなにも言わなかった。
「反対もないようだし、マイちゃん、頼むよ」
「あはは……了解です。皆さん、ご協力をお願いします」
一同の顔を見回し、頭を下げると、思い思いの形で了解が返ってきた。
それからしばらく。戦い方やフォーメーションを相談しながら進む。
アンデッドを二回やり過ごし、たどり着いたのは英雄を讃えた碑石。その碑石が立つ丘の斜面にポッカリと穴が開いている。そこから魔力を帯びた霧が大量に溢れ出していて、ここが目的地ですよと、全力でアピールしていた。
ライラックさんが一同を見回して頷くと、ライラックさんと盗賊を先頭に、私たちは地下へと踏み込んだ。
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