第36話 ここに宝がありますよー(大声)
昼食は兎が三羽だった。どうやら護衛の傍ら、ライラックさんが狩っていたらしい。血抜きもされてるし、何気にすごい。
「うおおおおっ、肉だっ」
「昨日、さんざん食べたでしょうに」
肉を前に孤児たちは興奮を隠せない。昨夜あんなに食べたというのにね。
「お肉……」
あ。ヨナも興奮してた。なにも指示していないのに、包丁を持ち出してすごい勢いで兎を捌いていく。さっきまで別の意味で興奮してたのに、この変わりよう……。本当に肉食系女子だなあ。ちょっと違うか。
兎を捌くのはヨナに任せておこう。ケビンたちには火の準備をお願いして、私は近くの川に水を汲みに向かう。ライラックさんは……ああ、また誰かが寄ってきたので追い払ってるな。お疲れ様だよ。
【索敵】に食べられる野草を追加し、水汲みついでに摘んでいく。多少苦いけれど、肉と一緒ならいいアクセントになる。お、ハーブもあるじゃない。摘み摘み。
水を汲んで戻ると、ちょうどライラックさんも戻ってきた。焚火では串に刺された兎肉が炙られ、いい匂いをさせている。孤児たちは生焼けでも食べてしまいそうな感じだ。
「それ、まだ焼けてないからダメです」
「奴隷が
「美味しく食べたいなら待つんだよ」
というか、本当に手を出したわ。焼き役のヨナが止めたけれど、やはり奴隷という身分は発言力も弱いのか、孤児たちは言うことを聞かない。
幸い、ライラックさんが拳骨で叱ってくれたけど、ヨナの立場の弱さを再確認しちゃったなあ……。まあ、庇ってもらってヨナが嬉しそうなのが救いかな。
その後、ライラックさんの拳骨が三回落ちたあとに、ようやく昼食となった。
「食え、食うんだケビン!」
「や、やめ……ぐええええっ」
野草を食べたがらない孤児たちの口に無理矢理に野草を詰め込む騒ぎがあったけれど、昼食を終えたら再び薪創り。とはいえ、何度もヨナの精気を吸うわけにもいかないので、次に補給が必要になる前に終わらせないといけないなあ。
マイ様が望むなら、なんて頬を染めながら言ってるけど、いや倒れるからね、それ以上吸うと。
しばらく薪創りに集中していると、不意にライラックさんが速足で森の外に向かうのがわかった。【索敵】に新しい反応があったから、それを確かめに行ったんだろう。
しかしこの反応、人間と動物が同じ速度でこっちに向かってくるんだけど、乗馬か馬車か?
テントから出ると、結果はすぐにやってきた。ライラックさんと一緒に一台の幌馬車がやってくる。御者の男性がにこやかに話しかけてきた。
「いやあ、寒くなりましたね。スカハ山に雪はかかりましたか?」
「七合目あたりまでですね」
「そうなると、来月には雪が降りますか」
「明日にも降るかもしれませんよ」
なんだ、この会話。と思うだろうけど、これは合言葉。昨日の段階で打ち合わせておいたのだ。この御者がギルドから派遣された薪の回収者なんだろう。マナもそろそろ限界だし、いいタイミングだ。
ライラックさんに孤児たちを呼び戻すようお願いし、回収者をテントまで案内する。テントの中を確認した彼は、積み上げられた薪の束を見て感嘆の息を吐いた。
「まさか、こんなに確保されるとは……」
「運搬の方、よろしくお願いします」
「承りました」
彼を手伝って薪を積みこむ。戻ってきた孤児たちにも手伝わせる。
「どうやって、こんなに薪を集めたんだよ……」
「朝に説明した通りです。詮索は無用」
孤児院を出発する前に説明しておいた。今回の仕事は弱者を助けるためであり、詮索、他言は無用。もし言いふらしたりすれば、私はこの町にいられなくなるだろうし、ハンターズギルドにも迷惑をかける。そうなれば、暖をとれない人から死んでいくだろう、と。
思い出したのか、それからは誰もなにも言わず、ひたすら薪を積みこんだ。
「それでは、私は一足先に帰ります。計量の後、報酬は約束のところに」
「はい、よろしく」
積み終わると、薪を満載した馬車はすぐにその場を離れた。誰に見られるかわからないしね。その後、すぐにテントを畳んだ。
「それじゃあ、私たちも帰ろうか」
ライラックさんの号令で、私たちも町へ戻る。
町に入り、念のためギルドに報告に行く。一日、なにもせずに遊んでいたと思われても面倒だしね。受付のお姉さんに終わったと告げれば、一応のギルド証チェック。もちろん、犯罪なんかしてません。ちなみに報酬は商業ギルドの私の口座に振り込まれる手筈になっている。
ギルドを後にし、孤児院までケビンたちを送ろうとすると、なぜだかライラックさんまでついてきた。
「どうしたんです?」
「いや、まだ仕事してるフリをしたくてね」
【索敵】に反応は……ああ、あるね。どうやら仕事を終えたライラックさんに、ファンの女性からアプローチがあったようだ。まだ仕事があると言って断ってきたのか。イケメンも大変だ。
途中、報酬の確認のために商業ギルドへ。報酬の方は……おおっ、なんと銀貨八枚も。ライラックさんへの報酬を抜かれてこれだから、なかなかの収入だ。
とりあえず、銀貨三枚だけ下ろして外に。報酬の話をしまくる孤児たちをあしらいながら通りを進み、孤児院の前でようやく報酬として銀貨一枚を渡す。
「うおおおおおおおっ! 銀貨だーっ!」
「すげええっ、俺たち稼ぐの上手いんじゃね?」
大騒ぎだ。だからすぐに渡さなかったんだよ、スリのいいカモにされてしまう。それをわかったのか、ライラックさんも苦笑しながら、
「すぐに渡さなくて正解だね」
と言ってくれた。うんうん。
門前で騒いだために、マヘリアさんと子供たちが外に出てきた。マヘリアさん以外は銀貨で大騒ぎだ。
「あんなに……。良いのですか?」
「構いませんよ。彼らの労働の結果です」
まあ、確かに奮発してる。だけど、ケビンたちがいなければあれだけの薪は創れなかっただろう。暖をとれない弱者を救ったと考えれば、銀貨一枚の価値はあるんじゃないかなあ。
ああ、そうだ。ちょうどいいから、今伝えておこう。
「マヘリアさん、ちょっといいですか?」
「ええ、はい」
マヘリアさんを連れて孤児院の敷地内を進む。子供たちもぞろぞろとついてきた。
先月の強風で折れたという木の切り株のところまで来ると、地面を指差す。
「ここに、なにか埋まってますよ」
「え? 一体なにが」
「それは、わかりません。ただ、人工的な空間があるようなので、誰かが意図的に埋めた物でしょう。どうします?」
「え、お宝が埋まってるの?」
「すげえっ、すぐに掘ろうぜ!」
「バカッ、もう陽が暮れるから無理でしょ。掘るなら道具の準備をしないと」
マヘリアさんの返事を待たずに、子供たちは掘る気で意見が一致してる。これにはマヘリアさんも苦笑するしかない。
「じゃあ、明日にでも掘ってみましょうか」
わあっと子供たちが歓喜する。気分は宝探しなんだろう。今夜は興奮して眠れないんじゃないか?
その後、また一泊を勧められたが、宿をとっていると説明し、みなに見送られながら孤児院を後にした。帰り道、ヨナが袖を引いてきた。
「宿なんかとってませんよね?」
「うん、そうだね。……ライラックさん」
「なんだい?」
驚くヨナから視線を移し、ライラックさんに呼びかけると、呼ばれるのを承知していたかのような顔をされた。多分、お見通しなんだろう。このイケメンめぇ。
懐から銀貨を取り出す。
「追加料金を払います。もう少し、付き合ってもらえませんか?」
「わざわざ宝の場所を、孤児院の外で教えたことと関係してるのかい?」
「その通りです」
頷くと、ライラックさんは楽しそうに、悪い笑顔を見せた。
うわあ、こんな顔もするんだ。隣でヨナが硬直していた。
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