第26話 ハンターズギルドの成り立ち(受付お姉さん独演ショー)
ヨナの登録も終えて大銅貨二枚を支払う。異世界転生ものでは、ほとんどが無料なんだけどなあ。はぁ。
その後、ギルドについての説明を受けた。ハンターランクとランクアップについて。依頼の難易度とランクの関係。依頼の種類に報酬と手数料について。そして禁則事項などなど。かなり長くて項目も多かったけれど、大事なことなので、しっかりと聞いておいた。まあ、真面目に仕事をしている限りは問題など起きない規則ばかりなんだけどね。
「あと、先日規約が変更されまして。今まではランクアップ時だけしか犯罪歴を確認しませんでしたが、今後は定期的にチェックさせていただくことになりましたので、ご協力をお願いします」
「え、そうなの?」
「はい。ランクアップせずに犯罪に手を染めていた者がおりまして……」
エマさんとフラウさんも初耳だったらしくて驚いていた。まあ、二人は護衛の仕事で移動中だったろうし。
だけど、そうかー。アンシャルさんは約束を守ってくれたらしい。これで、憎き山賊どもは全員、なんらかの報いを受けたわけだ。ちょっとだけ心が軽くなったかな。残るは発端のペンゼル伯爵だけど、貴族なんて普通に生活してるぶんには関わることもないだろうしなあ。まあ、今は頭の隅に置いておこう。
受付のお姉さんの説明は続く。
「あと、ハンターズギルドは超国家組織なので、国同士の紛争には介入しません。ハンター個人で戦争に参加するのは自由ですが、その場合はハンターズギルドのバックアップは受けられません。また、戦争で得られた物品に関しても鑑定、及び買い取りはしませんので、ご注意を」
「え? ハンターズギルドって、そんなに力あるんですか?」
いち組織が国家の枠組みを越えるとか、あり得るんだろうか。下手をすると国と争うことになりそうだけど。
その疑問が顔に出ていたのか、受付のお姉さんの目がキラリと光った。エマさんとフラウさんが、さりげなく距離をとったのがわかる。え、あれ? ちょっと?
「そこを疑問に思うとか、見込みがあるわね。少し長くなるけど説明するわねっ」
ガシッと両手を掴まれ、お姉さんが熱く語り出す。……目が怖い。って、エマさんもフラウさんも、知ってて逃げたなっ!? いや、他のハンターも距離をとるなっ。誰か助け────。
「ハンターズギルドの前身が探検家ギルドなのは知ってる?」
「いえ、知りませんが」
「私も知りません」
ああ、ヨナだけは一緒にいてくれる。あとでなでなでして、いっぱいキスしちゃうから。
「遠い昔、今よりも優れた文明社会があったという話は?」
「ああ、定番ですね」
「……定番?」
「なんでもないです。知りません」
いかんいかん、過去に優れた文明社会があるというのはファンタジーではよくあるパターンだから、うっかり口が滑った。
「じゃあ、まずはそこからね」
知ったかぶりしておけばよかったーっ!
こうして、受付のお姉さんの講義が始まってしまったのだった。とほほ。
「エマさんもフラウさんも、知ってたんですね?」
「ごめん。話し出すと長いんだ、彼女」
「ごめんね~」
恨みがましい視線を受けて、二人が申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
いや、もう、受付のお姉さんの熱弁は凄かった。完全に語り手として『なり切って』しまい、時に身振り手振りを加えて演劇よろしく熱く語ってくれた。面白がるハンターたちが合いの手を入れるものだから、お姉さんも調子に乗って脱線すらする。ギルドマスターが止めに来てくれなかったら、いつまであの場に拘束されたかわからない。だって、誰も止めてくれないんだもの。ヨナなんか、あの熱にあてられてフラフラしてる。
もし、私たちがお姉さんに拘束されている間に、エマさんとフラウさんがお茶でもしてたら嫌味のひとつも言うところだけど、二人とも休憩所の一件をギルドに報告していたので文句は言いにくい。
さて、受付のお姉さんが語ってくれた話を要約すると。
遠い昔、今よりも優れた文明社会があった。これは確実。そしてお約束で滅んだ。原因は不明。世界規模の戦争説、新種の疫病説、大災害説、色々あるけれどハッキリしない。
どちらにせよ、混乱期があったのは確かで、人々はそこから国を復興させた。そんな大規模な復興期に、過去の文明を調査しようとする者たちがいた。それが探検家。だけど国は復興が第一で、過去の文明調査に資金を出す余裕なんてなかった。なので探検家たちは同じ志を持つ者同士のネットワークを作り、パトロンを探して独自に調査を始めた。その成り立ち上、少数精鋭にならざるを得ず、時の探検家ギルドには猛者がうようよしていたらしい。
そして探検家ギルドは世紀の大発見をする。混乱期に失われた魔法の復活だ。
各国は慌てた。探検家ギルドが魔法を独占すれば国家の脅威になる。他の国に奪われる前に我が国が魔法を手に入れなければ、と、すぐに探検家ギルドを取り込もうと動いたけれど時すでに遅し。探検家ギルドは国家の枠を超えた組織に成長していた。しかも所属しているのは猛者ばかり。加えて復活させた魔法つき。戦って勝てなくはないけれど、どれほどの被害を
探検家ギルドはもともと魔法を一般に普及させるつもりだったそうだけど、各国の苦悩を察して交渉に乗り出す。ようするに、
「魔法の情報を開示するから、今後も手を出すんじゃないよ? その代わり、国同士のイザコザには首を突っ込まないから」
ってことだ。こうして探検家ギルドは独立した組織となった。
遺跡の調査がメインだった探検家ギルドだったけれど、探検以外の技量も高く、やがて護衛や魔物退治も請け負うようになっていった。そして現在のハンターズギルドへと変化していった。これが、お姉さんが話してくれたハンターズギルドの歴史だった。もちろん、ギルドが今の形に落ち着くまでには色々とトラブルや危機があったんだけど、それらを語り出すとキリがないからはしょるよ。
あと、話に聞いていた通り、ギルドには動植物や魔物など、各種大量の書物があって自由に閲覧できるようだった。すぐにでも吸血姫について調べたかったけれど、商業ギルドに行ってアザリーさんとデザイン料の契約をしなくちゃいけない。受付のお姉さんの熱弁を聞いていて遅くなってしまったので、閲覧は後日にして、エマさんたちと一緒にギルドを後にした。
「……」
「ん、どうしたの?」
「いや、なにか視線を感じたような気がして」
なんだったのかな、今のは。
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