第25話 町はとにかくお金がいるね
「ハンターになりたいっ!?」
「ふえ~っ」
休憩中、エマさんとフラウさんにハンターになるための手続きについて質問したら驚かれた。なんでよ。
「いや、王都の親戚のところに行くんだろう? どうしてハンターになるんだい」
「アザリーさんとは次の町までの約束ですし、それにもうすぐ冬です。せめて春までは町で大人しくしていようかと思いまして。そうなると生活費を捻出しなきゃいけないじゃないですか」
「あ~、まあ確かに、雪が降ると移動もままならないからなあ……」
【マイホーム】があるので最悪、宿代は節約できる。だけど食事はそうもいかない。獣肉の備蓄はそれなりにあるけれど、野菜や穀物は手元にない。バランスのとれた食生活をしないと身体を壊してしまう。あ、ヨナがね。
さすがのアザリーさんも、雪道で馬車を走らせるリスクは頭にあるようだ。少し遠い目をしているのは、どこで見切りをつけるか考えているのかもしれない。
「……まあ、どのみちハンター登録は必要か」
「え、なんです?」
アザリーさんの意味深な呟きに聞き返すけれど、その前に、なにかを考えていたエマさんが口を開いた。
「まあ、未成年が知り合いのいない場所で自力で稼ごうとするなら、ハンター以外にないか。……わかった、手続きその他諸々、手伝ってあげるよ」
「あ、ありがとうございます」
「ただ、その代わり……」
「あ、あの、マイ様?」
馬の背に乗せられてヨナが戸惑っている。乗ったことがないらしい。私もないけど。
エマさんたちがハンター登録手続きを手伝ってくれることになったけれど、交換条件として出してきたのが、町までヨナを一緒に馬に乗せていくというものだった。
「心配しないで。私が支えてあげるから」
「で、ですが、どうして私を……ふにゃあああっ」
ヨナの後ろに乗ったエマさんが、ヨナの頭を撫でまわしている。あのクールな姿は微塵もなく、だらしない顔で小動物を愛でる、ひとりの女性がいるだけだ。……若干、目が怖いけども。こら、涎を拭け。
「ごめんね、エマったら可愛い物が大好きだから」
「まあ、そんな気はしてました」
苦笑するフラウさんに、こちらも苦笑して返す。ヨナを初めて見た時から、エマさんからは「撫でたい」オーラが出てたしね。交換条件を聞いても驚かなかったよ。
「いやああぁぁぁっ! 速い、揺れる、怖いいぃぃっ!」
町までヨナの叫びが途切れることはなかった。舌噛むなよー?
◆
「見えてきたよ。あれがジュノー領最北の町、ケイモンだ」
「おー、これは立派な」
夕方には町に着いた。頑丈そうな防壁に囲まれているので、パッと見は砦かなにかに見える。水をたたえた堀は幅も広く、町の入り口に続く橋は明らかに跳ね橋だ。その橋の前に馬車や人の列ができている。
「……戦争でも想定してるんですか?」
「そりゃまあ、魔物が大発生して攻め込んでくることが、たまーにあるからね。どこの町も似たり寄ったりで、ユリーティア山周辺だけが例外なのさ」
私が住んでいた町は、あそこまで守りを固めていなかったけれど、なるほど、そういう理由があったのか。しかし本当、町の外のことはなにも知らなかったんだなあ。実感したよ。
「……しかし、予想より早く着いたな」
手続きの列に並びながら、アザリーさんが独りごちる。
ふふふ、実は馬に【加速】をかけておいたのだ。ヨナと山歩きしてる時、頻繁に使っていたのでレベルは2に上がっている。レベル1だと目に見える効果はなかったけれど、レベル2になると、ささやかではあるけど体感できる程度には効果があるのだ。
しばらく待って私たちの番になった。
「身分証は?」
「そういうのは無いです」
「ならば入町金として、ひとり大銅貨一枚だ」
あー、そうか。そういうシステムなんだ。孤児院のあった町ではここまで厳密でなかった。孤児たちが薬草採取に町を出ることもあったけど、基本的に門番とは顔見知りなのでフリーパスだったっけ。あの町がゆるかっただけで、ここのやり方が普通なんだろう。アザリーさんは商業ギルドのギルド証、エマさんとフラウさんはハンターの身分証を提示していた。
幸い、アザリーさんに服を売ってお金はある。ヨナは奴隷で私の所有物扱いだけど、人間と同じインフラを使うために入町金は必要らしい。
町に入ると、乗り合い馬車の人たちとはお別れ。火傷をした人とセシリーさんがすごく感謝してくれた。なにかお礼を、と言われたけれど気持ちだけ受け取っておいた。アザリーさんには「欲がないねえ」と言われたけれど、そう言うアザリーさんだってポーション代を受け取ってないじゃん。
そして私たちはハンターズギルドへ向かった。アザリーさんはダダンの件と休憩所のことで別行動だ。
ハンターズギルドは大通り沿いにある石造りの立派な建物だった。中に入ると正面にいくつものカウンター。右手にはおそらく依頼が貼りだしてある掲示板があり、多くの人が掲示板とにらめっこしている。左手には休憩所らしき場所があって、何人ものハンターたちがなにやら話し合っているようだ。
ハンター登録できない年齢の子供の姿もチラホラ。彼らのほとんどは孤児で、荷物持ちなどでハンターからお金を貰っているのだ。私の知り合いも何度かやってたっけ。元孤児のハンターがよく利用してくれるらしい。
「この二人のハンター登録をお願い」
「はい、ハンター登録ですね。文字は書けますか?」
「大丈夫です」
エマさんたちに連れられて受付に。愛想のよいお姉さんが笑顔のまま、割と失礼に聞える質問をしてきた。まあ、これはしょうがない。この世界の識字率は高くない。かくいう私も、孤児院では文字の勉強なんてできなかったし。
じゃあ、なぜ大丈夫かといえば、EXスキル【自動翻訳】のお陰だ。町に着いて店の看板が読めた時、読み書きもできることに気づいた。
「私……書けません」
「大丈夫、私が代わりに書いてあげるから」
初乗馬のせいで若干ふらついているヨナの分も私が書いてあげる。ヨナのお母さんは貴族だけど、ヨナを育てるのに精一杯で文字を教える余裕がなかったと聞いた。機会があったら文字を教えてあげよう。
「はい、マイさん十一歳と、ヨナさん十歳ですね。……十一歳?」
お姉さん、どこを見ているんですか、どこを。というか、自分の胸と見比べないでください!
「す、すみません。背が低いだけでもう少し歳上かと。あと、顔を見せていただけますか?」
まあ、フードかぶってるし。というか、顔を見ないで胸だけで歳上判定したんですか。まったく。
「あれで十一歳……」
「成人したら、どこまで……」
外野もうるさい!
とりあえずフードを下ろす。目が合ったお姉さんがギョッとする。なんか周囲もどよめいた。え、なんですかこの反応。
「やべえ、美人じゃねーか」
「本当に十一歳なのかよ」
……あ、魅力が高いからそういう反応なのか。そういえばダダンも好色そうな目で見てきたっけ。まあ、受付のお姉さんの反応は目を見てなんだろうけど。
「生まれつきなんですってー。だからフードが手放せないのよね」
なにか言う前にフラウさんがフォローしてくれた。受付のお姉さんは、それで察したようだ。
「はい、確認させていただきました。では、こちらに掌をかざしてください。ハンター証にご自身の魔力パターンを登録させていただきます」
お姉さんが指差したのはカウンターの横に置かれた水晶玉。台座の上に鎮座する水晶玉は常に色が変化していて、明らかに魔法の物だとわかる。お姉さんは台座に鎖のついたプレートを差し込み、私に促す。
「あくまで、魔力パターンなんですね?」
「ええ、そうですが?」
「じゃあ、いいです」
「??」
魔力量とか調べられたら正体がバレるからね。
水晶に掌をかざすと水晶の色の変化が激しくなり、台座から金属をプレスするような音が響きだす。しばらくして音が止まると、台座から私の名前とハンターランクが刻印されたプレートが出てきた。ランクはF。ご丁寧に若葉の紋様つきだ。
「それが、あなたのハンターとしての身分証となります。町への出入りの際の身分証にもなるので、常に肌身につけておいてくださいね。登録料は大銅貨一枚になります」
登録料いるのかっ!?
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