第18話 はじめての吸精
クゥ……。
とっても可愛い音がした。どこから? ヨナのお腹から。
「ち、違うんですっ、これは。村に着いたらすぐに葡萄畑に連れていかれて、食事をしてなかったから、そのっ……」
お腹を押さえて真っ赤になるヨナ。うん、可愛い。可愛いからモフらせろ。
まだ日付は変わっていないだろうけれど、夜も遅い。この時間に食事をするのは身体によくないのはわかっているけれど、空腹だと寝ることもままならない。なにか食べるかと訊いてみれば、ヨナは恥ずかしそうにしながらも、はっきりと頷いた。
「火があれば肉を焼けるんだけどな」
「あ、私、着火ぐらいならできます。【火魔法:Lv1】なので」
なんと、私より優秀だったのか。あとで着火のやりかたを教えてもらおう。闇魔法以外はLv0とか、シャレにならないし。
さて、それじゃあ、肉と燃料を用意しますか。あ、その前に。
「ヨナ、二つだけ命令するね」
「は、はい」
「一つ、私の正体・秘密を口外しないこと。二つ、私の不利益になる行動をしないこと。いい?」
「はい、もちろんです」
「よし。じゃあ、【マイホーム】」
「ふぇっ?」
ヨナが変な声をあげる。私がなにを言ったのかわかってないんだろう。月明かりだけでは、目の前の半透明の扉は認識しづらいだろうし。その扉を手近な大木に設置して開けると、ますますヨナの目が丸くなった。鳩が豆鉄砲くらったみたいにポカーンとしている。手を引いて中に入ると、都会に出てきたオノボリさんよろしくキョロキョロと落ち着かないのが可愛い。
「どれがいい?」
「あ、あのっ、ここはどこなんですか!?」
獣を保管している倉庫に入り、どれが食べたいか問うと場所を訊いてきた。まあ、当然か。
「どう説明すればいいのかなあ。ここは私が作った部屋……みたいなもの?」
「なんで疑問形なんですかぁ」
「いや、私もよくわかってないしね」
「……じゃあ、鹿で」
EXスキルと言っても通じないだろうし、そもそもこの世界にないスキルかもしれない。なので、こういうものだと納得してもらうしかない。
ヨナはとりあえず、考えるのをやめたみたいだった。いい子だね。
リクエストに応えて鹿の脚を腿から切り離し、隣の倉庫から適当な大きさの木材を持って外に出る。ヨナには木材に火を点けてもらい、その間にヨナの家から持ってきた塩をもも肉にすり込む。そのまま手に持って大胆に焼く。あー、香辛料とかも探した方がいいだろうなあ。時期的に厳しいかもだけど。
久しぶりに食べた肉は、塩味だけだというのに美味しかった。ヨナも夢中で食べていた。
だけど、そうだなあ。薪だと消費が激しいから炭でも作ろうかな。本当ならば専用の窯が必要だけど、作り方はわかっているから【クリエイトイメージ】でなんとかできると思う。そんなことを考えながら食事を終えた。
食後は大鍋に水を汲んできて湯を沸かす。口の中の脂をすすいで流し、残った湯で身体を拭く。季節は初秋、さすがに外は寒いので【マイホーム】内で。玄関で二人して裸になって黙々と身体を拭くというのは、なんともシュールな光景だ。
奴隷生活のせいか、ヨナの身体はどちらかといえば痩せていた。歳相応の凹凸の無い身体だったけれど、これからたくさん食べさせればふっくらしてくるかな。
「あ」
「あ。あう……」
じ~っと観察しているとヨナと目が合った。見られているのが恥ずかしかったのか、顔を赤くして背を向けた。あ~、後ろからギュッとしたくなる。転生前にやったら両手が後ろに回るだろうけど、今は主人と奴隷だし問題ないよね。というわけで、ギュッ。
「はわわわっ!? な、なんでしょうかぁっ」
「うーん、なんとなく?」
「な、なんとなくって……」
戸惑いながらも拒否はしてこない。なので力を加減しながらモフモフしました。モフモフ。癒しだー。
「……マイ様。あたってます」
「なにが?」
「その……む、胸が」
ああ、胸が……って。
「んあっ!?」
「ま、マイ様?」
「あ、うん。なんでもないよ」
モフモフしてたら胸の先が擦れて甘い声が出ちゃった。変な気分になりそうだから、このへんにしておこう。
しかし、これから毎日、玄関で身体を拭くわけにもいかない。やはり【マイホーム】内にお風呂を作るのは急務だな。いや、どうせなら台所やトイレも作るべきだろう。だけど排水とかどうなるんだろう? いろいろ試してみないといけないだろうなあ。
身体を拭き終るころには日付が変わっていたかもしれない。私はともかく、ヨナは寝た方がいいだろう。ベッドが置いてあるだけのなにも無い部屋に案内すると、ウォーターベッドにもの凄く感激してくれた。
「うわ~っ、ふわふわですっ」
「ひとつしかないから一緒に寝ることになるけど、いいよね」
「そんなっ。私は床で大丈夫です」
「ダメ。一緒に寝るの」
ベッドに座り、隣をポンポンと叩くと、おずおずとヨナは隣に腰を下ろした。そのまま私の手をじっと見つめる。
「どうしたの?」
「この火傷、私を助けてくれた時のですよね……」
私の手を取り、ケロイド状の皮膚をいたわるように撫でるヨナ。そこは聖光で焼かれたところなんだけど言わないでおく。黙っていると、ヨナはなにかに気づいたように顔を上げた。
「マイ様は吸血姫。つまり、血を吸うんですよね」
「え……、うん」
「私の血を吸ったら、早く治りますか?」
あー、それに気づいちゃったかー。確かに人間の血を吸えば回復は早まるかもしれない。……でもなあ、できればヨナの血は吸いたくないなあ。なんというか、血を吸ってしまったら、ヨナを食料と認めてしまうような気がするんだよね。ヨナとはご主人と奴隷ではなく、吸血姫と食料としてでもなく、姉妹のような、友達のような関係になりたいのだ。
ヨナの表情は……うわ、すごく真剣だ。多分、助けてもらった恩を返したい一心なんだろう。ヨナの気持ちを無碍にしたくないし、どうしよう。なにかいい能力とかないかな……って、改めてステータスを見て気づいた。【吸血】の下に【吸精】ってある。これって、サキュバスの能力じゃないん? つまり、男性相手にあーんなことや、こーんなことをする能力で……。いや、男を相手にしたくないけど。
でもこれ、同性相手にも使える?
真剣な表情で見つめてくるヨナを見つめ返す。自分の好みドストライクな狐っ娘。とても可愛い。正直、抱きしめたい。キスしたい。あーんなことや、こーんなこと……したい。あ、想像したらもうダメだ。
「……ヨナ」
「はい、マイ様」
「血は吸わないけど、代わりにあなたの精力、吸わせてもらっていい?」
「もちろんです」
ヨナは即答。ああ、もうダメだ。
「うまくできるかどうか、わかんないけど────」
「っ!?」
そっとキスをすると、ヨナの身体が硬直した。だけど拒否されない。黙ってされるがままだ。
「嫌なら言っていいよ?」
「いえ。……マイ様のお好きなように」
顔が真っ赤だけど、拒否しないヨナ。瞬間、私の中の理性が限界を迎えた。ぶっつーん、てなものだ。
再びキスをし、そのまま二人してベッドに倒れこんだ。
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