第17話 ヨナに正体を明かしてみたよ

 どうも、こんばんは。奴隷の主になってしまったマイです。

 村で一泊を勧められたけど、人目につくのは嫌なので遠慮させてもらった。自分の目を見てヒソヒソ話されてたし、寝てる間に神官に包囲されたりとかシャレにならない。それに、ヨナも気が進まなかったみたいだし。

 そのヨナだけど、なんとあの村の出身らしい。病気の母親の薬代を稼ぐために町に出たら、奴隷として売られてしまったとか。ヨナが身売りしたにも関わらず、母親は亡くなってしまったようで、ヨナとしてもあの村に留まるのは辛いのだろうと思う。なので、墓参りだけさせて、夜中にも関わらずに出発した。

 幸い、ヨナが暮らしていた家はそのままだったので、毛布やら調理器具といった物は可能な限り持ってきた。これからの生活に必要だし。うん、私ひとりならどうとでもなるんだけど、これからはヨナが一緒なのだから、食事も作らないといけないし、部屋も用意しないといけないからね。

 そう、部屋だ。つまりそれは、ヨナに【マイホーム】の存在を教えるということに他ならない。いや、それだけじゃない。私の正体を明かす必要もあるはずだ。ヨナと一緒に暮らす以上、隠し事はできないと思わないと。

「あの、ご主人様」

「はい、それ却下」

「ふぇっ!?」

「私はヨナを奴隷扱いする気はないから」

 男ならば好みの女性に「ご主人様」と呼ばれてみたいと思う時が一度くらいはあると思う。私? もちろんあったよ。厨二全開の時にね。

 だけどね、日本人だったせいか奴隷の扱いがよくわからないし、ご主人様と呼ばれると背中がムズムズする。どちらかといえば、ヨナには「お姉ちゃん」って呼んでほしい。私より一つ下らしいから、ちょうどいいはずだ。あー、もう、甘やかしてモフモフしたいな、この狐っ娘は。めっちゃ可愛い❤ さあさあ、お姉ちゃんって呼んでプリーズ。

「……では、マイ様で」

「えー」

「あ、あの、奴隷と主人は、ちゃんと立場の違いをわきまえた呼び方をしないといけないんです。でないと私だけでなく、マイ様までも侮られます。特にマイ様は未成年ですから、人前では私に厳しいくらいでお願いします」

 面倒だなあ、奴隷と主人の関係って。だけど……うん、それは正しいか。奴隷は財産だから、日本なら小学生がベンツを個人所有しているようなものだ。ガキのくせに生意気な、なんて思われないためにも、私にはそれなりの威厳が求められるわけだ。……あるかなあ、威厳。どこかで落としたかもしれない。

 まあ、私もご主人様一年生だし、そこは頑張るってことで。……頑張れるかなあ。


 不・安・し・か・な・い。


 さて、村からだいぶ離れた。【索敵】にも人間の反応はない。私は背負っていた荷物を下ろし、ヨナにも下ろすよう指示した。

「ヨナ、今から大事な話をするね」

「は、はいっ」

「もし、私の話を聞いて、私について行くのは無理だと思ったら正直に言うこと。その場合は近くの町に行って、新しいご主人様を探してもらうから。ああ、ヨナに不満があるというわけじゃないから、そこは誤解しないようにね?」

 ヨナがすごく悲しそうな顔になっていくのでフォロー、フォロー。こんな可愛い狐っ娘に不満などあるわけないでしょうに。むしろ私の方が問題だ。

「私はね……人間じゃないの。実は吸血姫なの」

「……はい?」

 頭上に「?」マークを浮かべ、ヨナは首を傾げた。少しあって、その表情が硬直し、どんどん顔色が悪くなっていく。プルプルと震えながら、ヨナは言葉をしぼり出した。……ああ、プルプルしてるの可愛いなあ。

「き、吸血鬼って……。え、ええっ!?」

「あー、違う違う。吸血鬼じゃなくて吸血姫。まあ、何がどう違うのか、私にもよくわからないんだけどね」

「わからない……ですか?」

「そう。もともとは人間だったしね。気がついたら吸血姫になってたの」

 とりあえず真祖は今からでも出てきて説明するべきだと思う。

「まあ、そういうわけで。今、ヨナが間違えたように、他人からは吸血鬼としか認識されないみたいなの。実際、アマスの神官に攻撃されたし」

「ア、アマスと敵対したんですか!?」

「してないしてない。向こうが一方的に攻撃してきたの。今後、できるだけ正体は隠すよう努力するつもりだけど、バレたら間違いなく面倒に巻き込まれる。最悪、ヨナにも危害が加えられるかもしれない。……どうする?」

 できれば、こんな可愛い狐っ娘はそばに置いておきたいけれど、ヨナが危険な目に遭うのは避けたい。だからせめて、ヨナが後悔しない決断をしてほしい。そう願って問いかけたけれど、ヨナはさほど考えなかった。

「マイ様は、私が一緒では邪魔ですか?」

「邪魔なわけないでしょっ!」

「なら、マイ様と一緒がいいです」

 即答に即答。あ、ヤバッ、嬉しい。人間じゃないというのに、面倒事を抱え込むかもしれないというのに、私を選んでくれたことに、なんかキュンときた。

 気がついたらヨナを抱きしめていた。

「うわあああん、ヨナーッ!」

「わぷっ!?」

「ありがとうー! 本当にありがとうーっ!」

「お礼を言うのはこちら……く、苦しいですマイ様っ」

 ヨナの顔が胸に埋まってた。彼女の吐息が服越しに肌をなでると、なんだか背中がぞわぞわした。な、なんかヤバイな。このまま抱きしめていたら変な気持ちになりそうだ。

 名残惜しいけれどヨナを離すと、彼女は顔を真っ赤にして大きく息を吐いた。……相手を窒息させそうな胸ってヤバくないかな。というかヨナ、私と自分の胸を見比べて、見るからに落ち込むのはやめよう。大丈夫、ヨナはこれから成長期だから。

 ……きっと。

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