第12話 惨劇の葡萄畑で狐っ娘を見つけました

「やっぱりベッドはいいよねえ」

 ゴロゴロゴロ。ポヨンポヨン。

 おはようございます、マイです。ベッドで快眠、ご機嫌です。

 やはり寝るならベッドが欲しかった。でも、必要なスプリングを作れるだけの鉄材が確保できていなかったんだよね。だけど、頭を悩ませながら水浴びをしていた時、ふと思ったのだ。別にスプリングじゃなくてもいいんじゃない?

 そこで、今まで血抜き吸血してきた獣の皮を【クリエイトイメージ】でなめし革に加工。その革をベッドの大きさの長方形の袋にさらに加工。そして中に水を詰め込んだ。そう、ウォーターベッドだ。敷き毛布がないので革の感触そのままだったけれど、寝心地は最高。お陰で動くには問題ない程度には皮膚も再生した。質の良い睡眠はお肌にいいって本当だったんだ!

 みんなも夜更かしには注意だぞ。

「久しぶりのシャバだー」

 ドアを開け、青空を見上げる。ちなみに、ここは断崖絶壁の中ほどだったりする。【マイホーム】のドアは誰にでも見えるのが欠点で、人が近寄らないような場所に設置しないと確実にトラブる。

 森の中を歩いていて怪しいドアを見つけたら、あなたならどうしますか? うん、そういうことだよ。

 さて、身体はまだ本調子じゃないし、マナも全快していない。だけどそろそろ残りの二人を捜そう。

 ……なんだろう、捜そうと思うけれど、吸血姫として目覚めた時のような、心の奥底からふつふつと湧き上がってくるような怒りは自覚できない。質の良い睡眠で落ち着いた? それとも先の二人を結果的に見逃したことが関係しているんだろうか。

 まあ、下手に追いかけたらまた聖光で焼かれるかもだし、アンシャルさんだっけ? 彼女がちゃんと訴えて、二人が法で裁かれるのを願うしかない。

 さて、方角とか気にせず思いっきり聖光から逃げたので、ここがどこかわからない。【オートマッピング】と【索敵】を併用して地道にマップを埋めるしかないだろうなあ。

 いいのよ、マップ埋めるの好きだから。



 出発地点を中心に円を描くようにマップを埋めていくこと数時間。収穫といえば獣と、知ってる薬草がいくつか。【解析】を使うと薬草のどの部位に薬効、毒があるのかわかった。孤児院でも薬草採取でわずかなお金を稼いだりしてたけど、そうかー、この薬草は根が大事だったのか。そりゃ買い叩かれたわけだ。もっと早くこのスキルが使えていればなあ。

 はっ、いつの間にか両手いっぱいの薬草が!? いかんいかん。薬草採取しに来たわけじゃなかった。だけど人間の反応はないし、そろそろ陽も暮れてきた。一旦戻るか。

 すんすん……なんだ? 風に乗って良い匂いが……って、血の匂いだこれ! 血の匂いが良い匂いに感じるとか……、完全に人間やめちゃったなあ。

 なんとなく、血の匂いのする方へ向かう。怪我人とかいたら手当てできるかどうかわからないけれど、なにかしら情報が欲しいし。

 ……いや、これは期待薄かな。血の匂いが随分と薄い。出血して時間が経っているのかもしれない。それに腐臭も混じってきた。生きているかどうかも怪しい。

 景色は森から平地になり、行く手には壊れた柵があった。柵の中で育っているのは……葡萄の樹じゃないか。

 ええー、明らかに誰かが栽培している葡萄畑なんだけど、勝手に入っていいのかなあ。

 でも、壊れた柵に血の匂い。間違いなくなにかが起きてるはずだよね。索敵範囲に人の反応は無いし……それに、随分と薄いけど知ってる臭いを感じる。ちょっとお邪魔しまーす。

「これはひどいな」

 畑の中央は葡萄の樹がなぎ倒されて広場のようになっていた。そして転がっている死体がいくつか。うち二つは……捜していた山賊じゃないか。勝手に死んで……復讐の機会くらい残しておいてほしかった。

(……なんか、復讐できずに悔しいというより、虚しいな)

 憎しみを持続するには相当なエネルギーが必要だと聞くし、これ以上憎しみを持続しなくてすんでホッとしてるんだろうか? なんだか自分がよくわからないな。

 しかし死体の損壊具合はひどいな。血の渇き具合からして、死後数日かな。斬られたとかではなく、引き裂かれたとか引きちぎられた感じだ。そして地面に残された巨大な獣の足跡。一体、なにと戦った。


 ピコーン!


 おっと、【索敵】に反応。数人の人間がここに向かってきている。惨劇の場から離れ、葡萄の樹に隠れて様子を窺う。

 遠く松明らしき灯り。やってきたのは大人が数人。武装していないのでハンターではなさそう。彼らは柵の手前で止まり、なにかを押し出す。……いや、なにかじゃない、女の子だ。ワンピースのような服を着た女の子が、大人たちの指示に従って進んでいく。その顔は恐怖に歪んでいて、自分の意思で進み出ているわけではなさそうだ。

 女の子の金髪が月明かりに照らされて輝く。少しくすんでいるけど綺麗な金髪だ。

 だがしかし! 注目すべきはそこじゃない。彼女の頭頂部から飛び出しているモノに目が釘付けになった。それは髪色と同じ金色の……獣の耳! 服の裾から覗く、同じく金色のモフモフ尻尾。

 き……狐っ娘だーっ!

 みんなは犬派? 猫派? 私は断然、猫派です。だけどイヌ科の狐っ娘はもっと大好きです!

 狐っ娘は泣きながら惨劇の場へと進んでいく。いったい、なにをする……いや、あの大人たちは狐っ娘になにをさせるつもりなんだ?

 狐っ娘は死体の転がる広場に到着すると、その場に腰を下ろした。

 ……ん? なんか地面が揺れてるような気が。しかも近づいてきて……る?

 【索敵】には反応はない……って、そうだ! 今は索敵対象を人間だけにしてるんだった。慌てて対象を人間以上の大きさの生命体に切り替えた途端、でっかい反応が現れた。それはもの凄いスピードで山の方から駆け寄ってきて────。

「ひっ!」

 狐っ娘の目の前に着地した。

 金色の毛並、鋭い牙、太い二本の尾。それは巨大な狐、妖狐だった。

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