第7話 尋問しよう
は、ははは……。
いやもう、なんというかね。生き返ったらアンデッド(?)だよ。ちょっと、いや、かなり……どうなのよ。はぁ。
ただ、吸血姫という種族の話は聞いたことがない。孤児院があった町にも小さいながらもハンターズギルドがあったので、そこに出入りするハンターから魔物の話は聞いたことがある。吸血鬼の話も聞いたことがあるけれど、大体、私たちがイメージするそれで間違いない。そう、人類の敵だ。
なので、私がなってしまった吸血姫が吸血鬼と別の種族なのか、それとも単に真祖に蘇らせられた存在が吸血姫と呼ばれるのか。それによって私の今後の運命は決まる。う~ん、どこかで情報を集めたい。
とりあえず吸血姫については保留。
で、すべての元凶である不運についてなんだけれど、運の数値が微妙なことになっている。50もあって不満か、と言われそうだけど、幸運に恵まれるとは言いにくい数値じゃないですか。
幸せ量一定の法則から逃れられたかどうか、現時点ではわからないなあ。そういえば女神様も、「多分、解放される」としか言ってなかったっけ。勘弁してほしい。
おっと、また死体だ。しかも複数。一人はマンヴィルの護衛で、あと二人は山賊か。ああ、こいつは楽しそうに顔を踏んできたやつで、もう一人は折れた足を蹴ってきたやつじゃないか。あの時の痛みは尋常じゃなかったぞ。私に復讐させないで死んじゃうとか許せないな。
ムカついたから蹴り飛ばし……いや、やめよう。腹いせに八つ当たりなんて、マンヴィルが私にしたことと同じゃないか。やつと同じレベルに堕ちることもないよね。
死体をそのままに通路を進む。血の匂いに思いっきり後ろ髪引かれたけど、進むの!
……む、通路が二手に分かれた。山賊も二手に別れたみたいで、臭いはどちらの通路にもある。どちらかというと、臭いは右側の方が強いかな。よし、右側に進もう。
しばらく進むと風を感じる。風に乗って血の匂いがする。なるほど、よく見れば地面に点々と血の跡が。こっちの方が臭いが強かったのは出血のせいか。
……うん? 行き止まりか? 突き当りの壁から微かに光が漏れているのは亀裂が入っているのか……いや、違う。これ壁じゃない。大量の蔓草だ。
蔓草をかき分けて外に出ると、そこは森の中。振り返れば周囲の蔓草を寄せ集めて出入り口をカムフラージュしてあった。あいつら、ここでの仕事、長いんだなあ。
陽は高い。山賊に襲撃されたのが夕方くらいだったから、襲撃から半日以上経過しているのか。
ううっ、しかし暑いな。全身から汗が噴き出してきたよ。なんか身体が微妙にダルイし、追跡するのが面倒になってきたなあ。
………………。
………。
いや、ちょっと待とうか!?
慌てて隠し通路に戻る。そしてステータス確認。
……あああっ、やっぱりぃ! 【弱点:日光】ってあるじゃないか。なにも考えずに外に出た瞬間、じゅっ! てなった可能性があったわけだ。危ねえぇぇっ!
え。じゃあ、なんで身体がダルくなったくらいで済んでるの、私。
おそるおそる、手を日光の下に出してみる。チリチリと軽い痛みを感じるけれど、問答無用で煙を上げて炭化するようなことはない。多少の影響はあるけれど、なんか抵抗して、る?
あ、ひょっとしてこの【全抵抗力上昇】ってEXスキルのせい? これが弱点である日光に耐性を持たせてくれてるとか。
各スキルや種族特性などの説明はステータスだけじゃわからない。確かハンターズギルドに行けば、魔法や魔物、そしてスキルに関する資料が読めると聞いているけれど、そこにEXスキルの説明は載ってないだろうなあ。
とりあえず、これも保留。まずは山賊を追うのを優先。昼間だから移動しているかもしれないし。各スキルは時間ができたら色々試していくことにしよう。
意を決して外に出る。身体のダルさに耐えながら、血の匂いを頼りに追跡を開始した。
山賊は川に寄って傷口を洗ったみたいだ。その先は臭いが薄くなったけれど、まだなんとか追跡できる程度には残っている。すぐに追いかけてよかったな。
「ここか」
小さな横穴の中に臭いが続いている。雑にだけれど、入り口に私の身長ほどもある倒木を立てて隠しているので、ひょっとしたらいくつかある隠れ場所の一つなのかもしれない。
倒木を押してみる。……ひょい。
片手で持てたよ、おい。ステータスを見ると日光の影響でか筋力が20ほど下がっていたけれど、それでもこれだけの木を持ち上げられるのか。恐ろしいな。
「誰だっ!」
奥から声がした。奥にボンヤリと灯りが見える。どうやら、あまり深くはなかったようだ。
倒木を投げ捨て、中に踏み込む。入り口は狭かったけれど奥はそこそこ広い。地面には麦藁が敷いてあり、木箱がいくつかある。その木箱の上にランプが置いてあって、その光に照らされているのは褌(ふんどし)一丁の山賊だった。
なにが悲しくて野郎の裸を見なければならないのか……。
もちろん、山賊も肉体美を披露するために脱いでいたわけじゃない。傷の手当てをするためだ。腕や脚に血が滲んだ布が雑に巻かれているけれど、どうやら服を裂いて包帯代わりにしていたようだ。なるほど、着る服がないからか。露出狂じゃなくて良かった。
そういえばこの世界、下着って割と高価なんだよね。庶民は基本的に穿いてない。……まあ、男は固定しないといろいろと動きにくいせいか、褌みたいに布を巻きつけているんだけど。
閑話休題(それはさておき)。
「見つけた」
「お、お前はっ!? 生きていたのか!」
「残念ながらねー」
山賊は追って来たのが私だと知って、跳び上がるほど驚いている。だけど、急にその顔がだらしなく緩んだ。
「へ、へへっ。なんだよ、気が変わったのか?」
……は?
……あ、そうか。私、全裸だわ。いや、服がないんだからしょうがないじゃん。血まみれの山賊の服を剥いで着る気にはならないし。ああ、でも、川で血ぐらいは洗い流しておくべきだったな。なるほど、山賊が私を見て驚いたのは、血まみれの姿だったせいもあるのか。
「ぐああああっ! な、なにしやがるっ!」
「は? そういうあなたは私になにをしたの? もう片方の指も潰されたくなかったら質問に答えなさい」
革靴の上からだったけれど、骨と肉が潰れる感触があった。すぐにでも手当しないと────ここで手当てできるかどうかは別として、もう片方の指まで潰されたら歩けないだろう。さすがに山賊もそれに気づいたようで、一気に青ざめて首を縦に振りだした。うんうん、素直が一番だよ。
というわけで、尋問を開始しようではないか。
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